第6話 無策の作戦

突然だけど君はピンヒールって知ってる?

知らないよね。俺も知らなかった。父さんや母さんが中学生の頃流行ってたらしい。

ハイヒールのカカトがピンの様に細い。普通に考えたら歩きにくいったらないと思う。

それを履いた鬼の様に強い子が学生の時いたって父さんが言ってた。

で、何でこんな話をするのかというと母さんがその人じゃないかと思う。

母さんの父さんや母さん(俺から見ると爺ちゃんと婆ちゃんね)の家に行っても学生時代の写真が一枚もない。

そして最も有力な物証として真っ赤なピンヒールが下駄箱の一番上に隠してあったのを見たとこがある。

今まではそんなに気にならなかったけど今日はどうしても強い人に用事がある。

今日帰ってきたら聞いてみよう。


駅から家に帰り未来にLINEであの後のことや今日の予定など聞いてみたが既読はつかない。

家に行ってみようかと一瞬考えたが今は取り合ってくれないと思う。

日曜で母さんも仕事休みだからそのうち帰ってくるとは思うけどどうしようかな。

テレビをつけてリビングの椅子でゆらゆらさせていると父さんが帰ってきた。

「美人さん帰っちゃったの?」一人でいる俺に話しかけてきた。なんか色々どうしていいかわからず父さんに聞いてみた

「ほんと何をどうしていいかわかんないんだよね。どっちに転んでもどっちかがうまくいかないし。そんな時父さんならどうする?」

全然説明にもなっておらず意味も不明な質問に真面目に考えてくれてる

「そりゃあれだ」そう言って少し考えてる「そうだなお前らにあった言葉で言うと運命って言う神様に立ち向かう方法があるとするならそれは唯一今出来る事を精一杯やる。これしかないだろ。どっちに転んでも上手くいかない。じゃどちらも何もしないのか?違うだろ何もしないで悔やむなら今出来る最善をして悔やめ」

なんかカッコいいぞ。でも確かにそうだ。俺がここでクヨクヨ悩んでも仕方ない。未来は未来で遥は遥。今未来なんだから今日は花火をしよう。そう決心したところで母さんが帰ってきた。

「ただいま。何してんの2人して?」リビングに立ってる父さんと椅子を揺らしてる俺に問いかけてきた。

「俺は今帰ったところ。頼んどいたのあった?」と父さんが聞くと買い物袋をごそごそして生の生姜をとりだす。

「ありましたよー。今日は生姜焼きだよ」と言う。今まではチューブの生姜だったが俺が最近生姜にハマっているんで生を買ってくれたみたいだ。それは楽しみなんだけど今は

「母さんて昔相当悪かった?」唐突に聞いた為父さんが固まってる。

「どうしてそんな事が知りたいのかな?」どんな反応をするのか予想出来なかったが威圧感たっぷりだ。でもここで怯んではいられない。

「俺強くなりたい。あいつの暴力を止められるくらいに」呟く様に絞り出した声に

「それは負けられない戦いだね。いいよ力貸したげる。ただ誤解を解いておくけど私そんなに悪くないからね」

ポンと頭を叩かれた。

「それでそんなに強いのその子?」

「とにかく手も足も早いんだ。見えるけどかわせないくらい。あいつも自分じゃ止められないみたいで」全然説明になってない。俺はどうしてこう上手く伝えられないだろう。

「じゃ今日でも明日でもいいからご飯に呼んでみてよ。見てみない事にはなんともだし」

「家に呼ぶの?」どう考えても来てくれなさそうなのだが

「来ればなんとかなりそう?」

「それはわからないよ。ただそんなお節介誰かもしようとしてたよね」と父さんを見てる。

「何の事か分からないね。りん呼ぶなら今日がいいな。今日は自信のある生姜焼きとポテサラだから」あ、話をそらした。今はそれをつっこむのはいいや。でご飯の後花火をしよう。完璧すぎる。あの部屋から連れ出せるならさらに喜んでだ。

「じゃ行ってくる」後ろも振り向かず出ようとする俺に

「向こうの都合も確認してからでいんじゃない」と母さんの声がした。

靴紐を結びながら

「あいつきっと1人でいると思う」結び終わり自転車の鍵をとる家の鍵は持ってないけどもういいや

「だから俺は行くんだ」思ったら即行動。今はこれしかない。待ってろよ未来。


(なんて誘おうかな?)考えてみても上手く言う自信は無い。でも出たとこ勝負でいこう。

あの温度のない部屋より悪いところなんてそうそうない。

自転車は俺の気持ちと連動してるんじゃないかというくらいグングンスピードを上げ未来のマンションに進む。

ご飯食べて帰りも自転車で送って北公(北公園)で花火してと何度も何度も考えているとあっという間に着いた。

自転車何処に停めたらいいのかわからないので駐車場の一角に自転車何台か停めてあったのでそこにしれっと置いた。

ここならパッと見ただけじゃ違う自転車まざっててもわからない。

走って入り口に行って横にある端末を2006と操作して呼び出しを押した。

ピンポーンピンポーンと何度か鳴ってるが返事がない。もしかしていないのかな?

