第19話 最恐の復活 【ざまぁ】


 女は目を瞬かせた。


「ここって祠なんですか? 村外れで女の独り暮らしなんです。昔の建物を家にしてはいけませんか?」


 なるほど。

 村外れに女が祠を利用して住んでいる訳か。

 と、なると、この女を襲っても誰も助けは来ないことになるな。

 グフフ。これは好都合だぞ。


 ヤーリーも人気の無さにイヤラシイ涎を垂らしていた。


「お、おいケンゼランド! 早くその鳥を操って扉を開けてやれよ! お姉さんが困っているぞ。デュフフ」


「お、おう! 困っている女性を助けるのは冒険者の務めだな。グフフ」


 私は誘いの笛を使ってカギルア鳥を扉の目の前へと誘導した。



ピ〜〜ヒョロピ〜〜。


 

 カギルア鳥は扉の前に行くと全身を輝かせて扉の鍵穴へと吸い込まれた。



ガチャン!



 解錠の音と共に扉が開く。


 おお! 開いたぞ!!


「お嬢さん開きまし──」


 言葉に詰まる。

 女はシワだらけの老婆になっていたのだ。


「ヒィッ! な、なんだお前は!?」


 どうして女が老婆に!?


 老婆は笑った。その声は男のように野太い。




「ハハハハハハハハ!!」




 その瞳は血のように真っ赤で、明らかに人ではなかった。

 老婆は手籠を地面に落として高らかに笑う。

 その手籠が急に重くなると、ヤーリーはその異様さに目を見開いた。


「何ぃ!? 石になってるだとぉ!?」


 薬草と土ウサギが石ころに変化している。

 

 開いた扉の中では何かが光り輝いていた。


 あ、あれは……。あの輝く本は……。

 せ、聖典だ。





「カイジョルの聖典……」




 私の呟きに、老婆は野太い男の声で答えた。



「そのとおり。お前たちが我を解放してくれるのだぁあああああ!!」



 か、解放だとぉ!?



「き、貴様、一体何者だぁああ!?」






「我はダークドラゴンの化身」





 ダークドラゴンだとぉおお!?

 ど、どうしてそんな化身が私達の前にぃぃい!?



「塔より漏れた我の魔力を人の形にしたのだ」


「わ、私達はダークドラゴンの封印を解く手助けをしてしまったのか!?」


「ククク。そのとおり。この祠の扉を開けることができるのはカギルア鳥だけ。我は化身を使ってそのチャンスを伺っていた。しかし、カギルア鳥は近づけば逃げてしまう。まさか誘いの笛を持ってくる人間がここに来るとはなぁ!」



 や、やってしまったぁあ!!

 まさか、マワルをやり込める作戦をダークドラゴンに利用されるとはぁああ!!

 


「冒険者よ。大方、良からぬことでも考えていたのだろう。残念だったなぁあ!! ハハハハハハーーーー!!」



 老婆は不気味に笑った。



「「  ヒィイイイイイイイイイッ!!  」」



 私とヤーリーはブルブルと震えた。

 老婆が手をかざすとヤーリーはフラリと立ち上がった。



「お、おい! ヤーリー! ど、どうしたんだ!?」



 ヤーリーは返事もせずに祠の中へ入った。

 


「私は聖典に触れないからな。こいつに持ってもらうとしよう」


 

 老婆がそう言うと、彼は眠ったようにフラフラと聖典を手に取った。


 い、いかん! あの聖典にはダークドラゴンの封印を解く呪文が書いてあるんだ。

 それを読めば本当にドラゴンが復活してしまう!!


「さぁ、解放の呪文を読むのだ」


 ヤーリーは聖典を捲り、呪文を読み始めた。


「ヤーリー辞めろぉおお!! ダークドラゴンの封印が解けてしまう!!」


 老婆は雷を放った。

 私はそれをモロに喰らい3メートル飛ばされる。


「うげっ!!」


 く、くそ! 

 ダメージはそれ程だが、ヤーリーを止められん!


 彼が数行の呪文を読んだ所で地響きが起こった。




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………。



  

「グハハハハ……。我が目覚めるぞ。300年の封印は長かった」



 老婆が笑うのと同時。その体はドロドロと溶けて地面に消えた。


「あ、あれ? どうして俺、本なんか持ってんだ??」


「ヤーリー。私達はやってしまったんだよ!」


「な、何を!?」


 地響きは、遠くに見えるロントメルザの塔から聞こえた。

 塔の高さは100メートル。

 やがて手足を生やして翼を広げた。


 なんてことだ……。

 塔の中に封印されていると思っていたが、違った!

 あの塔自信がダークドラゴンだったんだ!!


 

 雄叫びが鳴り響く。

 それはダークドラゴンが出した歓喜の声だった。






『 グォオォオオオオオォオォォォォオオオオオオオオオオッ!! 』





 その声は大きく、強風を起こした。それは300メートルも離れた私達にまで届いた。


 立ってられん。まるで台風だ。


 ヤーリーは目に涙を溜める。


「お、お、おい。ケンゼランド! ダークドラゴンが復活しちまったぞぉおお!!」

 

「うう……」


 ダークドラゴンの復活……。

 こんなことが王に知れたら爵位剥奪だ。

 それどころか、ソードル家は汚名を着せられて、私は一生牢獄行き……いや、極刑だぁああ。


 ダークドラゴンが翼を羽ばたかせると、更に大きな風が吹き荒れた。


 いや、もうそれどころじゃないな……。

 た、大陸滅亡だ……。

 お、終わった……。


 ヤーリーは号泣していた。


「どうしよう!? なぁケンゼランドどうしよう〜〜!?」


「わ、私にわかるもんか……うう」


 気づけば私も泣いていた。

 

 ダークドラゴンは呟いた。


「我を封印した奴らは王都にいたな……」


 大きな翼を羽ばたかせる。

 

 飛んでいる先は……お、王都だ。


「ケンゼランドォオオ!! みんな死んじまう〜〜!! 死んじまうよぉおおお!! うえぇええええん!!」


「うう……。ううう……」


 女を襲うことなんか考えるんじゃなかった……。

 あんな誘い無視していればこんなことにはならなかった。

 ……いや、それどころか、こんな場所に来るんじゃなかったぁあああああああ!!


 ああ、やってしまったぁああ。



 何もかも終わった。


 

 終わったんだぁああ!!



「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんッ!!」

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