第21話 ブーメラン最強を証明する者

 上空には巨大な竜。その瞳は禍々しく真っ赤に光り、全身は闇の様に暗い。翼を広げたその姿は全長100メートルを超えていた。

 恐ろしい鳴き声は王都中に轟く。それを聞くだけで体は震え、気の弱い者ならばたちまち卒倒してしまうだろう。


「デ、デカイ……。あの真っ黒い竜……どこかで」


 俺はフードと化しているブクブクにモンスター図鑑を出してもらった。

 その最後の方のページ。



「あった! あいつ、S級モンスター、ダークドラゴンだ!!」



 ドラゴンはドス黒い炎を吐いた。



ゴォオオオオオオオオオオオッ!!



 炎は王都を分断する。

 周囲に響く都民の阿鼻叫喚。


「酷でぇな……」


 王都は周囲を魔法壁で守られている。

 炎はその壁を簡単に貫いているのだ。



『主。ダークドラゴンはゴブリンキングなど比にならない程の魔力量だぞ』


「みたいだな……。あんなモンスター、王都兵でも太刀打ちできねぇよ……」


『逃げるのが得策だ』


 逃げるか……。

 確かにそうかもな……。でも。


「アイアが心配だ」


『彼女なら無事だ。我の 魔力感知センシングは彼女の魔力を感知できる』


 そうか……良かった……。


『どうやら回復魔法を使っているようだぞ』


「火傷をしたのか?」


『いや。誰か他の者に施しているようだ』


「きっと彼女のことだから、道ゆく人で火傷を負った者を回復しているんだろう」


『ふむ。彼女は心優しい女性だな。逃げるより他者の命を大事にしている』


 当然だろ。なにせ彼女は大僧侶をめざしてんだからな。


 そうだ。俺は彼女と約束したんだ。

 


 2人で名を馳せるって。


 

 アイアは大僧侶。俺は飛刃聖になるんだ。




「フッ……。こりゃあ、逃げてる場合じゃないな」


『ふむ。主ならそう言うだろうと思っていた』


「なんだよ。俺のことがわかってきたじゃんかよ」


『当然だ。我は主の守護武器だからな』


 心強い相棒だな。


「あの消えない炎。消す手立てはないかな?」


『あるぞ』


「どんな方法だ?」


『新しく覚えたスキルだ』


 なるほどな。

 ゴブリンキングを倒してレベルアップした、2つ覚えたうちの1つか!


 ヴァンスレイブは合点がいったように次の案を推測する。


『ではそのスキルを使って炎を消し、アイアと合流するのだな』


「いや、やめておこう。彼女は僧侶の仕事をしている。俺は俺の仕事をするさ」


 あのドラゴンは強敵だ。それに王都は広い。

 都民を守ろうにも俺1人じゃ難しい。

 まずは協力者を募ろうか。



「ダークドラゴンを倒す」




 俺はそう呟くとギルドへと向かった。



◇◇◇◇



ーー緑のギルドーー


 冒険者達は皆、外に出て空を見上げていた。

 受付嬢が俺を見つけて手を握る。


「ああ、良かったマワルさん。無事だったんですね」


「みんなも無事そうでなによりだ。S級の冒険者はどうしてんだ?」


「みんなお城に召集されました」


 城は中央広場の先にあった。

 強力な魔法壁を纏いダークドラゴンの炎を弾く。

 

 受付嬢は指さした。


「S級の魔法使いが数人がかりで魔法壁を作っているんです」


 やれやれ。王族を守って王都民は見殺しかよ。


「だったらA級以下の冒険者でやるしかないな!」


 冒険者達は目を見張る。


「「「「 何を!? 」」」」


「決まってるだろ! みんなでダークドラゴンと戦うんだよ!!」


 鞭使いの女が俺に怒鳴り込んできた。


「ブーメランの坊や! あんた馬鹿じゃないの!? ダークドラゴンはS級モンスターなのよ!! 私達が束になったって敵う相手じゃないわよ!!」


 確か、この人は……。酒場で俺のことをお笑い芸人になりなさいよ、って馬鹿にしてた女だ。


「あんた最近調子いいみたいだけどね。調子に乗り過ぎたら命を落とすわよ!!」


「でも、俺達が戦わなきゃ、誰がダークドラゴンを倒すんだよ?」


「そ、そんなの知らないわよ!」


 みんなは城の魔法壁を見て震えた。


 城の魔法壁がひび割れてる……。黒い炎に耐えられるのも時間の問題だ。


「みんなで力を合わせてさ! 王都を守るんだ!!」


「「「「  ………………   」」」」


 ダークドラゴンが翼を動かすと竜巻が起こった。

 その竜巻で王都の建物は舞い上がる。


 1人の冒険者は震えた。


「お、終わりだ……。あんなモンスター、例えS級冒険者だってよ。……勝てっこない」


 他の冒険者も同様。そして一様に荷物をまとめ始めた。


 まさか……逃げるのか?


