二  破壊

 女性でも、太い声は出る。

 人前での怒りでなければこそ根源の憎悪の支配に身をゆだね、

その声はもはや言葉にできなくなる。


 蛍光灯の青白い光が不健康ですらある地下室、

打ちっ放しの壁、

黒ペンキで無造作に描かれた三人のシルエット、

デブ、

ノッポ、

小柄なロン毛は女性か。


 撫子さんが声を張り上げる。

「う」でも「あ」でもない、

濁声にもならない絶叫の中次々と磁器を投げつけてゆく。


白いブーツ、

ロンググローブ、

ロングスカート、

レザージャケット、


コンクリの壁、

蛍光灯の光、

砕け散る破片、

反響する憎悪。




 暗闇の階段を上がってくる撫子さんは、

白い顔を落ち着かせ、

スタジオの若いマスターに会釈する。

 真夏の日差しの降り注ぐ街に向かい、

浅黄の小花柄ノースリーブに合わせた、膝下レースのサーキュラーを揺らしながら。


日傘を、携えて。

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