第3話 遥と未来
「絶対にヤダ」とはっきり意見を伝える。こんなにはっきり自分の意見を言うのって初めてかも。
「大丈夫ですよ。お昼を食べるだけでいいんですから」何がどう大丈夫なのか説明してもらいたい。
とはいうものの未来の事で聞きたい事もあるのが正直なところではある。
「それに父と母は仕事で日本にはいないのでお爺様とお婆様に会ってもらうというのが本当のところですから」
娘の両親に会うという所からじいちゃんばあちゃんに会うって聞くと少しハードルが下がった気がしたがまだ悩んでいると
「じゃあ明日も部活動見学に行くでどうですか?お弁当も用意しておきますから」と企む様な笑顔を向けてきた。本当ならこんな美人が来てくれるなんて嬉しい限りなんだろうが
「それは勘弁だ。これ以上ややこしくなると俺の楽しい学校生活が難しくなりそうだ」
「えー絶対楽しいのに。でもご飯はOKって事でいいんですよね?」勝ち誇ったような笑顔だ。「参ったよOKだ」素直に降参を認めた。
スマホもとれたしここにいても未来には会えない。そして乗りかかった船だ俺が代わりに聞いてやろうと思い家に行く事に同意した。
「じゃ下にタクシー呼ぶんで行きましょう」その誘いに待ったをかけて「昨日連絡出来なくて困ってる事があるからその返信だけしてもいいか?」と聞くと「私も頭を整理したいんでコンビニで飲むもの買ってきます何かいりますか?」「珍しく頭使ったから甘いもの欲しい。餡子のものお願いしたい。出来たら粒で」そう伝えるといつの間にという速度で隣にきた。
「餡子の粒あん派とは同士ですね。こし餡の上品な感じもいいけど」その先は言わせてと思い俺も慌てて声に出す「やっぱり豆の感じがね」と声がかぶる。2人で眼を合わせて笑った。(こんな顔もするんだな)
飲み物は緑茶?と聞かれたんで今はほうじ茶と伝えるとそれもわかるって言ってスマホを操作しながら出ていった。
身体にあるもので鍵が開けられれば手ぶらで家を出れるんだ。
スマホを開いてみるとはじめから3回萩原からも3回LINEが来てた。
その下に未来と友達になりましたって確認が来てた。そこを開くと何も履歴はないのでこれから話を聞きに行くんでちょっと行ってくるわーと一言入れといた。
まずはじめに返信をと思って開くと今から20分前に今日エペ(ゲーム)しようよと誘いのLINEが来てた。
予定はこの先どうなるかわからないので(今無理だからできるようになったらLINEするよ
スマホ結局家にあったから)と返事を入れる
そして萩原の方は昨日3回で最後やましいことしてない?と中々怖いLINEが入ってた。
話が合わないとおかしいので(スマホ家にあったー昨日はほんとごめん。またららぽ行く日ははじめと相談して連絡するわ)と返事を返した。
さて遥が戻るまでどうしようかな。20階なんてそうそうくる事ないから窓でも開けてみようと思いベランダに出てみる。何を干すんだいと思わず言ってしまう程大きなベランダ。この部屋だいぶ広いしベランダもこんなに広い。家賃いくらだほんと。
外に出るとそろそろ夏が近いなって感じの暑さになってきてる。
ここもなんもねーなって見てると隅にある物置からチープな感じの袋が飛び出してる。なんだこれと取り出してみると打ち上げ花火の袋が入ってた。
口はあいてて一つか二つ使ったのかおかしな所に空間が空いてた。
(こんなもん一人でやったら余計寂しくなるだろうが。ほんとバカだな)
「何してますの?」遥がいつのまにか戻ってきてた。「いやなんでもないよ」そういって花火はもとあったとこにもどした。
「コンビニは中々いいのがなくて大福とどら焼きにしました。どっちがいいですか?」
「その二択なら俺は大福で。遥どら焼きだろ?」
「なんでわかりますの?」やっぱり。まず大福は粉がついてるから女性はあまり選ばない。そんな理由だったんだが「そりゃわかるよ。遥の考えてる事は」と仕返し的に意味深な答えにしてやった。
その一言が響いたのかなんか照れててめちゃ可愛い。
「じゃ、じゃ行きましょタクシー来てるから」とぎこちない動きで未来の部屋を後にした。
またくるわそんときは花火しようぜと小さく呟いた。
窓を閉めてオートロックだからそのまま部屋を出る。何故か不安になるのは俺だけか?
