四  (・ん・)

雲の隙間の目立つ昼下がり。

 thy の三階から撫子さんが降りてくる。

 一階の美容室にいた遥さんが目聡く見つけて手を振ると撫子さんは、

邪気の無い笑みに目を細めて、

カーディガンの袖に隠れ気味の手のひらを、

指を立てて小刻みに降りながら、

渡りを渡ってゆく。

「今の、オーナーですよね」

 日の浅い美容師が遥さんに尋ねる。

「そうよ」

「あれじゃ、女子高生ですよ」

 何か、変、

と笑うマネージャーに驚く美容師がおかしくて、

店長もくすくすと笑う。




 駅前。

 制服の少女達より撫子さんは確実に、頭一つ分背が高い。

 その撫子さんが、

口をとがらせながらしきりに携帯の画面を確かめるのはどこかかわいらしい。

「ごめんごめん、携帯持ってきてたんだ」

 待たせていたのは、撫子さんより頭二つ分背の低い女の子。

「いくよ」

 セーラーカラーを翻す勢いでその子はきびすを返すと、撫子さんの前を歩き始める。

 ついて行く撫子さんの面持ちは、

見守るようでもあり、追いすがるようでもあり。


 少女が数多の店を冷やかしながら、

何か話しかけようとも、

二人の会話はかみ合わない。

 恐怖映画の掛かる映画館前で

「見てかない」

と訪ねてきた少女に撫子さんは答えない。


 やがて駅前で分かれた後、一人で電車に乗る撫子さんに一通のメール。


「今日もまた

(・ん・)

って顔してたね。

歩いていても、話しかけても、笑うときも困るときも君は

(・ん・)

って顔。

おもしろい。


また、遊ぼうね」

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