第20話 始まる恐怖

〜〜マワル視点〜〜




ーー緑のギルドーー




「はい。これがアイアさんのE級バッジです」


 受付嬢がアイアにバッジを渡した。


「あは! 見てください。これで私もマワルさんと同じ等級ですよ!」


 アイアの歓喜に呼応して俺のフードと化していたオバケ袋のブクブクが飛び跳ねた。


『ブクブクゥ!!』


「お、おい! ギルドで声を出すんじゃない! 見つかったらめちゃくちゃ怒られるんだからな」


『ブクゥ〜〜』


「あはは。ブクブクちゃんは喜んでくれてるんだよねーー」


『ブク!』


「あは! アイアが合格してとっても嬉しいって言ってますよ」


 本当かよ?


「ま、いっか。めでたいことには変わりない。どこかで飯でも食うか。今日は奢るよ」


 アイアは真っ赤な顔になって身をよじらせた。


「あ、あの……。だったらいいですか?」


「ああ、なんでもいいぜ。豪華に行こうよ」


 彼女の要望を聞いて、俺達がギルドを出ようとするとヒソヒソと話し声が聞こえて来た。


「おい、見ろよ! あの野郎。なんでもゴブリンキングを倒しちまったんだってよ」

「え? マジ?? どうせガセでしょ!」

「いやぁ! 試験官のチェックが言ってんだからよ。相当信憑性は高いぞ!」

「あのブーメラン使いの坊や、E級でしょ?? どうなってんのよ??」


 ったくチェックさんのお喋り。


 アイアは首を傾げた。


「なんかゴブリンキングを倒した凄い冒険者がいるみたいですね?」


「え? あ、ああ。だな。……だ、誰だろうな??」


「なんかブーメランって聞こえたんですが……?」


「ははは。き、気のせいだって行こうぜ」


「うーーん。マワルさんは私のテストの応援をしてくれてましたし……」


「ま、いいじゃん。行こ行こ。今日はアイアが主役なんだからさ」


「は、はぁ……。でもブーメランって聞こえたんですよねぇ?」



 ◇◇◇◇



ーー王都中央広場ーー


 俺達はベンチに座ってソフトクリームを食べていた。

 アイアと初めて出会った日に2人で食べた、王都の名産ハジマールソフトである。


 俺達の両手にはソフトクリームが2本あった。

 ノーマルのバニラクリームとチョコとバニラのおいしいやつ。

 

 でもなぁ……。


「こんな安いのでいいのかよ?」


「えへへ……。いいんです……。もう一度、マワルさんと2人きりで食べたかったから……」


『ブクブク!』


「あは。今日はブクブクちゃんもいるよね。食べる?」


 アイアがソフトクリームを差し出すと、ブクブクは俺のフードになったまま大きな舌を出してペロペロと舐め始めた。


「おいおい。王都内にモンスターがいるんなんて見つかったら厄介なんだからな。他の人にバレないように食えよ」


『ブクブク!』


「任せとけ! 絶対にバレないから安心しろ! それにしてもこの冷たい食べ物は甘くて美味しいなぁ! ですって」


 本当に言ってんのかよ!?