としても出来ることは何もないんだけど。
相変わらず恐ろしい速さで上がって来て降りるエレベーターに乗ってエントランスを出るとさっきとは別の運転手がドアを開けて待っていてくれてる。「ありがとう」そう言って座り隣にどうぞと勧められ座る。正直おちつかねー。ドアを閉め運転席に乗る。
後ろを確認して車は動き出した。
そうだ「帰りの事とか今言う事じゃないかもしれないけど家どの辺りなんだ?ららぽに昨日自転車置いてるから取って帰りたいんだけど近い?」「どちらかと言えば中央よりですよ。じゃあ話終わったら私が送ってあげますわ」そう言って大福をはいっと手渡されどら焼きの包みを開けた。
「あ、お金」と財布を出すと「これは同士に布教として買ったので美味しく食べてくれれば大丈夫ですよ」と制された。
「じゃあららぽにある俺の好きな団子屋の団子今度布教に買っとくよ」「流石ですわね。満月堂ですよね?何を選んでくれるのか楽しみにしてます」そう言ってどら焼きを食べる。
「甘いもの食べてる時って幸せ」とほんと幸せそうな顔してる。俺も包装紙をあけたんだが粉が車に落ちないか心配になって一口で食べた。それを面白そうに見てペットボトルのお茶を飲んでる。口に物入ってるから喋れないんで俺もお茶って指差してジェスチャーしたらはいって自分が飲んでるやつをくれた。
「これが欲しいだなんて大胆ですね。間接キッスだなんてキャッ」とか言ってるけど顔がまた悪い顔になってる。
またリードされた気分だ。それならと平気な顔して飲んでやった。お茶はお茶だ。
どうだと言わんばかりに遥をみると車が止まった。「着きましたわ」そう言って車を降りる様に言われて降りる。今日もタクシーは何も払わずに去っていった。
来てしまったと言うのが正直な気持ちではある。が今更そんな事を気にしても仕方ないし挨拶に行ってくるわと未来と約束したんだから言いたい事くらい言わないとなと思い遥より先に入口に向かう。
「りんそっちじゃないこっち」と指をさした方には何も見当たらない。ん?壁しかないんだけどって言おうとしたら気付いてしまった。この壁扉の一枚だ。でかいなんてもんじゃないぞこれ。
そう俺が壁だと思ったのは扉の一枚で反対にもこれがあるから一面の壁に見えたんだ。
(勝手なイメージだけど絶対髭の生えた髪の逆立ってる様な爺さんが住んでんだろうな)と勝手に解釈すると同時にこんなでかいとこ住んでて孫一人暮らさせるとは何考えてんだ。「よし行こう」とドアが開くのを待ってるとこっちこっちと横の小さいドアから入っていった。「この扉開くのに時間かかるんでみなこっちの通用門使ってるの」
恥ずかしい。中々にして恥ずかしい。勇んで飛び出したけど入口ではないとかほんとやめて。
中に入ると庭がまた凄い。あ、鯉が泳いでる。
「おかえり遥さん」そういってお婆さんが姿を表した。小柄な時代劇に出てきそうな元気な感じの人が奥から声をかける。
「ただいま戻りました。電話で伝えたのですがお爺様はどちらに?」
「こっちですよ」とさらに奥に入っていく。その後を追って歩くんだが廊下でかくれんぼできそうなくらい広い。所々部屋がありその奥の少し広い部屋に出た。
この建物自体は知っている。子供の頃この馬鹿でかい家はなんなんだと思ったのを思い出した。翠がなんかの会社のすごい人が住んでるって言ってたな確か。
「よく来たね」そう言って優しそうなお爺さんが出てきた。イメージする強面のお爺さんとは全く違う感じだ。
腰は曲がっておらず全然元気そうだ。
「お爺様こちら」と遥が紹介しようとするのより早く
「はじめまして俺澤西りんと言います。今日は初めてあうのにこんな事言ってしまい申し訳ないとは思うのですが未来は何故あそこに住んでるんですか?」喋りながら少しずつ近づく。
「これはいい男の子がきたねぇ」と嬉しそうにお婆さんが笑ってる。
「はじめまして。りんくんでいいかな?未来とはどう言う関係ですかな?」
そう聞かれ一瞬考えたが
「あいつは消える事を恐れて怖がってました。詳しくはわからないけど最後の時は必ず一緒にいると誓った仲です」
「な」遥が何か言おうとしてる
「な」「な」
(ん?何か遥の感じが変わってる?)
