第24話 ケンゼランドの王国
〜〜ケンゼランド視点〜〜
マワルがダークドラゴンと戦う前の時間。
私とヤーリーは王の間へと通された。
そこは展望台と繋がっており、国王は王都を見下ろして汗を垂らす。
白銀の髪をした美しい女性だ。
我らが城主、ハジマール女王である。
「っく! なんてことだ。ダークドラゴンの復活だ」
女王は太くキリリとした眉を寄せた。
ダークドラゴンの伝説は誰もが知っている脅威なのだ。
「ハッハッハッ! 女王ともあろうお方がどうしたというのです」
ククク。これからこの城が自分のモノになると思うと笑いが止まらん。
「誰だ?」
「おお、これはこれは。お初に目にかかりますか。一介の、しがないE級冒険者など、女王に覚えられる訳もありませんなぁ」
女王は大臣に顔を向けた。
「誰だこいつは?」
大臣は私を横目にボソボソと話す。
「何? あのダークドラゴンを封じるだと? そんなことができるのか?」
「ははは。これは話が早い。私の名前はケンゼランド・ソードル。ソードル男爵の6男でございます」
「ほぉ。貴様、ソードル家の者か。して、その方法とはなんだ?」
私はヤーリーを紹介した。
「この者はヤーリー・ランサーゴ。騎士団長ランサーゴの息子でございます」
ヤーリーは輝く聖典をみんなに見せた。
「そ、その本は……も、もしや……?」
「そうです。カイジョルの聖典」
「何ぃいい!? それを持っているということは、あのドラゴンの封印を解いたのは貴様らか!?」
ククク。ご名答。
「そんなことはどうだってよいでしょう。問題は誰があのドラゴンを止めるかではないのですか?」
ダークドラゴンは漆黒の炎を吐いて王都を燃やしていた。
「……と、止めれるのか?」
「勿論です。このカイジョルの聖典には封印の呪文が書かれていますからね。読めるのは、ここにいるヤーリーだけです」
女王は汗を流した。
私の態度に危機感を募らせたのだ。
「……も、目的はなんだ?」
「ククク……。まぁ、そう焦らないでください」
ここでいきなり王位略奪の話を持ちかけてはダメだ。
どうせ、証拠を求められるのだからな。
「このカイジョルの聖典がどれほど有用か証明しなければいけませんねぇ」
私とヤーリーは王の間に設置された展望台に出た。
ダークドラゴンがよく見える。
さて、この聖典がどれほどの力か見せてやろうか。
「ヤーリー。聖典を使え」
「お、おう」
彼が聖典を開くとそこから光りが溢れ出す。
どうやら聖典の力は本を開いた時に発動するようだ。
丁度その時。ダークドラゴンの炎がハジマール城を包み込んだ。
ボワァーーーーー!!
これはチャンスか、はたまたピンチか。
これは大きな賭けだ。
この行動に出なければどの道、絶望しかないのだからな。
大臣をはじめ、家臣達は慌てふためく。
「うわぉあ!! 助けてくれーー!!」
「終わったーー!!」
「運命神バーリトゥースよお助けくださいーー!!」
同時に、聖典の光は城を包み込んだ。
それはいとも簡単にダークドラゴンの炎をかき消した。
パシューーンッ!!
勝った!!
やはり運命神は私達の味方だ!!
