第4話 それぞれの宣戦布告

遥が完全に見えなくなったところで無事帰れたら連絡をと言えばよかったなと考えながら駐輪場へ向かった。

自転車は丸一日置きっぱなしにしていたが24時間100円のパーキングなので財布は大した痛手にはならなかった。

さて怒られに帰るかと自転車をこぎはじめた所でさっき何であんなに注目を集めてたのかを考えてみたけど俺の頭では考えが及ぶ筈もなくモヤモヤして帰る事になった。


(ドア開けるのが緊張する)そう思いながら中の父さんになんていうか考えていると

「早く入れよ」といきなり後ろから声をかけられた。

「うわっ何?」と振り向くと父さんが後ろに立っていた。「おかえり。んで昨日は何してたんだ?まあとりあえず入ってからにしよう」ドアを開けて中に入る。

(全然怒ってない?)そう思える程いつも通りだ。そのまま台所に行って冷蔵庫からお茶をとり一息つく。

「怒ってないの?」と聞くと

「怒ってない事はない。けどお前学校、部活、家、塾くらいで何処も行かないからそっちをむしろ心配してた」

「どういう事?」

「何か言ってこないって事はきっと言えない様な事があったんだろ?最近何かあった?って聞くといつも誰かが何かしたとか何かなったとか自分の話がないだろ。前も言ったけどそれは誰かの事でお前の事じゃない。それじゃ日々が面白くないだろって思ってたんだよ」そう言って冷蔵庫をガサゴソし始める。晩御飯の準備に入るんだろう。

「だから言えないような事が出来たんならそれはまあいんじゃないかと思ってる」

「でも俺が本当の事言ってるかどうかなんてわからないんじゃないの?」と聞くと笑いながら

「それはそれで良しだろ。何から何まで親に話すような奴はむしろ気持ち悪い。そんな面白くないものにはなるな。自分で考えて自分の物語を進めればいい。ただし人を傷付ける嘘はやめとけ。それと遅くなる時はママには連絡しとけ。心配さすのも良くないからな」

言いたいことだけ言うと晩飯の用意あるからと言ってキッチンに入っていった。

全然怒られなかったとほっとしてると2件同時にLINEが来た。

開いてみると遥からで一つは[無事家に帰れました]というのともう一つは勉強の仕方で[一回やってわからなかったのは答えを見て赤ペンで直してもう一回やって]と入ってる。

すると直ぐ次が来て[わからない問題はどんなに考えてもわからないからそこを考えるんじゃなくて何故そうなったかを考えて]と書いてある。

いつやろうか考える。今日は20時から1時間半塾もあるから先やるかと机に座った。

スマホは鳴ると気になるから勉強中はリビングに置く事になってるので置いて部屋に入り買ってきた問題集を始めた。



はじめは考えていた。りりんがあの子と上手くいったら萩原ちゃんは悲しむだろう。けど僕が上手くいくにはそれが一番なんだけどと考えながらLINEの返事を待っていた。

湊が騒いでて僕も見たけど学校に来た子は本当に凄い可愛いかった。その子とはまた別の子とららぽで走ってたしもう本当わけわかんない。

りりんに何があったんだろう。聞いても話してくれそうにはないしそれでも萩原ちゃんに聞いてみるよといいカッコしてしまった自分に少しあきれた。

けれど学校で皆んなが見にいく中怖くて行けないという萩原ちゃんをほっとけず一緒にいた。言葉には出さないけどりりんのこと好きなんだとあの時確信してしまった。

部活終わりも結局逃げるように帰ってしまったしそれから連絡もない。今はLINEの返事を待つしかないそう思い少し勉強する事にした。



ふーと一息ついて時計を見る。15時過ぎそういえば昼を食べてないので腹減ったと思い休憩を取る事にした。

キッチンに向かうと父さんはおらず野菜がカットされ、つみれと鶏が下茹でされていた。晩は鍋だな。調味料などが置いてある棚の2段目はお菓子の棚なので漁るとポテチがあったのでそれを食べながらスマホをみる。

はじめにゲームに誘われてるのを思い出し[この後16:30まで勉強するつもりだからそれ以降ならちょっとできる]と予定をたてLINEした。

ポテチ美味いけど指がねと洗っているとブブッとスマホが揺れてるからはじめから返信だなと開いてみる。

[16:30から1時間くらいできるよー]とあり、[ららぽいつ行く?]とはいってたから[悪い問題集買った。]と送り遥に選んでもらったとは言いにくいので[母さんがお金渡したんだから早くしろって言われて自転車とりにいってそれ買って帰った]となんとも言い訳がましいと思いながらも送った。

[ごめんそういえば今日ご飯行く予定だったからゲームまたにしよう]と連絡来て続けて[明日また部活で]と連絡きたんで[り。また明日]と返した。

ゲームダメになったからご飯食べて少しして塾に行くか。

遥の選んでくれた問題集は一年のやつだからか思ったより簡単でサクサク進みもう一回やればそこそこできるので今までの全然わかんない勉強してるより楽しかった。


晩御飯は出勤前に父さんがして一緒に食べる俺は晩だが父さんは朝なんだよね。

いつものように母さんの帰りを待って3人でご飯を食べて塾に行き帰ったら22時ちょっと過ぎで問題集のお礼もかねて遥に[問題集ありがとう。今までやった中で一番楽しい]とLINEした。

ブブッとすぐに返事が返ってくる。

[お役に立てて良かったです]