髪の色が少しずつ赤くなっているような気がする。目が段々つり上がり気の強そうな瞳になるそして一番驚いたのは「お、おっぱいがしぼんだー」あまりの出来事に声に出してしまった。
「ほかに突っ込むとこあるでしょー」と下からアッパー気味にパンチが飛んでくる。目には見えたので後ろによけたがかわしきれず当たって倒れる。
その俺を見下ろす感じで
「何小っ恥ずかしいこと口走ってるのよ」
まったくと腕を組んで横を向いているけど笑ってるのが見えた。
目の前に手を差し出してきたので
「ほんと嬉しい時は嬉しいって言えないもんかね」パシッと掴み引っ張り上げてもらう。
その光景を見ていた2人に
「ついにぶつかり会える人を見つけたんだね」とお婆さんが泣いている。お爺さんはうなずいている。
(全くわからん)
「そろそろ説明をしてもらえませんか?」と尋ねるとお婆さんが「未来さん今日の事はりんさんから後で聞いてもらえないかしら?遥が初めてこの事で来たので今日は変わってもらえますか?」の問いに
「大丈夫よこんな急に変わるなんて持たないから」手を繋いだまま下を向く。
また髪の色が黒くなり瞳が優しそうになっていく。そして胸が今度は(でっかくなったー)よし心で言えた。
「あれ私いつ手を繋ぎました?」遥に戻ってる。「俺が2人に近づくから制してくれたじゃん。忘れた?」と嘘を言うと
「そうでしたわね。このまま繋いでいてあげましょうか?」と悪い顔してる。
「頼む」と握り返すと真面目な顔になり握り返してくれた。
「少し長くなるから座ってくださいな」とお婆さんに薦められて座ろうとするのだが畳の部屋で遥は正座してる。絶対痺れるんだよなと思いながら正座すると
「楽にしていいよ」とお爺さんに言われて助かりますと正直な意見を伝えて正座を崩した。
今俺がわかっている事は2人は1人で何を基準かはわからないが変わって別々の暮らしをしてる。遥はわからないが未来は会話を聞いてる。さっき小っ恥ずかしいと言っていたのがその証拠だと思う。遥はさっき戻った後俺の嘘を信じたので聞こえてはないのかと思う。
それと何か変わってる間に充電してるみたいな感じなんだと思う。未来が変わってもらえないか頼まれた時、持たないって言ってた。
それは何かがまだたまってないからではないかと思う。
今わかる事をまとめたみたとこで丁度話が始まった。
「さて何から話そうかと思うのだが最初に君の質問に答えよう」そう言って爺さんと婆さんは並んで立ち上がり爺さんはシャツを脱ぎ婆さんは服の袖をまくり肩から腕を見せてくれる。
そこには多くの内出血の跡やアザが残っていた。
「だいぶ治ったんでこれくらいだけど当時は顔にも出来たりして」とお婆さんが悲痛な顔をしてる。
「それ未来がやったんですか?」下を向きそれに返事がないことが答えである。
「自分でもどうしようもないみたいでな。10歳で事故にあい1年近く目醒めなかった。目覚めた時は常に無関心な状態で日がな一日ぼんやりしてた」
一度会話をやめて窓から空を見上げてる。
「そこから歩いたり喋ったり考えたりするようになるまでまた一年かかった。事故から2年程かかったがやっと学校に行けるくらい回復して病院をでた。それからも胸の病気は治り切っておらず半年から1年の間に手術を行う事があった。どちらかと言うと元気で勉強はそれ程でもって感じだったのだが中学生になると凄い出来る子になっていた。
それからかの突然暴れ出す様になっての。年老いた私達では止めることが出来なくてかんがえていたらそうなってしまう日があるからその日は1人で過ごすから部屋を用意してと言ってきた。それがあの部屋にあの子が1人でいる理由じゃよ」
それを聞きあの夜叫んでいた誰か私を止めてよとかしたくないけど止められないって言ってたのはこの事なんだと思った。
手術で死んでしまうかもと思って別の人格ができた。そして今度は自分が消えるかもしれないと悩んでいる。どちらかが消えてしまうんだろうか?
