06話.[偉そうに考えた]
やっぱり自分が決めたことだからというのと、なにより、相手が決めたことだからということで動くことはしないでおいた。
言ったところでこいつは聞かないと判断したのかそのことを言ってくることはなくなった。
これでいい、香澄が動いてくれなければどうにもならない話なんだ。
「もう七月になるわね」
「だな、杏奈は夏休みにどこか行く予定とかあるのか?」
ちなみにこちらは毎年なにもない。
それでも去年は小学生ぶりに沢山香澄と過ごせて楽しかった。
色々なところに行ったり、それこそ一緒に勉強をやったりもした。
夏祭りのときも他よりこちらを優先してくれて嬉しかったのもあったので、無理して奢りまくったぐらいだった。
「あると思う? 課題とかをやって過ごすだけの夏休みよ」
「家族と不仲なのか?」
「あ、お兄ちゃん以外とは、というところね」
ということは渋々行くことになったわけではないということだからよかった。
家族の中でひとりとでも仲良くできていればそれで十分だろう。
ひとり孤立しているということなら相当面倒くさいことになるから余計にそういう風に感じる。
「でも、今年はあんたや真に付き合ってもらうつもりだからそのつもりでいなさい」
「おう、どんどん誘ってくれ」
未だに連絡先を交換していたりはしていないがな。
真は香澄とも杏奈とも交換しているみたいだからリア充だ。
こちらも特に不満もないが、差があることを分かったときには複雑になるもんだ。
これもまた自分から動くことはできないから多分、一生知らないままで終わるだろうな。
「あ、そういえば――」
ん? なんで言うのをやめたのかと不思議に思っていたら何故か香澄がいた。
彼女に用があるんだろうなーなんて考えていた自分、だが、違うことはすぐに分かった。
香澄は俺の目の前までやってきてばっと見つめてきた。
迫力がありすぎて逃げたいぐらいだったのを我慢し、なんとかこの場に留まり続けているが……。
「あっ……」
分かる、言葉が上手く出てくれないときというのは実際にあるんだ。
……去年の夏に告白しようとしてしまった自分が正にそうだった。
言葉を発しようとすればするほど突っかかるから質が悪いよく分からないことと言える。
「どうしたのよ?」
「あ……こ、コハダ君に用があって」
「健也に? そう、なら連れていきなさい」
いや違う、別に教室だから言えないというわけではないんだ。
でも、確かにこのままだともやもやしそうだから連れて出ることにした。
なにかを言ったりすると焦らせて余計に駄目になるから待つことにする。
「け、けけ、健也」
「どうしたんだ?」
「……なんかあれからずっと集中できていないままなんだ」
あれからというのは俺が余計なことを言った日のことか。
悪かったとかなり遅くなったが謝罪をしておく。
勘違いしないでほしいのは構ってほしくてあんなことを言ったわけではないということだ。
彼女がそう選択して動き続ける限りは頑張って合わせるつもりでいる。
その場合でもあのふたりがいてくれるだろうからなんとかできる。
「この前なんかやる気がないって顧問の先生に怒られちゃった」
「そこまでなのか……」
そうなってくると話が変わってきてしまうな。
それだったら形だけでも、挨拶だけでもするような関係に戻った方がいい気が。
極端なことをしてしまったら大抵はこうなってしまう。
とはいえ、変えた方がいいと言ったところで変えてくれるのかどうかは分からなかった。
俺が馬鹿な想像から離れていた、とかならよかったんだが……。
