第30話 ケンゼランドの完全敗北 【ざまぁ】

 

 俺達はダークドラゴンを倒した功績を受けて女王のもてなしを受けた。豪勢な夕食をいただき城で一夜を過ごす。

 


 次の日の朝。


 俺達は、女王からダークドラゴン復活の手助けをした首謀者の話を聞いた。


 まさか、ケンゼランドがダークドラゴンを使って国を乗っ取ろうとしていたなんてなぁ……。


 何を考えて謀反を起こしたんだ??



〜〜ケンゼランド視点〜〜



ーー地下牢ーー


 そこは重罪を犯した犯罪者を閉じ込める特別な牢だった。

 ジメジメと湿気ており、カビとアンモニア臭が漂う。


 私とヤーリーは足枷を嵌められてその牢の中にいた。

 もう絶望しかない。

 

 あの時、マワルがダークドラゴンの攻撃を防いで私達は捕まったわけだが、どうせみんな助かりっこないのだ。

 なにせ、ドラゴンを封印できるカイジョルの聖典は破壊されたのだからな。

 

 ブーメランのスキルが少々強くとも、マワルにドラゴンを倒すほどの力は無いに決まっている。

 つまり、この世界は終わりだ。

 我々の極刑を待つまでも無い。


 今は王都が破壊されるのを震えながら待つのみ。

 堅牢の分、いくらか被害は少ないかもしれない。

 それが唯一の希望だ。

 やれやれだ。由緒正しいソードル家に生まれた私が、どうしてこんな最後になったのか?


 マワル。


 奴が私を狂わせたのだ。

 でも今頃は……。


「どうせダークドラゴンに殺されているんだ」


 幾分、気は晴れた。

 アイアさんまで死んでいることを考えると辛くなるが、これも運命かもしれない。

 マワルの魔の手から救えなかった私の不甲斐なさをお許しください。

 いずれ私も貴女の元へと向かいます。


 今は、マワルが如何に惨たらしく殺されたかを想像して時を過ごそうか。

 それだけが、唯一できる楽しみなのだから。


 足音がする。



コツーーン。コツーーン。コツーーン。



 複数が階段を降りて来てる。

 おかしいな?

 見回りの時間でもないだろうし。

 ダークドラゴンと戦っている時なのに、私達の他に重罪人がいるのだろうか?

 誰だ?


 嫌な奴が顔を出す。


「よう!」


 し、信じられん。なぜ2人がここに!?


「マ、マワル!? ア、アイアさんまで……もしかして、お前達も捕まったのか?」


 この言葉を否定したのは、彼らを案内をしていた城兵だった。


「そんな訳があるか! マワル様はこの王都を救って下さったのだぞ」


 お、王都を救ったぁ??


 私の疑問をよそに、マワルは首を傾げた。

 


「ケンゼランド。どうしてこんなことしたんだ?」


「き、貴様に関係ないだろうがぁああ!!」


 

 マワルを懲らしめる為にこんなことになったなんて、口が裂けても言えない!!



「でもさぁ……。お前ん家、男爵だろ? 俺と違って金に不自由なんかしなかっただろ?」


「貴様に私の辛さがわかるもんかぁあああ!!」


 瞬間。頭部に激痛が走る。

 マワルを案内していた城兵が、槍に付いている棒の部分で私を小突いたのである。




ゴンッ!




「はぎゃあッ!!」


「口の利き方に気をつけよ! マワル様は英雄なのだぞ!!」


「痛ぇ……。え、英雄〜〜!?」


 さっきから、王都を救ったとか英雄とか。


「ど、どういうことだ!?」


「この方が、貴様が封印を解いたダークドラゴンから王都を救ってくださったのだ」


 な、なにぃいいい!?

 つまり、ドラゴンを倒したっていうのかぁ!?

 そんなバカなぁああ!!


「ブ、ブーメランが守護武器の貴様がぁ!?」


 これにはヤーリーも黙っていなかった。

 格子を持って抗議する。


「そうだ!! ブーメランに何ができんだよぉお!! カイジョルの聖典は破壊されたんだぞぉ!!」


 マワルは呑気に笑った。


 

「ダークドラゴンは封印できなかったからさ。血の契約を結んだんだ」



 にゃにぃいい!?



「ふ、ふざけるなぁあああ!! 契約はモンスターとの同意が必要なのだぞ!! ダークドラゴンから同意を得るなんて、そんなことができるもんかぁあ!!」



ゴンッ!!



