03話.[できないんだよ]
「へえ、中はこんな感じになっているのね」
「まあ、普通だな」
暴れるような感じもしなかったから普通の対応を心がける。
変に拒めばしつこく残ろうとするかもしれないからこれでいい。
しっかし、もう少し気にしてほしいがな。
なんで異性の住んでいる家にいるのにここまで落ち着いているんだろうか?
「倉田を連れてきたこととかあんの?」
「あるぞ」
「でも、付き合っているわけではないのよね?」
「ああ、そういうことになるな」
三嶋のことも香澄のことを知っているみたいだとすぐに分かった。
聞くまでもなく勝手にぺらぺら話してくれるからこちらとしてはありがたい。
まあ一番大事な、どうしてここにきたのか、その理由を教えてくれてはいないが。
「あ、私も同じ中学校だったのよ」
「だろうな」
「で、あんたに酷いことをされたの」
俺は彼女みたいな人間と関わったことはなかったから知らないと言っておく。
過去の俺に文句を言いたいならそのときに言うべきだったな。
そうしたら俺だってきちんと向き合おうとしたかもしれない。
「話しかけたのに無視されたのよ」
「根に持ちすぎだろ……」
いつの話かは分からないものの、既に高校一年生の五月まできているわけで。
流石にそこまで小さい人間にはなりたくなかった。
細かいことを考えすぎる人間にもなりたくない。
人間、少し雑なぐらいでいいんだ。
どうせ考えに考え抜いたところで想像通りに動くわけがないから。
「あんたね、人が勇気を出した結果がそれだったのよ? 責任取りなさいよ」
「どうすればいいんだ?」
自分にできることだったらしてやるか。
このまま付きまとわれることの方が面倒くさいから仕方がない。
多少付き合っておけばすぐに飽きてどこかに行くだろう。
俺は平和な生活を望んでいるからできる限り問題になりそうなことは潰しておきたいなと。
「これからは無視しないで、したらつねるから」
「はははっ、それでいいんだな」
根に持っていた割には可愛い感じだった。
それぐらいなら特に疲れることなくできるから構わない。
そもそも、できることならしてやるかと考えたばかりなんだから断るわけがないという話だ。
「うん、それだけでいいのよ」
「じゃあほら、そろそろ帰らないとな」
異性を連れ込んでいるみたいな状態になっているから嫌だったんだ。
この状態から変えられるということなら送ることだってしてやるつもりでいる。
というか、ただ帰れと言われて素直に帰るような人間には見えなかった。
程度は軽くても他者を振り回すような存在に見える。
「なんでよ?」
「なんでよって、俺らは友達でもなんでもないだろ」
「じゃあ友達になったらいいの?」
「まあそりゃ、仲良くなったらな」
自分が先に出て自らの意思で出てきてくれることを期待したらちゃんと出てきてくれた。
少し不満そうな顔をしているものの、言うことを聞いてくれるみたいだ。
「名字は?」
「大森
「そうか、じゃあまあ関わることがあったらよろしく」
頷いてからひとりで歩いていったから送ることはしないでおいた。
家を知りたがっている、みたいに考えてほしくない。
これからどうなるのか、少し不安になっている自分がいる。
頼ろうにも香澄を頼ることはもうできないし、三嶋もそんなこと言われたって困ってしまうだろうからひとりで頑張るしかない。
だから平和に過ごせるようにと願いつつ家の中に戻った。
「暇だー……」
寝るのもいつだってできるというわけじゃない。
その気にならないと延々と突っ伏しているだけになる、寝転んでいるだけになる。
仕方がないから適当に歩いてくることにした。
春なんだから暖かい気温を楽しんでおかなければ損というものだろうと片付けて。
「お姉ちゃんだいじょうぶー?」
「だ、大丈夫よ」
なーにをやっているのか……。
どうやら子どもと遊んであげていたみたいだが、転んでしまって怪我をしたみたいだった。
いまはとにかく大森の近くにわらわらと子どもが集まっている。
なんとなくここで行くのは微妙なものの、突っ込むことにした。
「大森、大丈夫か?」
「な、なんでいんの……?」
「暇だったから歩いていたら話が聞こえてきてな」
声が大きいというのはこういうとき助かる。