大臣は汗を垂らして生死の確認をした。
「た、助かったのか?」
ククク……。
聖典にダークドラゴンの攻撃は効かない。
奴はこの聖典に触れることすらできないのだ。
後は封印の呪文を使ってドラゴンを封じるだけ……。
ならばその前に大事な交渉といこうか。
「どうです女王。この聖典の力は本物でしょう?」
「…………な、ならば、その力を使って、あのドラゴンを封印してくれ」
「フフフ……。そう簡単に貴女の言うことが聞けるとお思いですか?」
「れ、礼ならばする! 王国の領土を分け与え、お前達の身分を格上げすることもしよう!」
「ククク……。小さい……。小さいですよそんなこと」
「な、ならば力づくで言うことを聞かせることもできるのだぞ」
兵士達は私に槍を向けた。
「ふっ……。構いませんよ。私を傷つけても。ただしそんなことをすればダークドラゴンはこの国を滅しますけどね!!」
「く……!! も、目的はなんだ!?」
私は女王の椅子に座った。
「この国をいただこう」
周囲は凍りついた。
ヤーリーは鼻息を荒くして興奮する。
◇◇◇◇
女王は大臣にS級冒険者を集めさせた。
どうやら、私の考えに反抗的らしい。
国内でも最高位になるS級魔法使い達が、一斉に魔法壁を発動する。
聖典は閉じたままである。
開かなければ力を発動しないのだ。
ククク。ダークドラゴンはこの聖典が無ければ倒せないからな。
歴史が証明しているんだ。
さぁて、S級の魔法壁でどこまで保つか?
魔法壁は城を包み込み、ダークドラゴンの炎に耐えた。
しかし、3発ほど喰らったところでひびが入る。
ピシィッ!!
「じょ、女王様!! 我々の魔法壁ではあのドラゴンの炎は防ぎきれません!! 次の攻撃で壁が壊れます!!」
軍事官長が王の間に飛び込んできた。
「女王様! ハジマール兵が壊滅状態です!! 応援に駆けつけたS級冒険者達ですら太刀打ちできません!!」
ククク。いよいよヤバくなってきたな。
「おやおやぁ? どうやら無駄な努力だったみたいですね? どうします? このまま国ごと滅ぶか、王国を引き渡すか、貴女が選んでください」
女王は顔を歪めた。
今にも泣きそうな表情である。
ククク。美女の困った顔は堪らんなぁ。
「よ、良かろう……。王位は譲る。国を助けてくれ」
やったぞ!!
計画成功だ!!
「では大臣。これからは私とヤーリーに仕えるんだ。いいな?」
「……は、はい」
「女王を縛れ」
「そ、そんなこと……」
「やれよ。新しい国王の命令だぞ」
「くぅ……」
「女王はここに置き。他の王族は牢に閉じ込めろ」
大臣は兵士に命令を下し、女王は縛られた。
女王は私を睨む。
「貴様。我々をどうするつもりだ?」
「さぁてね。まずはダークドラゴンを封印してから考えましょうか」
王族は人質だよ。
私達が完全にこの国の権力を奪うまではね!
「ヤーリー。ドラゴンを封印するんだ」
「おう!」
ククク。新しい国の始まりだぁ。
ヤーリーが封印の呪文が書かれたページをめくる、その時。
軍事官長の部下が入ってきた。
「戦っています!!」
なんの話だ?
「1人の冒険者がダークドラゴンと戦っているのです!」
ふん。くだらん。
どうせそんな攻撃は効かない。雀の涙だろうよ。
みんなで展望台に出ると、ダークドラゴンが誰かと戦ってるのが見えた。
小さすぎて見えんな。
空を飛んでいるようだが……。魔法使いか?
国中にいるS級の魔法使いは城に集められたからな。
大方、A級の魔法使いが健闘しているのだろう。
「ふん……。どうせやられるのがオチだ」
「それが攻撃が当たらないのです!!」
「ほう……。A級でも凄い魔法使いがいるのだな」
「魔法使いではありません!!」
魔法使いではない!?
そういえば、あの冒険者の足元。
妙な気流が渦を巻いているな。
雲に乗る飛行魔法とは違う雰囲気だ。
「スキルなのか? 一体どんな冒険者なんだ?」
兵士の言葉に眉を寄せた。
「その冒険者は──」
私とヤーリーは息を呑んだ。
恨みと驚きが頭の中で渦を巻く。
「ブーメランを使って戦っているのです!!」
何ィイイイイイイイイ!!
ブーメランだとぉおおおおおおおおおおおおッ!?
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