七 海
一フロア全て一人暮らしで借り切るのは手広すぎる。
西向きの部屋は調度も含めて日焼けしそうで使っていない。
掃除機をかけるときぐらいしか入らないからきっと、
――私以外の何かが棲んでいるのだろうな――
と撫子さんは考える。
北西の窓を開けて空気を入れ換えるのは黄昏時、
遥かの左手足柄の山脈に隠れんとするは日輪。
橙に照らし出される眼下の町並みは地平まで延々と続く。
背の高い建物は隠れ岩。
その陰は長く青みを宿す。
吹き込んでくる風が撫子さんの顔を洗う。
黒く、素直に長い髪が部屋の奥へと吹き流れる。
海が見える。
やがてこの街を沈め飲み込み茜や神鳴りに煌めく未踏の大地へ連なる海が見える。
水底の都市が夕光を浴びて橙に輝く。
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