小さい声だったりすると盗み聞きしているみたいな感じになるから。
いやまあ、これもそれに該当していると言われればそれまでではあるが、細かいことを気にしても仕方がないからこれでいい。
「お兄ちゃんは誰なの?」
「んー、俺は高校生だ」
彼ら、彼女らが親に話したときに問題にならないようにしなければならない。
不審者が~とかになったらへこむから頑張る必要がある。
でも、親としては警戒しすぎるぐらいでいいのかもしれなかった。
こうして外では知らない人間と一緒に過ごしてしまったりするからだ。
「お姉ちゃんのカレシさんなの?」
「違うわよ、私達は友達というだけなの」
「そうなんだ」
結果が分かってよかったのか、満足したような感じで友達と歩いていった。
あれだな、危険は確かにあるがああいう感じで外で遊んでいてくれた方がなんかいいな。
家の中でゲームばかりして過ごしているよりも健全的だと言える。
「まだ痛いか?」
「ちょっとね」
「家まで運んでやろうか?」
「え、あ、そこままではないから……」
確かに擦り傷程度で大袈裟だったか。
しかも家まで運ぼうとするということは触れることになるわけだし、それになにより、家を知られてしまうわけだから避けたいだろう。
昔にあったことで文句を言うために近づいただけなのに勘違いされても困るというやつだ。
「悪い、忘れてくれ」
暇人は去ることにする。
なんとなく暗くなってもいいから遠いところまで行ってやろうと決めた。
歩いて歩いて歩いて、とにかく歩いて違う場所を目指す。
何時になろうと怒られるような人間ではないからこそできることだった。
ただ、流石に他市にまで移動してしまった際には慌ててUターンしたがな。
なんでこういうときに限って捗ってしまうんだろうか。
「あー……」
帰るときはどうしてここまで辛いのか。
歩き続けるしかないとは分かっていても足を止めたくなってしまう。
それでもなんとか頑張って歩き続けて、なんとか自宅付近まで戻ってこられた。
「ん? なにやってんだ……」
自宅前に誰かがいると思ったら先程怪我をしていた大森だった。
もう既に二十一時を過ぎているというのになにをしているのか……。
俺と関わってくれる人間はどうしてこうも不思議ちゃんなんだろう。
だから三嶋の存在が尚更ありがたく感じるんだ。
「おい」
「きゃあ!? って、あ、あんたか……」
「なにしてるんだよ、こんな時間に外にいたら危ないだろ」
「……中に入れて」
「は? あ、まあ、飲み物ぐらいならやるよ」
気持ち悪い存在になりかけていたからそれぐらいはしてやらなければならない。
だが、家に入る前にきちんと違うということを言わせてもらった。
そういうのもあって地味にいてくれたのはありがたかった。
だってあのままだったら完全に気持ちが悪い存在として認識されていたから。
「ほら」
「中に入れてよ」
「駄目だ、もう夜も遅いんだから飲んだら帰れよ」
「じゃあ送って!」
「わ、分かったからもう少し声を小さくしてくれっ」
近所から変なことを言われても困るんだ。
学校だけじゃない、外でだって気をつけて行動しているんだ。
壊されたら困るからすぐに従った。
これから面倒くさいことになりそうでいまからうへえとなっていた。
「はぁ」
毎日毎日大森が来て困っていた。
その度に面倒くさい絡み方をしてきているわけではないから気にしすぎなのかもしれないが、もう少しぐらい間隔を空けてほしいぐらいだった。
「お疲れ気味だね」
「ああ、真は知っているだろ?」
「うん、最近は必ず来るよね」
がー、やっぱり同性といられているときが一番落ち着く。
真が優しくて真面目で常識人だということも影響している。
珍しく俺と関わってくれる人間は~に該当しない人間が現れたということだ。
だが、大森が来なければ来ないで少し不安になるから難しい存在だった
つまり、俺がちょろいということになるから来いよなんて言ったりもしないが。
「放課後になったらどこかに行かないか? ちょっと気分転換がしたくてさ」
「分かった」
「おう、いつもありがとな」
「ううん、健也君のおかげで楽しく過ごせているところもあるから」
嘘つくなよおい、他の友達とも多く行動しているだろ!