[ところで明日は何してますか?]とあるので[朝はいつも通り部活][昨日と同じくらいに終わる]と返すと直ぐ既読がついて[今日のららぽの騒ぎわかりました]

[また朝いきますね]とはいったのですぐに[学校はやめてほんとあいつら面倒だから]と返したけどもう既読はつかなかった。


朝は直ぐ動ける方なので起きて30分くらいで家を出る。自転車に乗りダラダラと学校に向かう。「おはよう」とはじめがやってきた。俺たちの家は歩いていけるくらいの距離で湊もそうなのだがレギュラーは行くのも早いから最近はもっぱらはじめと2人だ。

いつもならしょうもない事を話しながら行くんだが俺は何を喋ればいいかわからなくて黙っててはじめも何かあるのか喋らないから無言で自転車を漕ぎ続ける。

「そういやあさあ昨日朝来てた子ってりりんの彼女?」突然すごい話をぶっ込んでくる。はじめはそういう奴だ。少し考えて

「彼女ではないな。今は何とは説明出来ないな。でも落ち着いたらちゃんと話すよ」

「なんだかめんどくさそうだね」「本当それ。まあ関係ないって言ってた時よりは面白いかな」そこで一つ思い出した「今日も来てるんだよ多分昨日連絡あった」

「えーモテモテじゃん。ららぽでは別の子と手を繋いでたし」(なんて説明したらいいんだろ)「あれは事故だ事故」と妙にムキになってる自分がいた。

はじめが何か話してるけどそれをぼんやりと聞きながら未来でてこないなと考えていた。


学校は至って平和で遥はいなかった。バイクのエンジン音もしないからLINE見てくれて終わってからくんのかなと考えたが今日は正門集合じゃないから昨日と同じで正門にいるかもとそっちを見にく。「りん先輩ちょっと良いですか?」不意に呼ばれ振り向くと女バスの子がいた。

(この子どっかでみたような?)

「あの、後で湊くんの事相談したいんですが良いですか」あー湊の彼女かと理解しこの後どうなるかわからないから断ろうとしたら

「ごめんなさい。私とデートだから今日は無理ね」といつのまにか遥が来ていた。

「あれ?今来たの?」確かにいなかったと思ったけど「いえ多分、今話に出てた湊くんに駐輪場に連れていってもらってたんで入れ違いになったみたいです。それより」そう言って鞄から雑誌を取り出した。

「これですよ。見てください」とワンワンだかニャンニャンだかなんだか良くわからない雑誌を広げると街で見かけた美人さんと言う見出しで遥がドアップで写ってた。しかもランキング2位って何これ?

「す、凄いですよ2位って。1位の子は元々プロだから実質読モの1位じゃないですか」と湊の彼女が騒いでる。俗世にうとい俺には何のことか全くわからない。「凄いのこれ?」と聞く俺にブンブン頭を振ってうなずいてる。

「おそらくこれで昨日ららぽで騒がしかったんじゃないかと思うんです。ざわついてたけど悪意は無い感じだったのは本当にただ騒いでただけなんだと理解しました」

「俺もその本買うわ」とまた何処から来たのか湊がいる。「湊体育館行かなくて大丈夫か?」と校舎の時計に目をやると「んじゃ後で」と残して走り出す「後はないですよー」と遥が手を振り「私も失礼します」と湊の彼女も体育館に入っていった。あの子レギュラーなんだ。まあ悲しい事に目線が同じくらいだったから女子では背の高い方だ。

遥も未来も身長は小さめだが特別未来が小さく感じるのはなぜなんだろう?そっか胸がないからかと納得しまあ口には出せない事も理解した。

「んじゃ今日も走りに行ってくる」そう言うと「今日も見てますね」と昨日座ったベンチに歩いて行った。俺も裏門に向かうかなと歩き始めると数人の女子が遥の方に向かってるのが見えた。しかもその中に萩原もいるのが見える。まあ萩原がいれば少なくとももめたりする事はないと思い裏門に向かった。


「ねぇ皆んな落ち着こうよ。こんな何人もぞろぞろいくなんて良く無いから」

萩原が話しかけてるが止まる事なく遥の方に向かう。

りりんの友達?か恋人?かの様な子知らないと言えば知らないけど徒党を組んで話に行くと言うのは萩原には許せるものでは無かった。

「昨日から来てるけど何なのあなた?」女子の1人が話しかける。

「何と言われましてもね。好きな人を見に来る事に何か問題でも?」

一瞬で女子一同を黙らせた。

好きな人その言葉は萩原をドキッとさせた。と同時に彼女では無い事がわかった。

「あなたの好きな人って?」萩原が聞くと「澤西りんですよ」当たり前のように恥ずかしくもなさげに話す遥に萩原は憧れさえ覚えた。

「そこ何やってるの」門の方で先生が叫ぶのが聞こえ「何でもありませーん」と数人が言う。「その制服目立つから気をつけた方がいいよ。正門の隣の道バス停の椅子あるからそこなら外周回るの良く見えるからそこで観てるのがいんじゃない?」そう遥に伝えてさあ行こうと皆んなを連れて萩原が歩いていく。

「助けて頂いてありがとうございます。私遥と言います」「恋のライバル萩原りんよ。よろしく」そう言うと少しビックリした顔で「貴方もなんですねよろしく」と頭を下げ「本当のライバルは私じゃ無いんですけどね」と残しその場を後にした。

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