「はぎゃぁあッ!!」


「口を慎め無礼者! 謀反を起こした国家の犯罪者が! ふざけているのは貴様だろうが」


「くぅう………。お、教えろ。どうやって契約を結んだんだ?」


「どうやってって……。ダークドラゴンの方から許しを請われただけだ」


「はぁ? う、嘘を付け!!」


 出たな虚言癖!!

 騙されるものか!!

 最強と名高いダークドラゴンがブーメラン使いのマワルに血の契約を願い出る訳はないんだ。

 アイアさんの前でこいつの虚言癖を暴いてやる!!

 覚悟しろよ、嘘つきクソ野郎がぁああああ!!




『嘘ではない』



 それは重低音の声。ダークドラゴンの声だった。

 マワルのブーメランから真っ黒い霧状の竜が現れる。



「「 ぎゃぁあああああああああ!! 出たぁああああああ!! 」」


『我は自ら頼み込んで 主人マスターの従獣になったのだ』


 そ、そんなぁ〜〜。

 

「ブ、ブーメランの癖にぃいいい」


 マワルは腰に引っ掛けていた真っ黒いブーメランを取り出した。


「あーー。そのブーメランにダークドラゴンが宿ってるんだよな」


「はいーーーーッ!?」


 し、信じられん。

 ほ、本当にダークドラゴンを従獣にしたのか……。

 

 こうなると、奴の嘘は【名聞なきき】を名乗ったことくらい。


 兵士は誇らしげに笑った。


「流石はマワル様だ。伝説の【名聞なきき】は伊達ではない」


 いいぞ、最高のチャンスだ!

 この話題を広げて、アイアさんを失望させてやる!!


「ふ、ふふふ……。【名聞なきき】などと言われても、こちらに声が聞こえないんじゃな。証明しようがあるまい。大方、格好の良い伝説を聞いて注目を浴びようとして名乗り出したに過ぎん。その証拠に、マワルと初めて会った酒場ではそんなこと、一言も言わなかったんだからな。それを急に言い出したんだ。どう考えても嘘だろうが」


 ははは! 完璧だ!! 論破成功!!

 決まった!!

 決まり切ってしまった!!


 アイアさん、奴は嘘つき野郎なのです!

 私はこんな見窄らしい格好になってしまいましたが、貴女を魔の手からは救ってあげたい。

 これが私にできる愛の証です。

 どうか、気づいて欲しい。


『なるほど。ヴァンスレイブ殿の声はみんなには聞こえぬのか』


「ああ。そういえば、お前はブーメランに宿ったから聞こえるのかな?」


『勿論だ。ヴァンスレイブ殿とは仲良くやらしてもらっている』


「ははは。そうなんだ。んじゃあ宿ったのは案外良かったのかもな。1人より楽しいだろうし」


 な、なんだこの会話は??

 ヴァンスレイブといえば、マワルが言っていたブーメランの名だ。

 その名をどうしてダークドラゴンが知っているんだ?

 

『では、我の魔力を使ってヴァンスレイブ殿の声を聞こえるようにしよう』


 な、なにぃいいいいいッ!?


 重低音の男の声が牢屋に響いた。




『我はヴァンスレイブ。マワル・ヤイバーンの守護武器である』



 

 な、なんだとぉおお!?

 ほ、本当にブーメランが喋っているぅううう!!


「あは! 凄いですマワルさん!!」


 そう言ってアイアさんは奴の腕を抱いた。


 くそぉおおお!! 

 なんでこうなるんだよぉおおおおおおお!!


「流石はマワル様だ! 守護武器が喋るなんて前代未聞。声を聞けたことが光栄です!!」


 クソクソクソォオオオオ!!

 なんでこうなるんだよぉおおお!!


 ヤーリーは格子に顔をはめ込んだ。



「マワル!! お前の凄さは、よぉおくわかった!! これまでの非礼は全部謝る!! だから頼む!! 助けてくれ!!」



 くっ!


「ヤーリー、貴様にプライドはないのか?」


「んなこと言ってる場合かよ! 王都は助かったんだ! このままいけば俺達は極刑だぞ!! 減刑できるのはマワルだけだ!!」


 うう……。

 た、確かに、そうかもしれん。


「女王に提言できるのはお前だけなんだ!! な!? な!? 頼むよ!! 助けてくれ!!」


 ヤーリーは土下座をしながら額をゴンゴンと床に打ちつけた。

 マワルは困った顔で戸惑うだけ。

 

 こいつの戸惑う顔……。



 お人好しの顔だ!!



 押せば言うことを聞いてくれる顔だぞ!!

 これは完全に脈がある。


 し、仕方がない。

 今はこれしか方法はないんだ。


 プライドを捨て、奴に1万歩、いや、1億歩譲って、




 謝 る し か な い !!

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