なんでこうやって無理やりないことを言おうとするんだろうな。
はっきり悪い方のことも言ってくれればよかった。
そうすれば俺だって直そうと努力をするつもりでいるというのに。
「基本的にはいいのにお世辞を言ってしまうところは駄目だな、誰だってお世辞を言われて喜ぶというわけじゃないんだぞ?」
「お世辞なんて言っているつもりはないけど」
「とにかく、もし言うんだとしても他の友達にしておけよ」
それこそ相手が女子だったら分かりやすく喜んでくれることだろう。
そんなんじゃない! と文句を言われてしまうかもしれないが、褒められたりして悪い気になる人間というのも少ないはずだ。
「それより倉田さんのことなんだけどさ、今日も普通に元気そうだったよ」
「別に報告してくれなくていいんだぞ?」
その事実を知ったら流石の香澄でも怒るかもしれない。
んで、そのときに怒られるのは俺ではなく彼ということになるんだ。
いまも尚、関われているうえに俺とのことを知っているからとしてくれているんだろうが、そんなことしなくていいとしか言いようがない。
離れることを選んだ人間をずっと追い続けるような気持ちが悪い人間じゃないぞ。
「仲良くしたいなら一緒にいればいい、でも、それだけでいいんだよ」
「健也君……」
「それよりほら、行きたいところを考えておいてくれよな」
放課後になってどこに行こうかと考えるのは不高率すぎる。
あと、自分が選んだ場所だと気分転換ができそうにないから任せたかった。
こういうときは絶対に付いていくぐらいの方がいい。
「来たわよー」
お、暇そうなら大森も連れて行くのもありかもしれない。
どうせ一緒にいるのなら仲良くなれた方が絶対にいい。
三嶋となにかあった際に一緒にいられる人間というのは多い方がよかった。
まあ、彼と喧嘩をするということだけはないと言えるが。
あるとすれば彼も同じように離れた場合の話となる。
「よう」
「こんにちは」
「うん」
彼が話したことによって誘うまでもなく一緒に行くことになった。
何気に彼と楽しそうに話す彼女だからこちらも相性がいいのかもしれない。
恋はどうでもいいとして、彼にとっても彼女にとっても仲のいい人間が増えるというのはいいことだということが分かる。
積極的に話しかけているぐらいだから勘違いというわけでもないだろう。
「三嶋はもう少しぐらい筋肉をつけた方がいいわね」
「筋肉か」
「うん、いまのままだと少し細すぎる気がするのよ」
「あ、それは分かるよ、食べていても全く肉がついてくれないんだ」
「うっ、な、なんて羨ましい……。と、とにかく、軽い筋トレでもしてみるといいかもしれないわね」
こうしてアドバイスも多くしている。
その際、無理やり押し付けるのではなく◯◯してみるといいわね程度で済ませているから言われている側の彼も悪い気にはならないはずで。
こういうところを見る度にいい人間だなと感じる。
振り回すこともあるが、なにもいつも全てがというわけではないということなんだろうな。
「大森、俺は?」
「んー、あんたはもう少し小さくなりなさい、ちょっと首が疲れるのよ」
「無茶言うなよ……」
俺にできることではなかったから諦めた。
どうして彼にはいいことを言えるのに俺にはそうなんだ。
って、無視されたことを気にして来たんだから当然か。
実はまだ許していなくて俺を色々なことでぼこぼこにしたいのかもしれない。
家に来たのだってそう、あれなら連れ込まれたとか言えてしまうから、なんてな。
いい人間だと感じているくせにこういうことを考えてしまうのは矛盾しすぎだ。
「あんたはもっと他人に興味を持ちなさいよ」
「真とか大森とはいるだろ?」
「自分から来てくれることはあまりないじゃない」
「あ、確かにそれはそうだね、来てくれたことはほとんどないから少し気になっているところではあるかな」