まだ今の時点ではなんともわからない。
あるならそして出来るならそうならない未来を探したい。明日消えるかもしれないのに名前が未来じゃやりきれない。
「学校は元々小学校から高校までエスカレーターの学校に通ってたんじゃ。そこにそのままでもいいかと思ったが病気で休みがちと言うことにして別の中学にも通える様にした。
変に思われても困るだろうし先生も日によって違うとなると色々大変じゃろうからと思ってな」
それで2人は別々の制服ってわけだ。遥はエスカレーター式の方で未来は学区内の学校に行ってるのか。
「さて遥さん台所にお茶とお菓子あるんでちょっと取ってきてくれますか?」とお婆さんが突然話した。遥も難しい顔をしている。「わかりました」と部屋を後にした。
「わしらが知ってるのはここまでじゃ。りんくんといったね一つ頼まれてくれんか?」そうお爺さんに言われ暴れてる未来の事を考えると断る事は出来なかった。
「俺で出来る事なら」そう伝えると
「先程感じが変わった時2人いると思ったじゃろ。おそらく別々だと。わかりやすく君の呼んでる名前で説明すると遥も未来もどちらも会話は聞こえているとわしは思ってる。つまるところ意識は一つではと。だから未来しか知らないのに遥が知ってるなんてことがあればもう一度訪ねてきてはもらえんか?」
深々と頭を下げてお願いされる。こんな目上の人に長い間頭を下げさせるわけにはいかない。「わかりました。俺でわかるならその時はまたこさせてもらいます」と伝えると遥が紅茶とマドレーヌを乗せたトレーを持って入ってきた。
「内緒話はすみましたか」と俺たちを見て話しかけてくる。流石鋭い。確かにこのメンバーで遥が取りに行くのは少し違和感を俺でも覚えたくらいだから遥なら当然の話だ。
「終わりましたよ。遥を泣かせたら許しませんと釘をさしておきましたから」とお婆さんが初めて笑い顔を見せてくれた。
それをみてお爺さんも笑っている。この笑顔を守りたくて未来は1人を選んだんだと思うとやはりあいつのしてる事はすげーなと思った。
そこからは楽しい会話で過ごせた。
小さい頃の失敗やこの家の古さや歴史、遥は医者になりたいから勉強してるなどの話をしていると不意にスマホが鳴った。相手は父さんだ。すっかり忘れてた俺はまだ昨日分を怒られてない。
「すみません」と断って電話に出た
「りん昼どうするんだ」と言う質問に「帰ってきたんだね。昨日の事はまた帰って話すよ。ご飯はパンクの自転車ららぽにとりにきてるから大丈夫」と伝えると了解と言って終了した。おそらくそんなに怒ってないみたいだ。少しほっとしていると「お昼まだなら言ってくれればいいのに」とお婆さんが言うと「電話でお爺様には伝えたんですけどね」
「すまんすまん話の第一声が衝撃すぎて忘れてしまってたわ」と笑ってる。
「今日はありがとうございました。昨日色々あってまだ父さんに会ってないから怒られなきゃいけないんで俺そろそろ帰ります」
「怒られに帰るとは穏やかじゃないね。大丈夫かい?」そうお婆さんに聞かれたが
「大丈夫です。ちゃんと理由があるんで」と言うと「またゆっくりいらっしゃい」と深々と頭を下げられた。
出されたものを残して帰るのは失礼だと以前父さんに聞いたのでそれはパクッと片付けて部屋を後にした。
2人は俺たちに最後まで手を振ってくれた。
来た道を戻ろうとする俺を
「帰りはこっちですよ」そう言って進み始めた。裏口と言ってもうちの玄関よりでかいとこを抜け奥のガレージの前で止まると
「少し待っててもらえますか」と言うのでよくわからないけど「わかった」と伝えると1人で入って行った。
テレビでみたような四角い車や一目で日本の物ではないとわかる車が何台か止まってる。
「りんくんでよいですか?」後ろからお婆さんに突然話しかけられてびっくりしたせいで
「大丈夫っす」と棒読みになってしまった。
「これは直ぐの話じゃ無いんだけど未来は今の学校ですぐ手が出るから浮いてしまっていて正直転校を考えているの。だからもしりんくんのいる学校に行きたいと言うなら手続きするから何かの時に聞いてみて」
「わかりました」と返事をしたが手が出るは中々難しい問題だと思った。
強く両手を握ってじゃあよろしくねと言い部屋に戻って行った。
