第31話 邪悪な粘り 【ざまぁ回】
私は立ったまま、震えた。
マワルに謝ることを身体が拒絶しているのである。
し、死ぬよりマシだ。
意を決してコクンと頭を下げる。
「マ、マワル。……す、すまない。どうか助けて欲しい」
「……どうしてこんな悪いことをしたんだ?」
う……!
マワルを陥れる為にB級モンスターを捕獲しようとして、過ってダークドラゴンの封印を解いたなんて言えない!!
しかも、ダークドラゴンの復活を隠蔽する為に王都を乗っ取ろうとしたなんて絶対に言えんぞ!!
こ、ここは適当にそれらしい嘘をつくしかない!!
「ま、魔が射したんだ!!」
「なんでだ? お前貴族だろ?」
「……こんなこと。とても恥ずかしくて話せないがな……。私の家は貴族といっても領土の狭い貧乏な家だったんだ。屋敷は1階建て、5人いる兄とは同じ部屋で寝ている」
マワルは真剣な顔で私の嘘を聞いていた。
まぁ、嘘と言ってもリアリティはあるだろう。
なにせ、言ってることは本当の話なんだからな。
「私は6男で家を継ぐことはできん。それならいっそ大きなことをしようとな。魔が刺してしまったんだよ」
「…………」
ククク……。いいぞ。
完全にお人好しの顔だ。
ここで涙でも見せればイチコロだな。
私は腿をつねり上げた。
い、痛い!
「うう……。バカだ……。私はバカなことをしたんだーーーー!! うう!!」
腿肉の痛さで涙をポロポロと流す。
そして崩れ落ちて土下座をした。
「うううう!! マワルゥウウウ!! 私が悪かったんだぁあああ!! 反省はしているぅうう!! 今までお前にやった無礼も、ダークドラゴンの件も、全て私が悪かった!! 本当にすまない!! これからは心を入れ替えるからぁあああ!! どうか、どうかこんなバカな私を助けてくれぇえええ!!」
ククク。我ながら役者だな。
思ってもいない言葉がスラスラと出るぞ。
ヤーリーはこちらを見てニヤリと笑っていた。
バカが!!
そんな顔だと嘘が見抜かれてしまうじゃないか!
泣け! お前も泣くんだよ!!
私のアイコンタクトに気がついたヤーリーは大声で泣き喚いた。
「うわぁああああああああああああああん!! 俺が悪かったぁあああああ!! 俺もケンゼランドと同じなんだぁあああああ!! ダークドラゴンを使って一旗上げようとしてしまったんだぁああああ!! ごめんなさーーーーーーい!!」
いいぞ!
マワルもアイアさんも、俺達を憐れみの目で見ている。
お人好しの目だ!!
これなら騙せる!
絶対にイケる!!
私は6男。毎日、兄上達の機嫌をうかがって暮らしていたんだ。
だから、他人の顔色を読むのは得意なんだよ!!
アイアさんは捨て猫を見つけたような顔になっていた。
家で飼えない捨て猫をなんとかしようと助けを求める。
「マワルさん……」
マワルは困りながらも優しい顔を見せた。
「お前達にも色々あったんだな……」
ブハッ!!
お人好しのバカが!!
しかし、ここで笑ってはダメだ。
あと一押し!
「うう……。きょ、協力してくれるかマワル?」
「まぁ……。いがみ合ってたとはいえ、知らない仲じゃないからな。で、俺はどうしたらいいんだ?」
ヌハッ!
いいぞ!!
「うう……。女王様に減刑の提言をして欲しい……」
「…………」
何黙ってんだよクソがぁ!
うん、って言えよバカ!
仕方がない、もう少し角度を変えて攻めるか!
「わかっている! わかっているんだ! 自分達がやった悪事は心から反省している!! 簡単に許してもらおうなんて甘すぎるよな!! だから復興の手助けをしたい!! 罪滅ぼしをしたいんだ!! こんな私でも誰かの為になるなら、こんな幸せなことはない!! どうか、こんな私に罪滅ぼしのチャンスをくれぇえええ!!」
微塵も思っていないがな!!
誰が庶民に手なんか貸すかよ!!
手助けなんて馬鹿らしい。
私は箒すら持ったことのない男なんだぞ!!
マワルは合点がいったようにスッキリとした笑顔を見せた。
「よし。んじゃ、お前達の刑が軽くなるようにさ。俺が女王様に頼んでやるよ」
キターーーーーー!!
バカバカバカバカーーーーーー!!
お人好しのバカーーーー!!
しかし、私は完璧主義なんだ。
ここでバレては水の泡。演技は最後まで完璧だ。
この寸劇を見事に演じきってやる!
私は腿を更に強い力でつねった。
痛でぇえええええええッ!!
「うわぁああああああああん!! ありがとうマワルゥウウウ!! お前は心の友だぁあああああ!!」
嘘の涙をボロボロ流す。
マワルは泣くなと言わんがばかりに笑った。
「んじゃ早速、女王様に会ってくるよ」
「うわぁああああああああ!! ありがとう! ありがとぅううう!! ありがとうございますぅううううう!!」
私もヤーリーも床に伏せて泣いた。
こっそり顔を見合わせると、互いにニヤリと笑っていた。
グフフ。作戦大成功だぁあ!