おお、そういうものなのか。
ただ、行くとなったらなったで頻度が高くなると迷惑そうな顔をされそうだ。
来てくれるというのは本当にありがたいんだ。
普通の対応をしているだけで多分文句は言われないから。
何気に香澄のところへだってあんまり行ったことがなかったから今更それを変えろと言われても困ってしまう。
「三嶋か私で練習すればいいじゃない」
「いや、使うのは申し訳ないだろ」
「はい、言い訳をしていないでやりましょうねー」
縛りたくはないがふたりがいなくなればひとりになってしまうことは確定していることだ。
三嶋はともかく、大森自体はこうして言ってくれているわけだから多少変えていくのもありなのかもしれない。
「真は大丈夫なのか?」
「寧ろどんどん来てほしいからね」
「そうか、なら少しずつ頑張っていくわ」
一ヶ月に一度、目標を新たに選択するということでいいか。
今月の目標はいまのそれ、来月の目標は来月決めればいい。
迷惑を顔をされたくないからしていなかっただけ、意識を少し変えれば簡単にそんなことは問題なくできる。
「大森は何組だっけか?」
「二組ね」
「よし、それならこの後からランダムで行くわ」
ふたりが寧ろやめてくださいと言うまでやるつもりでいた。
行って行って行っていたらきっとすぐに変えてくれることだろう。
後悔させてやる、そんなことも考えてしまっていたのだが、
「ま、参りました」
結局負けたのは俺だった。
クラスに突撃して、会話をして、すぐに帰ると決めていたのに、大森がそれを許してくれなかったからだ。
自分が所属しているわけではない教室に長居するというのは緊張するということを今回のことでよく分かった。
ちなみに真との方は一切問題なく友達として過ごせた気がする。
「情けないわね、年上ばかりいる教室に出入りしているわけではないのに」
「いやほら、大森と話すのはいいけどさ……」
「まあいいわ、多少でも頑張ろうとしたのは分かったしね」
……つか、彼女は俺のなんなのだろうか?
そもそもどうして近づいてきているのかも結局分かっていないままだ。
もしかしたら卒業まで、いや、卒業してからも分からないままの可能性がある。
でも、聞いて教えてくれるような人間ではないから諦めていた。
「三嶋、ちょっとこいつを借りていくわね」
「うん、行ってらっしゃい」
せめて彼みたいであってくれたらと考えたことは既に五度ぐらいある。
たまには清純キャラみたいな子が来てくれてもいいと思うんだ。
そうしないと偏ってしまって倒れてしまうから。
長く一緒にいるわけではない大森がそのままだからどうしても願ってしまう。
「今朝、倉田が話しかけてきたの、なんて言ってきたと思う?」
「軽い挨拶と、真と仲良しなんだねとかそういうところか?」
「惜しいわ、倉田はあんたの話をしていたのよ」
変わるために離れただけで一切興味を失ったというわけではないのかもしれない。
最近で言えば大森が加わったから気になった可能性もある。
過去も女子と関わることになったときは何故だかハイテンションだったからだ。
もっとも、ただ加わっただけでなにか甘い話があるというわけでもないがな。
それでも聞きたいということならなんでも答えてやればいい。
「少し気になっているみたいね」
「そうか」
「行ってあげればいいじゃない」
「いや、それはできないんだよ」
こう言うということは細かいことまで知っているわけではないみたいだ。
当たり前だ、なんでも知っていたら神かよと言いたくなる。
あと、それは俺が迷惑をかけていないかどうかが気になっているだけだ。
だからこれからもこの距離感を続けるつもりだった。
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