「グスン……」


 気づけばアイアは泣いていた。


「お、おい。どうしたんだ?? お腹痛いのか??」


「あ、ご、ごめんなさい……。その……。なんだか嬉しくて」


「アイス食ってるだけだろう?」


「私……。今、とっても幸せです」


「え? アイス食ってるだけだろ??」


「それだけじゃないですよ。マワルさんと一緒なのが嬉しいんです」


「俺と一緒なのが泣くほど嬉しいのか? 変わった奴だなぁ」


「だってぇ……。マワルさん……。とっても優しいんですもん」


 そうなのかな? 普通なんだがなぁ……。


「冒険は快適だし、私は直ぐに昇級しちゃったし……。あのテストだって……。マワルさんが応援してくれなかったら合格できなかったかもしれません」


「んなことないって。ゴブリンを倒したのは全部アイアの実力だよ」


「それもこれも全部マワルさんのおかげです。私、今とっても充実してます!」


「大袈裟だなぁ」


 アイアは立ち上がって深々と一礼した。


「マワルさん! ありがとうございます!!」


「おいおい。辞めろよ。仲間だろ、俺達」


「えへへ……」


「まぁ、喜んでんなら良かったけどよ」


「じゃあ、仲間ついでに甘えてもいいですか?」


「あ、なんだよ! さては高い物をせびるつもりだな?」


「えへへ……。私が昇級したら、またソフトクリームを食べさせて欲しいんです」


「は? そんな安いもんでいいのかよ??」


「安くないですよ。一緒に食べるんですよ?」


「んなもん。いくらでも奢ってやるよ。バケツ一杯食わせてやる!」


「あはは。そんなには食べれませんよ」


「俺達は大陸に名を馳せる冒険者になるんだぜ! S級クエストもガンガン攻略してよ! 大金持ちだよ!」


「はい! マワルさんは飛刃聖。私は大僧侶です!!」


「おうよ! 剣聖ブレイズニュートを超える冒険者になってやるんだ!!」


 俺達は中央広場に聳え立つブレイズニュートの石像を見上げた。


「アイアがS級のテストに合格したらさ。最高級の装備を買ってやるよ」


 アイアはゆっくりと首を振った。


「その時も一緒にソフトクリームが食べたいです」


「は? なんだよ? お前そんなにソフトクリームが好きなのかよ?」


「私がこの先、C級になってもA級になっても、そしてS級になっても……。マワルさんと一緒にソフトクリームが食べたい」


「なんだよ安いなぁ〜〜」


「……私にとってはとてつもなく豪華な時間です」


「なんじゃそりゃあ?」


「……約束。してくれますか?」


「別にいいけどさ……」


「あは! マワルさんありがとうございます!!」


「なんだよ。調子狂うなぁ」


「す、すいません。気分を害しましたか?」


「いや、そういうんじゃないけどよ」


「えへへ……。なら良かったです。じゃ、じゃあ、指切りげんまんしましょう」


「おいおい、約束は忘れないって!」


「いいじゃないですか! はい」


 細く、真っ白い肌の小指を俺の目の前に出す。


 やれやれ。女の子ってのはこんなのが好きなんだな。


 俺が小指を出そうとした時。

 腰に付けているブーメランがブルブルと震えた。



『主! とんでもない魔力が接近してくるぞ!!』


 

 ヴァンスレイブの 魔力感知センシングである。


 俺は危機を感じ取ると、自然に体が動いていた。




ドンッ!!




 アイアを力一杯押す。

 もう、体を抱えて避ける時間すらない。

 吹っ飛ばされた彼女は俺の対面から5メートル離れた。




「マ、マワルさん!?」




 

 その声をかき消すように、俺とアイアの間には真っ黒い炎の柱が立った。





ドババババァアアアアアアアアアアアアアアッ!!




「アイアーーーーッ!!」



 俺の声は炎によってかき消される。

 炎によって分断された地面。対岸はその炎で見えなかった。



 ちくしょう!

 一体なんなんだよ!?


 空を見上げると、それは数キロ先の雲間から見えた。


 真っ黒く、巨大な体。

 大きな翼を持った竜だった。



「ア、アイツが炎を吐いたのか!?」




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現在の状況【読み飛ばしてもストーリーに影響はありません】




名前:マワル・ヤイバーン。


冒険者等級:E級。


守護武器:ブーメラン。


武器名:ヴァンスレイブ。


レベル:8。


取得スキル:

戻るリターン

双刃ダブルブーメラン

回転遅延スピンスロウ

絶対命中ストライクヒット

魔力感知センシング

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アイテム:薬草。図鑑。


昇級テスト必須アイテム:

白い角。黒い牙。緑の甲羅。



所持金:6万1千エーン。NEW



仲間:僧侶アイア・ボールガルド。

オバケ袋のブクブク。

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