「中に入って下さい」遥にそう言われて入ってみると全身黒いライダースーツを来た遥がメットを二つ持って現れた。
ピッタリとフィットしているせいで体のラインが強調されてる。お腹の辺りから首にかけてファスナーを上げてないので胸元が開いていて目のやり場に困る。傷は上手い具合に隠れてる。
はいっと一つのメットを渡される。
「その中にスピーカーとイヤホンがセットされててお互い話もできますからね」と一台のバイクに跨る。俺の好きなライダーに出て来そうなバイクだ。
右の方のボタンを押すと凄い音でエンジンがかかる。ドッドッドッと低音の様にお腹の下あたりに響く音を鳴らしている。「何でバイク」と叫んでるんだがエンジン音で聞こえない。
メガネを外しメットを被った遥がこれこれと指差してるんで被ってみると「聞こえますか」と遥の声がした。
「メガネは?」と聞くとこれ伊達ですと言われ未来は普通に見えてたなと思った。
「バイク乗れんの?」
「カッコいいでしょ。私2年学校行ってないから歳で言えば16歳ですよ。色々移動を考えるとバイク良いなと思って免許とりました」そう言って髪の毛をしまいはだけていた胸元のファスナーを上まであげ後ろのシートを叩いてる。ここに乗れって事だよな。と跨ってみる。「恥ずかしがらずにしっかり掴まってて下さいね。落ちますから」と言うとガチンと足元で何かを踏み込みバイクは動き出した。
道路を滑る様に走っていく。視界に見えるものは早送りしてるかの様に後ろに流れていく。
「バイクの免許って難しい?」俺も取れる年になったら取りたいと思ってるので聞いてみる。
「学科はひっかけ問題みたいなのが紛らわしいですけど良く読めばまあわかりますよ。技能はほんとバイク乗れるんで楽しかったです」と言って赤信号で止まった。
「学校校則が厳しくて本来なら取れないんですよ。でも私出席が足りないから高校には上がれなくて。本来ならエスカレーター式なんで受験なく高校生になれるんですけどね。腹の立つことに」
そう言って信号変わったんで走り出したが先程よりスピードが出ている気がした。
「よかった。遥は無敵の女子かと思った。そう言うやりきれないものって皆んな何かしらもってるんだな」
「そりゃありますよ。今回の話を聞いて一つ増えちゃいましたしね。この先色々考えて勉強してるけど入試の当日私じゃ無い可能性もあるわけですから」
「そっか」素っ気ない返事を返すと言うより他に言葉が見つからない。
「りんはもう少し考えた方がいいですよ。今の真っ直ぐなとこは魅力ですけど」
ほめられてる?でもそうなんだよな。勉強しなきゃいけないとは思ってるんだけど
「何からしたらいいかわかんない時ってどうしたらいいと思う?」
「勉強の事ですか?」少し考えてそうと伝える。
「色々出来る人に聞くとかスマホで調べるとかですかね。なんでもいいんでとにかくやってみるのが1番ですよ。テスト前とかどうしてるんですか?」
「えーと言わなきゃダメ?」
「言いたく無いなら言わなくても良いですけどアドバイス的なものは現状がわからないとしようがないですね」少し考えたが出来る人に聞けなら遥に聞いてみようと自分の日常を話してみた。
「テスト前は勉強の時間を取りたいからまずワークを答え見て終わらせてる。それから塾行って話聞いて対策日に行ってみたいな感じかな」少し考えてるのか間が開いて
「うーんそれだと定着が足りないですね。例えばゲームなどで上手くなるため動画やスマホの記事を調べたとします。そしたらそれを実際にゲームでやるでしょ?それで上手くなっていくわけだよね。りんは今動画を見ただけとか調べただけってことですよ実際にやってみないと。毎日私なら家庭教師してあげますのに」
「そりゃ悪いからいいよ全然レベル低いから」
「教え合うのはいい事なんですよ。今日はじゃあららぽで問題集選んであげますわ。これしかないと思うものあるんで」
正直乗り気ではないがせっかくなんで
「お願いします」と頼む事にした。
それほど遠くない距離なのと車が混んでてもバイクなら関係ないので予想よりだいぶ早く着いた。
未来と走ったのが昨日とは思えないくらい前に感じる。
バイク専用の駐車場に置いてメットを左右のミラーにかける。
胸元のファスナーを半分程下げてまとめてた髪を首から手を入れて上にかきあげた。