「城の魔法壁は今にも壊れそうだ。城が壊れれば王都は終わる」


 鞭使いの女は俺を睨む。


「だからどうだっていうのさ。私らがあんな化け物と戦える力なんてないのさ」


 丁度その時、ギルドに向かって走ってくる女がいた。

 女は1人。その背中には生まれて間もない赤子を背負っていた。


「冒険者様! どうかお助けを!!」


 王都民が冒険者に助けを求めにきたんだ!


 しかし、誰1人としてその女の声に応える者はいなかった。

 女は転倒し、赤子は泣き叫んだ。



「おぎゃぁ! おぎゃぁああああああッ!!」



 鞭使いの女は苦笑い。


「あの女、ついてないね。私らに助ける力はないのさ」


 マジかよ。


「一緒に逃げるくらいはできんだろうが!」


「ふん! あんな赤ん坊を背負ってたら逃げるのも遅れちまうさ!」


 刹那、ダークドラゴンの炎が俺達に向かって放たれた。

 それは火柱を上げて次々と建物を燃やしてこちらに接近して来る。




ゴォォオオオオオオオオオオオオオッ!!



「おぎゃぁああああああああああああああッ!!」


 赤子の鳴き声が大きくなる中、冒険者達は慌てふためいた。


「逃げろぉおおお! 逃げろぉおおおおおお!!」

「終わったぁああ!! 何もかも終わったぁあああ!!」

「ひぃいいい! 助けてくれぇえええええッ!!」


 鞭使いの女は俺の手を取った。


「さぁ! ブーメランの坊や。あんたも逃げるんだよ!!」


 俺はその手を払い退けた。



「俺は逃げない!!」


「ブーメランの坊や。本気かい!?」


「俺の名前……。まだ覚えてないんだな」


「名前なんてどうだっていいだろ!」


「俺はギルドで宣言した。覚えておいてくれ。俺の名前はマワル・ヤイバーン──」



 俺は走り出した。







「──ブーメラン最強を証明する冒険者だ!!」







 母子の前にはドス黒い炎が迫っていた。

 俺はその前に立ち、ブーメランを投げた。

 



ギュゥウウン!!




 ブーメランは反り上がって停止。その場でギュルギュルと回り始めた。

 まるで空間をこそげ取るよう勢いである。

 それは渦を巻きダークドラゴンの炎を消滅させた。





回転防御スピンディフェンス!!」





 新しく覚えたスキル。いい感じだ!

 これでダークドラゴンの炎を消滅できるぞ。



「なにぃい!? ダークドラゴンの炎をかき消しただとぉおお!?」

「マ、マジか!? あのガキ、確かE級だろ!?」

「す、すげぇ……」

「た、助かったのか!? 俺達!?」



 俺が赤子を拾い上げると、ほんの少し泣き止んだ。


 ふふ……安心しろよ。


「お前の母ちゃんは無事だからな」


 赤ん坊を渡すと、母親は何度も頭を下げた。


「ありがとうございます! あなたは命の恩人です!!」


 さぁて、冒険者達には仕事をしてもらうかな。




「この人を連れて逃げろ!」



 

 俺の言葉に反応したのは受付嬢だけだった。


 やれやれ、仕方のない奴らだな。


 彼女は母子を介抱する。



「マワルさんはどうするんですか?」


 俺か……?



「決まってるだろ──」



 冒険者達は青ざめた。

 俺の言葉を聞いて、ただゴクリと唾を飲み込む。






「ダークドラゴンをぶっ倒す!!」








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現在の状況【読み飛ばしてもストーリーに影響はありません】




名前:マワル・ヤイバーン。


冒険者等級:E級。


守護武器:ブーメラン。


武器名:ヴァンスレイブ。


レベル:8。


取得スキル:

戻るリターン

双刃ダブルブーメラン

回転遅延スピンスロウ

絶対命中ストライクヒット

回転防御スピンディフェンス。NEW

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アイテム:薬草。図鑑。


昇級テスト必須アイテム:

白い角。黒い牙。緑の甲羅。



所持金:6万1千エーン。



仲間:僧侶アイア・ボールガルド。

オバケ袋のブクブク。

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