「香澄には悪いんだけどさ、俺が香澄といられないと嫌なんだ」
結局、このままだとふたりとも自然にはいられなくなってしまう。
だって香澄といられないそれを埋めるためにふたりを利用していることになってしまうから。
よく考えてみなくてもよくないことだから変えられるなら変えていきたい。
そのうえで関わるということなら俺は引っかからずに気持ちよくいられるから頼むと、全部ちゃんと言っておいた。
正直、いまのを聞いてしまったから、というのもある。
「あ、嫌なら挨拶をする程度でもいい、だから――っと!?」
……まあ、言ってしまえば彼女らしいなで片付けられることだった。
とりあえず離れてもらったうえに落ち着いてもらう。
何度も相手が云々と逃げてきた俺だ、相手がこうして動いたということなら拒むことなんてしないから安心してほしい。
「で、どうなったのよ?」
「お、いたのか」
「だって気になるでしょ。倉田、これからどうすんの?」
「あ……だからつまり、これからは一緒に――」
「それでいいのよ、極端な選択はするべきではないわ」
だからって遮らなくていいと思う。
ただ、杏奈はずっとそう言っていたわけだから理想通りになって嬉しくなった可能性もあるので、特になにかを言うことはしないでおいた。
つか、いまああやって言えたのだって真や杏奈のおかげと言ってもいいわけだからな……。
「これでぼけっとした健也を見なくて済むからありがたいわ」
「ぼけっとしていたの?」
「そうよ、あんたといられなくて嫌なのに強がっていたお馬鹿さんだったからね」
本当のことだから仕方がない。
今度なにか礼をしようと決めたぐらいだった。
「まったく、あんたも香澄も面倒くさいわね」
「よくすぐに名前で呼べるよな」
「あ、昔からこうだったからね」
「あ、俺は別にいいからな? ただ、俺にはできないことだからすごいなって」
元々少し前から関わっていたことは分かっている。
同じ学校、同じ学年、教室もそう離れているというわけではないから基本はそんなもんだ。
おまけに真は普通に毎日話していたわけだからそういうところを目撃することもある、というところで。
「こういうところが長続きしない理由なのかもね」
「そういうわけではないだろ、俺はそれをしていなくても続いていないんだから――あ! 俺と杏奈が全然違うというのは分かっているからな!? 俺はただ、名前で呼んでしまったことがその理由にはならないって言いたかっただけなんだ……」
「なにひとりで慌ててんのよ……」
いやでも、かなり失礼な発言をしたのは確かだ。
自分と同じレベルみたいな言い方をしてしまうのは本当によくない。
世話になっておきながらこれって……と悲しくなったぐらいだった。
「私は別に自分が上だとか、相手のことを下の人間とか考えたことはないわ」
「でも、嫌な気持ちにさせたかもしれないから……悪かった」
「だから気にしてないわよ、あんたって本当に香澄から聞いていた通り悪く考えがちよね」
「ああ、成長したのは身長だけだ」
変えようと意識したところで根本的なところが変われていないからこうなる。
で、こんなことをしている内に誰かに迷惑をかけてしまうということだ。
完全に迷惑をかけないで生きていくなんて不可能なことは分かっているが、それでも減らしていかなければならないというのにずっとこれだから困っていた。
「そんな顔をしない、香澄が不安になるじゃない」
「わ、私がどうしたの?」
反応をする前に香澄が現れて少し驚いていた。
部活をしているからこそ静かに移動できるということなんだろうか?