そう思いもう一回呼び出しを押そうとすると不機嫌な台風の声がした

[私あんたに用事ない。帰れ]予想通りだが明らかに不機嫌だ。

[ちょっと話を聞いて欲しい。悪い話じゃないから]インターホン越しに話す。姿が見えないとどんな表情してるのかもわからない。

[もういいから帰ってよ]合わないつもりみたいだがそんなのは関係ないと言わんばかりに[絶対やだ]そう伝えると諦めたのか観念したのかドアが開いた。

続いて虹彩認証のドアも横にあるインターホンで呼び出すとピッという音と共にドアが開く。中に駆け込むといつものようにエレベーターの一台がドアを開けて待ってくれている。

急いで乗り込み2006を押すと相変わらずの勢いで登って行く。

あっという間にチンッと短い音を鳴らし扉が開いた。

突き当たりのドアの前で未来が腕を組んでこっちを見てる。

「ほんと恐ろしく話が通じないわねあんた。あの後でもう家に来るとかどういう神経してんのよ」そう言いながらも少し嬉しそうに見えるのは俺の期待値がそうさせてるのかもしれない。

「まあここまで来たんだからとりあえず上がりなさいよ」そう言って部屋の中に入る。

ここで気にしなくてもいいのに服が体操服のジャージな事に気付いてしまい

「お前部屋着にすんなよ体操服まだ使うだろ」と少し笑いながら言ってしまう

「うっさいわね。私が家でどんな格好してようが私の自由でしょ。で、何の用なのよ?」

お前を母さんと父さんが見たいから家にご飯食べに来いって行ってくる奴はいないと思う。(うっなんて伝えよう。そうだ)

「またお前今日もコンビニ行くつもりだろ。俺今日晩御飯の当番だから家来いよ。こないだのおにぎりの代わりに俺飯作るからさ」

「は?」と聞き返されたので

「いやだから飯食いに家来いよ」

「あんただけ?」「いやうちの親もいるかな」どんどん不味い方に話が進んでる。

「これ同じ話であんた遥になんて言ったか覚えてる?」これは痛いところを突かれた。そう両親に会うという状況で俺の発した言葉は間違ってなければ絶対やだだった。

「言葉に詰まったようね。私は遥みたいに上手くは話せないしお互いの為にならないわよ」やばいもう話を終わりにするつもりだ。とにかく何か話を伸ばさなくては。

「そういやあの後どうしてた?LINE送ったけど既読もつかないから」

「ん?スマホ?あそこの脇の充電に繋いであるわよ。見ないし。そうだ一応お礼を言っとくわ。私の代わりに私の事聞きに行ってくれたんでしょLINEに入ってたから」

「そうだ爺ちゃんがお前しか知らない事遥が知ってたらまた来てくれって言ってた」

どういう事なのかはわからないけど。

「そうねその話は今度遥の時に聞いてみたら?」何があんだろ?でも未来に変わる時初めて会ったあの時を見てたと言ってるから遥も未来も見えてるものは共有してるんだと思うんだよね。

「ほんと特別だからね。次はないんだから。ちょっとあっち向いてなさいよ」

スマホを取りに寝室に向かってんのかと思ったら玄関を見ろって何言ってんだ?

まあ向くけど。と背を向けて玄関を見る。

「あーあめんどくさい」そう言いながらジャージのチャックを外してる音がする。

(え?まさか服脱いでる?)またエロ系か?それは不味いってと思い振り向いてまてと言おうとしたらちょうど上を脱いだ所でさらに家で外した後ブラつけてなかったみたいで二つの小さい丘が

「誰がこっち見ていいって言った?」

凄い。真っ赤な怒りに燃える炎が俺にも見える。間違いなく怒りで震えてる握り拳。

それがこっちに飛んでくるのはわかっていたが俺の目は一点に集中していたから避けることは出来なかった。

「痛ってぇー。ほんと手早いな。そうだ婆ちゃんから聞いたけど学校でも手出てんだろ。今の学校行きずらいなら俺達の学校来いよ」

「そしたらあんたが困るでしょ。私止められないんだから」

そうならない為にも家に来て欲しいとは言えない。でも

「俺が止めるから」

そう自分でとめられないなら俺が止めてやればいい。

「避けられないのに止められないでしょ」

確かにと思うがそれは今の話だ

「大丈夫俺強くなるから」ガッツポーズを決めて笑う俺を見て

「バカじゃないの」口癖なんじゃないかと思うくらい出てくる言葉の後に

「でもじゃあお願いするわ。私も頑張ってみるから」

照れ臭そうに言うあたり未来も悪い事だとは思ってんだよな。

「よしじゃあ着替えたら行こうぜ。俺ベランダ出てるからその間に着替えてよ」と窓を開けてベランダに出る。そのまま奥の物置に行って花火の袋を取り出した。

(お久しぶり)そう心で呟き窓に戻って入っていいって聞くと少したってから

「入っていいわよ」この言葉を聞いて安心して部屋に入る。

「どうよ」スカートの部分を持ってくるっと回る。

服はあんまり詳しくない。春らしい淡いピンクのワンピースだと思う。しかも凄い似合ってるんだけどどう褒めたらいいのかわからない。

「か、可愛いしに、似合ってると思うよ」言い慣れない言葉だからかみかみだ。精一杯の褒め言葉なのだが伝わっただろうか。

未来は未来で少し恥ずかしそうに鼻の辺りを赤くして

「あ、ありがと」とお互い地味にギクシャクしていてお互い恥ずかしい。

未来が俺の手にある花火を見て

「それどうするつもりよ」と聞くから

「チャリで行くだろ?帰りにやろうぜ」

「それは無理よ。私自転車乗れないし」

えー遥バイク乗れんのにと思ったがこれを口にすると不機嫌になるかもと思いとどまる。

「じゃ俺の後ろでいいか。行こう」

俺の無策の家にご飯に来いよ大作戦はこうして成功となった。

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いつか消えてしまうかもしれないきみに 玉手箱 @tamaten

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