2話 B地区第弐号養殖試験場 その1
「休養日は7日に1日。休養日には街への外出も許可されるが門限は守らなければならない……」
黒と白のツートンカラーの正規軍の服装に身を包んだ人物が話す。
凛とした表情に背筋の伸ばした
現在、B地区第
(彼……藤原詩音についていけば生き残れる可能性が高い!)
けれども、俺の頭は3人目の試験場行きメンバーのことで一杯だった。
藤原詩音……主人公からはシオンの愛称で呼ばれている彼は学年編の3年目に現れる武家出身の転校生だ。
彼の両親は売国奴の扱いを受けており、両親の汚名を晴らすために若年ながら戦地へ身を投じていたシオンは、実戦経験者として特待生待遇で学園に転校してくるのである。
同年代の実力者を呼び込むことで学年の生徒の競争心を煽る目的だ。
だが、学園にも藤原家の悪評を知る者がいて、彼らが噂を広めることによってシオンも周囲の学生から腫れ物扱いを受ける。
頼れる味方のいない彼は登場当初グレており、ところ構わず喧嘩をふっかける暴犬だ。
しかし、彼の家系の悪評を気にせずに真摯に接する主人公に恩情を感じたシオンは、主人公の夢である世界平和に力を貸してくれることになる。
……もちろん、ただそれだけのキャラだったならば前世の俺が覚えているワケがない。
つまり、彼もまた不遇な方面で有名なネタキャラなのだ。
シオンのあだ名は『神妹引換券』
もう一度言おう。
『神妹引換券』である。
加入時点でレベルが高い彼は即戦力ではあるが、初期レベルが高い分、自由に振り分けられるレベルアップボーナスを使って能力を特化型にしにくく、悪くいえば器用貧乏、良くいって劣化主人公枠である。
学園編が終わり、最終戦争編に入った時点で戦力外通告不可避なのである。
さらに、彼に追い打ちが降りかかる。
彼を仲間に引き入れることで仲間フラグが解放される彼の双子の妹、藤原花音(ふじわらかのん)が支援ユニットとして作中トップクラスに有能なのである。
結果、仲間フラグまで進めた後のシオンは完全に放置され、カノンとのイベントフラグだけを進めるプレイヤーが続出することとなる。
妹にレギュラーメンバーの座を奪われる兄。
そんなシオンに付けられた名前が『
俺が見てきたRTA走者たちも、仲間になった後に彼とのイベントフラグを進める人間はいなかった。
「貴様たち3人の内から毎日2人を現場に向かわせ、1人は残って基地内の雑用を行ってもらう……」
(だけど、問題はシオンが学年編の終盤まで確定で生き残っていることだ)
そう、学園の3年次に転入してくるということは、シオンがそれまでに行ってきた家族の汚名を晴らすための戦い全て生存をしているということだ……今回の養殖試験場も含めて。
もしかしたら、部隊が全滅してシオンだけが生き残っている戦いもあるのかもしれない。
それでも2年後までの生存が確定している彼に付いていったほうが、土帝一人で行動するよりも遥かに生存確率が高いだろう。
(そう……彼こそが生還の鍵)
死刑寸前のようなクソみたい状況で前世の記憶を取り戻すことになって、神というのはクソ野郎の代名詞だと思っていたけれども、この世に神の救いはあったのだ。
護送車でのファーストコンタクトは失敗したが、何とかして彼と仲良くならなければならない。
「出撃組のローテーションは既に決めてあるが、もしも模範的な態度でなければ……」
「(絶対に生き延びてやる!)」
席を立ち、右腕でガッツポーズを決める。
人間、生き残る希望が湧けば気力もまた湧いてくるのだ。
考えてみれば、色白く不健康な身体だが、文化部だった前世とは違って遥かに逞しい……細マッチョと呼んでも良いこの二の腕のなんと頼りになることか!
(ほら、頼りになるその証拠に周りの目も俺に集まって……アレ?)
「あっ」
「坊主……お前やっぱ馬鹿だよ」
「変なヤツ」
「土帝訓練生、今日の居残り組は貴様だ。模範的な態度というモノについても丁寧に教授してやるから覚悟しろ」
呆れた顔を向けるオヤジとシオン、そして、怖いぐらい無表情な宮崎准尉の顔がそこにはあった。
「あっはぃ……」
「ここでの返事はハッ! だ」
「ハイ! あっ……ハッ!」
「よろしい。それでは今日の前線勤務は藤原訓練兵と
「「ハッ!」」
……とりあえず、今日だけは生き延びられそうである。
こちらを引いた目で眺める彼……シオンと仲良くなる機会は遠ざかってしまったみたいだけれども……。
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