見ていた方向的に全く気づけなかったわけだが、そういう近寄り方というのはなるべくやめてほしかった。
男なのにうわあ!? とかベタな反応をしそうになるから。
「あ、こいつがすぐに悪い方に考えるから気になっているのよ」
「……健也はずっと前からそうだったからね、でも、相手のことを悪く言うことはないからそこは安心できるんだけど」
「まあそこはね」
ふたりがこうして集まるとすぐに俺のどこどこが駄目、直した方がいいという話になる。
もう姉とか母親とかそういう存在なのかと思えてくるぐらいだった。
まあでも、話に出てくるところを直したらいい方に変わっていけるのは分かっているからなあ。
だから感謝こそすれ、というやつではないだろうか。
「本当にもったいないのよね、なんでこんな風になってしまったのかしら」
「うーん、ひとりの時間が多かったからかも」
「あんたが構ってあげなかったからね」
「そ、そこまで私に影響力はないよ」
ひとりの時間の多さというのは間違いなく影響している。
あとは毎日必ず来てくれていた香澄の存在も大きい。
小学時代はともかく、中学時代のときは部活があったのに付き合ってくれたわけだからな。
それが多くなればなるほど迷惑をかけてしまっているという考えになって……。
「ま、これからはちゃんといてあげなさい、こいつは寂しがり屋だからね」
「うん、もう集中できなくなるのは嫌だからね」
で、必ず途中で離れようとするんだよな。
俺としてはいてくれればいいのにいつも変なことをしてくるわけだ。
あ、いや、ただ戻りたかったということなら別に構わないが……。
「健也、今日部活が終わった後に会いたい」
「じゃあまた学校で待ってるわ」
「う、うん、だってその方が楽なんでしょ?」
「ああ、それに送ることができるからな」
最近は残っていても寝て過ごすということはしていなかったから丁度いいかもしれない。
あれはあれでいい時間だからたまには必要なんだ。
もう少しで七月になってしまうわけだし、六月ならではのよさを味わっておく必要がある。
今日も雨が降っているからその音を楽しみつつ寝るのがいいだろう。
俺はどの季節もどの天候も普通に好きだ。
もっとも、台風とか嵐とかってのは勘弁してもらいたいが。
ということで、放課後になったらのんびりしていた。
「今日は僕もちょっと残らせてもらうね」
「おう、ゆっくりしようぜ」
放課後になったら速攻で帰る真として珍しい行為だった。
理由を聞いてみた結果、俺が相手をしてくれないから、ということだと分かった。
……相手をしていないつもりはないが、確かに香澄や杏奈といる時間の方が多いから言いたくなる気持ちはなんとなく分かるような……という感じ。
ただ、彼が男だからといって露骨に態度を変えたりしないから安心してほしい。
「倉田さんと一緒にいられるようになってから明らかに違うから面白いよ」
「そ、そこまで露骨に出ているのか?」
「うん、でも、僕達といるときもそのままでいてくれるから嬉しいんだよね」
「変えているつもりは一応ないからな」
多少の差があっても既にふたりも大切な存在となっている。
だからそんなことをする必要はないし、そもそもできるわけがないんだ。
これからも余程のことがない限りはこのままでいるつもりでいる。
遠慮しないでどんどん来てくれればよかった。
「唐突だけどさ、真って好きな女子とかいないのか?」
「と、唐突だね、あ、そういう子はいないかな」
「俺と杏奈と違って男子とか女子とか複数の人間と関わっていたから気になっていたんだよな」
でも、いないみたいだ。
人それぞれ拘りがあるからそういうものなのかもしれないが。
どう頑張ったって縁がない人間にはとことん縁がないことだからな。
ずっと気持ちを抱えていたって苦しくなるばかりだから、デメリットの方がどうしても大きくなってしまうことも気になることなのかもしれない。
「健也君は倉田さんが好きなの?」
「告白したことはあるぞ、ばっさり速攻で振られたけどな」
「えっ、それなのによくいられているね?」
「そこは香澄の優しさだな」
馬鹿だから夏祭りが始まる前にしてしまって微妙な時間を過ごすことになった。
だが、そのときは別行動ではなく一緒に行動していたんだよな、と。
俺にとっては人生で一番最悪の時間だと言っても過言ではなかった――というわけでもなく、結局楽しんでいた自分がいたことになる。
そういう空気にしないようにと頑張ってくれたからかもしれない。
それかもしくは、食べ物のパワーというのは自分が考えている以上に強力なのか、というところだった。
「もしよかったら好きな人間ができたら教えてくれ、少しぐらいは協力するからさ」
