第4話 タイトルあらすじ

 うちのめされた俺は川を前にして、ふと考える。死のう。あ、できないことは言わないでおこう。しかし、あの、月とスッポン並みの差はなんだ。ベンチに腰掛けてスマホで検索してみる。長文タイトルの秘密の謎がなんとなく解けた。そうか、表紙イラストの代わりか。


 思えば、ウェブの小説を検索するためには「キーワード」が必要だ。「タイトル」そのものもキーワードとなる。それから、あらすじ。俺はタイトルとあらすじ、すなわち「タイあら」なるものの存在を知る。タイトルとあらすじができていないと、本文を読んでもらえないということをはじめて知った。


 しかし、どうにも納得ができない。タイトルとあらすじをよいものにしようと思うと、〇〇戦記はどうしても、説明しにくい。主人公はそもそも有能な戦士でもなければ、学生でもない。誰かに共感してもらえるような人間ではなかった。俺の憧れの狼男が主人公だ。転生したわけでもない。ただ、凶暴なままに人を襲っていたが、ある日、人間の少女を助けたことにより人の仲間ができ、次第に人間の軍に参加していくという話。戦闘シーンでは負けることも多いからキーワード「俺TUEE」が使えない。「ざまぁ」するわけでもないから「ざまぁ」も使えない。人気キーワードの「追放」も使えない。追放されてないから。野良の狼男だから。


「俺の物語はこんなに面白いのに。こんなに工夫したのに。キーワードがないだけで読んでもらえないなんて」


 胸が詰まった。PVは今日も安定の4を記録している。あれ? 一時間に4ずつだ。合計12だ。十を超えた! やった。俺は一日に十人に読まれるようになったぞ! 

 だけど、すぐに書籍化した作品のことが脳裏をよぎる。あれは、一時間に万単位でのアクセスがある……。川に飛び込みたい――。


 ラインの通知が入る。


〈リクー。僕も投稿サイトはじめたんだ〉


〈なんで?〉


〈なんでって、リクが勧めてくれたじゃんか〉


 俺はすっかり忘れていた。画伯にも投稿サイトをすすめたんだ。


〈なあ、リク。ここって、PV数3とか普通なのかな?〉


 俺は安心してしまった。なんだ、一次選考を通過した画伯も四苦八苦しているではないか。とりわけウェブの投稿サイトは公募勢には厳しい場所だった。

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