王都を救ったマワルの言葉なら女王は聞かざるを得まい。
助かった!!
私は牢から遠ざかる奴の背中を睨んだ。
今は勝ち誇っていろマワル。
貴様に土下座したことは助かる為だけにやったに過ぎん。
必ずや復活して、貴様を地獄に落としてやるからな。
そして、アイアさんを私のモノにしてやるんだぁああああ!!
彼女の可憐な唇も胸もお尻もグフフフ……。全て私のモノにしてやるんだぁああああああああああ!!
マワルの背中はドンドン遠ざかる。
バーーカバカバカバカバカバカバーーーーーーーーカ!!
騙されてやんのーーーーーー!!
ギャハハハハーーーーーー!!
微塵も、1ミリも反省してないからなぁあああああ!!
貴様にやった無礼も!
王都をめちゃくちゃにしたこともぉおおお!!
全く反省なんかしてないからなぁあああああああああああ!!
ギャハハハハハハーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
『待て。
それはダークドラゴンの声だった。
マワルは立ち止まる。
「どうした?」
『こ奴らは酷いぞ』
「何が?」
『実はな。我は人の心を読むことができるのだ』
にゃにぃいい!?
『さっきから聞いていれば、それはもう酷い。魔族の方がまだ心が綺麗だぞ』
ハイーーーー!?
マワルはゆっくりと振り向いた。
「ほぉ〜〜。一体、どんなことを言っていたんだ?」
『うむ。我の魔力は相手の声を保存できるのだ。無論、心の声も保存できる』
心の声を保存できるだとぉおおお!?
これは不味い、不味いぞぉおおおおおおおお!!
私は腿の肉を引きちぎれんばかりにつねり上げた。
くはぁあああ!! 痛いぃいいいい!!
「うわぁああああああああん!! 私は反省していますぅうう!!」
嘘の涙で乗り切るんだぁあああああ!!
霧状になったダークドラゴンから、私の声が鳴り響く。
それは数分前に、私が思った心の声だった。
『マワルを陥れる為にB級モンスターを捕獲しようとして、過ってダークドラゴンの封印を解いたなんて言えない!! しかも、ダークドラゴンの復活を隠蔽する為に王都を乗っ取ろうとしたなんて絶対に言えんぞ!!』
そ、そんなぁ…………。
マワルは目を細めた。
「おやぁ? これはどういうことだ? 聞いていた理由と違うじゃないか」
「は……ははは! わ、私にもなんのことだか、さ、さっぱりわからん!! し、しかし、これだけは信じてくれ! お前に詫びた気持ちだけは本心なんだぁあああああああああ!!」
『バーーカバカバカバカバカバカバーーーーーーーーカ!! 騙されてやんのーーーーーー!! ギャハハハハーーーーーー!! 微塵も、1ミリも反省してないからなぁあああああ!! 貴様にやった無礼も! 王都をめちゃくちゃにしたこともぉおおお!! 全く反省してないからなぁあああああああああああ!! ギャハハハハハハーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』
お、終わった……。
マワルはニコリと笑う。
「これから王の間に行こうとしてたけどさ。辞めとくわ」
「ああああああ……。ま、待ってくれぇ。こ、これは違うんだぁあああ」
今度はヤーリーの声が響く。
それは記録された心の声だった。
『アイアちゃんのパイオツかいでーーだな。揉みしだきてぇーーーー!! あの真っ白い太腿も最高だなぁ! 土下座したらパンツ見えるんじゃないかな? デュフフフーー!!』
アイアさんを見ると、恐ろしいくらいに蔑む目をしていた。
「最っ……低……」
ヤーリーのアホがぁあああああああああ!!
こんな時にスケベなことを思いやがってぇええええええ!!
一片、死んでこぃいいいいいいいいいいい!!
「ア、アイアさん信じてください!! 私は心から反省をしているのですぅううううううう!! どうか、どうかご慈悲をーーーーーー!!」
私の叫びは虚しく、ダークドラゴンの霧から保存された声が流れた。
『今は勝ち誇っていろマワル。貴様に土下座したことは助かる為だけにやったに過ぎん。必ずや復活して、貴様を地獄に落としてやるからな。そして、アイアさんを私のモノにしてやるんだぁああああ!!』
あ……。ああああああ………。ああああああああああああああ。
止めを刺すように、更に響く。
『彼女の可憐な唇も胸もお尻もグフフフ……。全て私のモノにしてやるんだぁああああああああああ!!』
アイアさんは……あの女神のように素敵な笑顔を見せるアイアさんは、凄まじい殺気を放つ魔神の形相になっていた。
「 変 態 ! 」
ぬぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
彼女はマワルの腕を抱く。
「マワルさん。行きましょ。ここ、なんか臭いです」
「だな。こんな所、2度と来るのはやめよっか」
そう言って遠ざかる。
あああああ!! そんなぁああああ!!
待ってくれぇえええええ!!
見捨てられたら極刑なんだよぉおおおおおおお!!
「待ってくれぇええええ!! 頼むぅううううううう!! 待ってくれぇえええええええええ!!」
私とヤーリーは泣き叫んで懇願した。
涙が滝の様に流れ出る。
頼むぅう!!
信じてくれぇえええ!!
嘘じゃない!!
「この涙は本物なんだぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
去って行く彼らが立ち止まることはなかった。
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