「んー、できるかな、実は人生で一回も女の子を好きになったことがないんだよね」
「急ぐ必要はない、高校時代にできたならって話だからな」
学校が終わったら即塾に行っていそうな人間だった。
勉強をすることで時間をつぶしてきたみたいだったので、これからも時間が余ればそうやって過ごしていきそうだ。
俺は異性と、というか、香澄といられなければ嫌な人間だったから異性と過ごすより勉強というスタイルの彼は格好良く見える。
「杏奈はどうだと思う?」
「杏奈さんは僕ら以外の友達を増やすところから始めないとね」
「真的には……ないのか?」
「魅力的な子だけど杏奈さんが僕のことを意識してくれるとは思えないから」
一緒にいるときは楽しそうにしているし、どちらかと言えば真の方に多く話しかけるからそんなことはない気がする。
もっと時間を重ねていったらどうなるのかは分からない。
案外、真の方が意識し始めるかもしれない。
「でも、話しやすい存在だからもっと仲良くなりたいかな」
「おお、別に恋とかどうでもいい、みたいな感じではないんだな」
「一応これでもそういうことに興味はあるからね」
異性が当たり前のようにいてくれるというのは普通にいいことだと思う。
とりあえずいまはその先のことよりも仲良くなることの方が大事か。
仲良くならなければ全く前へと進むことはできないから。
「真、あんたちょっと来なさい」
「えっ、い、いたのっ?」
「いいから早く」
あれは絶対に話を聞いていたやつだ。
さっさと入ってくればいいのに盗み聞きなんてしようとするからそうなる。
なんて、いつからいたのかは分かっていないままだが。
俺は最初に決めていた通りに寝ることにした。
完全下校時刻まではまだまだ余裕がある、ぼうっとしているにも限界があるからこれで時間をつぶすんだ。
で、体感的に三十分ぐらいすやすやしていたときだった、頬をつねられて飛び起きることになったのは。
「余計なこと言うんじゃないわよ」
「……真は?」
「今日はもう帰ったわ」
なるほど、まあそれはいつも通りのことだから気にならない。
俺がいま気になっていることは彼女がどういう話をしたのか、ということだ。
でも、聞いたところで答えてくれるわけがないから口にするのはやめておく。
仮に知れたところでなにか変わるわけでもないからというのもあった。
「で、あんたは彼女待ち?」
「彼女ではないけどそうだな」
「本当によく分からない距離感ね」
「昔からこんな感じだったからな」
それで期待して告白した結果があれだった。
いやもうあの日は浴衣を着ていて滅茶苦茶可愛かったのも悪かった。
祭りがあるということでテンションが上っていたのも間違いなく悪かった。
「まあいいわ、暇だから時間つぶしに付き合ってあげる」
「別に無理しなくていいぞ、下校時刻まで残るつもりでいるからな」
「もちろん全て付き合うわけではないわ、でも、前にも言ったように家はあんまり好きじゃないから私が寧ろ付き合ってほしいのよ」
「分かった」
前からこうして放課後に一緒に過ごすことが多かったから違和感もない。
できればここに真もいてくれるともっと楽しくなるんだがな。
まあでも、帰りたがっているのに無理やり付き合わせるのは違う。
それに俺と彼女は同じ方角でも真だけは真反対なわけだから問題になる。
「はぁ、お兄ちゃんだけがいてくれればよかったのに……」
「両親のおかげで生きてこられたわけだからな」
「まあそうなんだけど……」
仲良し家族だったというわけではないが、いつも感謝は忘れないようにしている。
学校に通えているのも、家があるのも、当たり前のように飯を食べたり風呂に入れたりするのも全て両親のおかげだ。
そこだけは絶対に勘違いしてはいけない。
俺らにひとりでやっていく力はまだないんだからよく考えて行動しなければならないと少し偉そうに考えた。
「つか、お兄ちゃん呼びはなんか可愛いな」
「昔からこうだからこれからも変えるつもりはないわ」
「いいだろ、兄さんも嬉しいだろうからな」
これぐらいの年齢になると不仲になってしまう可能性の方が高い。
だが、彼女はこうして所謂普通の態度でいてくれているわけだからほっとしているだろう。
もしかしたらいつか変わってしまうかもしれないという不安も出てきているかもしれないが、変なことをしない限りはこのままでいてくれるはずだ。
とにかく気をつけなければならないのは勝手に食べ物を食べてしまったりすることだよな。
食べ物の恨みというのは怖いから気をつけてほしいとこれまた偉そうに考えた。
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