何故か今日もざわざわしてるが昨日の事でそんな事にはなる筈ないだろうから気のせいと自分に言い聞かせて本屋に向かった。
「基礎から解る基本の5教科まではいい。何故中1なんだ?」
ちょっとむっとした喋り方をしてしまったかもしれない。それでも全然気にしてない様子で
「中学の勉強は基本繋がってます。全然わからないっていってましたよね?と言うことは一番最初で躓いてる可能性が高いので中1です」
なんか良くわからないが説得力があるのはみとめる。
中1という思いは消えないけど今までの話を考えると
「そうだな。とりあえずまずやってみるって言ってたからやってみるよ」そう言って選んでくれた本を持ってレジに並ぶ。
土曜日というのもあり人も結構並んでたけど4人もレジの人いたんですぐ買えた。
「選んでくれたお礼と布教もかねて団子買ってくるからフードコートで待っといて」
「りんのおすすめですね何を選ぶか楽しみです」指先で鍵をチャラっと回してフードコートへ歩いていく。やはりざわざわしてるのが少し気になるけどきっと自意識過剰になってんだと思い満月堂に向かった。
途中未来とぶつかった階段を通る。(あ、未来にも買っておくか)未来には王道のお団子を買って遥にはきな粉のおはぎにしようと考えている。餅米の潰し具合が絶妙でそれを粒餡で包みきな粉がまぶしてある。
入り口の緑の暖簾をくぐると夏用の水羊羹のチラシやかき氷の予告が貼ってありお店も夏を意識し始める時期になってる。
「いらっしゃいませ」と店員のお姉さんが出てきたので爺ちゃんと婆ちゃんのにも持って帰ってもらおうとおはぎを二つ包んでもらって食べるように2個と未来と食べるように三色団子とみたらしを2本ずつ包んでもらった。
お金を支払い袋に入れてもらう。
笹っぽい包み紙の緑と満月の黄色が鮮やかな袋をさげてフードコートに向かった。
気のせいだと言い聞かせてたものは気のせいではなく遥の周りに人が集まっている。
困惑してる顔の遥は俺を見つけると駆け寄ってきた。
追いかけてまでは来ないが視線がどうにもうっとおしい。
「こっちだ」そう言って手を引っ張り駐車場に向かった。
何かしたわけでもないのになんなんだあいつら。どうにも気味が悪い。
「どうも遥になんかあるみたいだからちょっと悔しいけど今日はここで帰った方がいいんじゃないかと思うけどどう?」
難しい事は言えないので現状を正直に言ってみた。
「1人引っ張って聞いてみるかとも思うけどもしそれで遥になんかあったら俺凄い後悔すると思うんだ」下を向いて拳を握る。
「何で逃げなきゃいけないと思うけど俺の頭じゃ打開する術が見当たらない」
と言うとそっと拳を握ってくれて
「りんは自転車ですよね?今日は帰ることにします。明日はまた会えますか?」
「午前は今日と一緒で部活だからその後なら大丈夫だよ。なんならうち来てもいいし」
そういうと人差し指を唇に当て「家に誘うなんて大胆ですね」といつもの悪い笑顔を見せてくれた。
「嫌、うち両親どっちか家にいるから大丈夫2人だけで会おうなんてしてないから」
と慌てて取り繕うと
「私は2人でもかまわないですけどね」たしかにそう言ったように聞こえたが
「では行きますので気を付けて帰ってくださいね」と言ってバイクに跨る。
「そうだこれ。爺ちゃんと婆ちゃんの分もあるから持って帰って」と包みを渡そうとすると
「それは明日一緒に食べましょう。約束ですよ」「わかった約束する」そういうとバイクのエンジンをかけたがすぐ切った。
あれっと思うと少しこっちをみながら赤い顔して
「あのーLINE交換して下さい。お願いします」と告白でもしてくるんじゃないかと思う勢いで聞いてきた。
「全然大丈夫。こちらこそよろしくお願いします」と緊張が移ったのか思わず頭を下げた。
お互いスマホを出してLINEを交換する。
「男性と交換するの初めてなんで緊張しますね」と言われると意識してしまい俺も緊張してきた。LINEとお決まりの声がして交換した。「嬉しい」と笑顔を見せ大事にスマホをしまってまたエンジンをかけ「じゃあ行きます。また明日」と走り出す遥の背中をみえなくなるまでずっとみてた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます