第11話 仲間になったモンスター


〜〜マワル視点〜〜


 俺達は王都ハジマールに戻る道中、沢山のモンスターと戦った。

 昇級テスト用の素材が3つ集まったころ。洞穴を見つける。


「マワルさん。こんな所に洞穴がありますねぇ。中はどうなっているんでしょうか?」


「貴重なアイテムがあるかもしれないな。でも暗い場所に入るアイテムを持ってきてないよ」


「あーー。確かに松明とか絶対に必要ですよね」


 

 万が一、深い場所だったりしたら大変だ。アイアにもしものことがあったら親御さんに顔向けできないや。

 

 俺達が諦めて立ち去ろうとしたその時。洞穴の中から奇声が響いた。



『ぴえぇえええええええッ!!』


 

 

 同時に真っ白い物体が飛び出す。それは俺の腰ほどの高さがある袋だった。


 なんだぁ? クラゲみたいに動いてんな……モンスターか?

 丸いのが2つ付いてるけど、瞬きしてるから目だろうな。

 


「マワルさん。オバケ袋ですよ!」


 

 図鑑を手にしたアイアが叫ぶ。


 初めて出会う敵だな。

 袋の角が猫の耳みたいになっている。

 小さくて見た目は可愛らしいけど、どうせモンスターは人間に危害を加える存在だからな。

 倒しておくか。


 真っ白いオバケ袋は真っ黒いオバケ袋に取り囲まれた。




『ぴぇえええええ〜〜!』



 ん? なんだか様子がおかしいぞ?



「マワルさん。あの真っ白い子。黒い袋に虐められて泣いているみたいですよ」


 モンスターの仲でも虐めがあんのかよ。世知辛いなぁ。

 でも、そんなことは俺達にとって関係ないんだ。

 白も黒も同じモンスター。やっつけちまえばいいんだからよ。


 白いオバケ袋は黒いオバケ袋に叩かれて地に伏した。



『ブグゥウウウウウ〜〜〜〜!!』



 倒れたオバケに黒いオバケは馬乗りになってボカボカと叩く。


『ぴえぴえええええええッ!!』


「あ……えーーと。なんだかあの白い子泣いてるみたいですけどぉ……」


 ……いや、関係ないんだ。

 所詮はモンスター。白も黒も倒してしまえばそれでいい。


 真っ黒いオバケ袋はみな笑っていた。

 集団でやるこの行為を楽しんでいるのだ。

 まるで、ギルドで笑われた自分と重なる。


『ぴぇええええええええええ〜〜ッ!!』


 白いオバケ袋の鳴き声が響く。


「マ、マワルさん……」


 アイアは俺を見ながら狼狽えるだけ。


 

「あーー、もう仕方ねぇなぁああッ!!」



 俺はブーメランを投げた。





ザンッ!!




 

 それは馬乗りになって殴っていた黒いオバケ袋に突き刺さる。



『ぴえ?』


「あは! あの白い子を助けるんですね!!」


「仕方ねぇ。成り行きだぁ!!  双刃ダブルブーメラン!!」


 俺とアイアはブーメランと鉄球を使って黒いオバケ袋を攻撃した。

 残り1匹は異様に動きが速い。 双刃ダブルブーメランを軽々と避けてアイアに向かって飛びついた。


「きゃぁあああッ!!」


「アイアッ!!」


 俺はそのオバケ袋に向かってブーメランを投げた。

 しかし、黒いオバケ袋は悠々とブーメランを避ける。その大きく開いた間隔にニヤリと笑った。


「あいつ速いです!! マワルさんの攻撃が当たりません!!」


 泣き言を叫ぶアイアにオバケ袋は更に笑った。


『ケケケッ!!』


 勝利を確信したのだろうか?

 それとも、俺達を殺すことに歓喜したのか?

 でもな。俺にはそんな勝利の笑い。聞こえねぇんだわ。


 耳をほじる。


「お前と俺との距離は10メートル以内なんだ」


 敵との範囲が10メートル以内で発動可能なスキル。



絶対命中ストライクヒット!」



 ブーメランはギュンギュンと変則的に軌道を変えてオバケ袋に命中した。



『ギャァアッ!!』



「はい残念。このスキルは狙った場所に必ず刺さる特性だからな。どれだけ素早く避けれても意味がないんだ」

 


 黒いオバケ袋は全滅した。


「あは! マワルさん凄いです!!」


 アイアは飛び跳ねて喜ぶ。


 さて、残ったこいつだけど……。


『ぴぇえ〜〜……』


 真っ白いオバケ袋は自分も倒されるんじゃないかと泣きべそをかいていた。



「あーー。なんだ……。そのぉ……。これは成り行きだからよ。別に深い意味はないんだ。お前は自分ん家に帰れよ」


『ぴえ?』


「えへへ。袋ちゃん良かったね。マワルさんに助けてもらったんだよ」


『ブクブクゥ?』


「んじゃ、俺達は行くから。もう虐められんなよな」


『ブクッ!?』


「あは! マワルさん!!」


 アイアは俺の腕を抱きしめた。


 柔らかい胸とスベスベの肌、サラサラの髪の感触が俺を襲う。


「お、おいおい。また仲間以上とかなんとかいうパターンだぞ!」


 それでもアイアは離れなかった。


「もうマワルさんったら優しいんですもん。嬉しくなっちゃいます」


 そう言ってぎゅうぎゅうに腕を抱く。彼女の髪が靡くとフワッと良い香りが鼻に広がった。


 いや、よくわからんが俺はどうしたらいいんだーー!?

 鼻血が出そうだーー!!

 いや、もう出ているかもしれん!!





『ブクゥッ!!』





 俺達の前に白いオバケ袋が立ち塞がる。袋の両角を広げて、まるで通せん坊をしているみたいだ。



「あーー? よくわからんけど。家に帰れって。俺達はお前とは戦わないぞ?」



 そいつは小刻みに動いて踊り始めた。


『ブクッ! ブクブク〜〜。ブクッ!!』


 はぁ? なんじゃこいつ??


「あは! なんか可愛い! 何かを伝えたいんだと思いますよ」


 踊っているんじゃないのか?

 

「いや……。面倒くせぇなぁ。いいから帰れって」


『ブクブクッ! ブク〜〜。ブクッ!!』


 なんだか熱心だなぁ。でも言葉はわかんねぇしな。

 うーーん困ったぞ。


「ふんふん……。袋ちゃんはあの黒い袋に虐められていたんだね?」


『ブクーー!!』


「アイア! こいつの言葉がわかんのか??」


「あはは。なんとなくジェスチャーで伝わりますよ」


 そうなのか?

 俺には袋が踊っているようにしか見えんが……。


「ふんふん……。体が白いから虐められていたと」


『ブクーー!!』


「ふんふん。それでそれで?」



 それは30分以上続いた。


 な、長ぇ〜〜。

 結局何が言いたかったんだ?



「助けてくれたから仲間になりたいって」



 短かッ!

 内容短かッ!


「いやでもな。冒険は命の危険があるんだ。俺達に付いて来てもいいことなんかないぞ?」


『ブクブク〜〜』


 オバケ袋は俺の脛に体を擦り付けた。


 まるで猫だな。


「甘えてもダメだ」


『ブクッ!!』


「一緒に冒険がしたい、と言ってます」


 本当かよ?


「いや、しかしだなぁ……。そもそもお前は何ができるんだ? あんまり強そうに見えないけど……?」


『ブクゥーー!!』


 そいつは大きく膨らんで俺のリュックを丸呑みしてしまった。


「あ! こいつ! これは大事なアイテムが入ったリュックなのに!!」


 すると、袋は大きく口を開けて、大きな舌を出した。その上にはリュックが乗っている。


「え? どういうことだ??」


「あ、凄い! この子、体の中に荷物を収納できるんですよ!!」


 ああ、そういうことか。


『ブクブクゥーー!』


「人間を100万人飲んでも破れないそうです」


 ほーー。それは凄い。この小さい体のどこに入るのか仕組みはさっぱりだが、とにかく便利だ。

 さっきリュックを飲んだ時、こいつは膨らまなかった。つまり、いくらでも物を収納できるってことだな。


「うーーん。連れて行ってやりたいけどなぁ。ギルドはモンスターの出入りが禁止なんだよ。それにそもそもモンスターは守護結界に入れないからな」


『ブクゥーー!!』


 飛び上がった袋は大きく広がる。今度は俺を包み込んだ。


「うわっ! 何すんだよ!?」


『ブクブクゥーー』


 気がつくと、そいつはフード付きのコートになっていた。

 フードに丸い目が2つ付いており、ニコリと笑う。


「あは! それならギルドに入ってもわかりませんよ」


「でもなぁ。街道の守護結界には入れないよ。弱いモンスターは弾かれるからな」


「血の契約をするのはどうでしょうか?」


 俺の血液で印を付けて従獣にする方法か。


「お前……。俺の従獣になってもいいのか?」


 オバケ袋はフードのままで、俺の頬に擦り付けた。やはり猫みたいに甘える。


『ブクブク〜〜』


「なりたいみたいですよ?」


「しょうがない。んじゃ、仲間にしてやるよ」


『ブクゥーー! ブクブクブクーーーー!!」


「やったーー! ありがとう! ですって」


 俺は自分の指先を切って血を出した。

 その血を使ってオバケ袋の額に印を書く。


「袋ちゃん。これでマスターはマワルさんになったのよ。言うこと聞かないと雷が落ちちゃうから気をつけてね」


『ブクブク!』


「あは! 大人しくする、ですって」


 やれやれ。

 まさか3目の仲間がモンスターになるなんてな。

 あ、3か……。


「あーー。そうなるとお前に名前が必要だな」


『ブクブクゥ〜〜』


「……ブクブクでいっか」


『ブク!』


「素敵な名前をありがとう! これからみんなの為にがんばるからよろしく! ですって!」


「本当にそれ言ってんのか!?」


「ええ。もうわかるようになりました」



 こうして俺達は王都ハジマールへと帰った。


 途中、街道に張られた結界に恐る恐る入るも、なんの問題もなく入れた。

 血の契約の効果みたいだ。


「お前良かったな。この結界に引っ掛かったら焼け焦げてたぞ」


『ブク!』


「怖かったけど一安心! これから人間の世界を見れるなんて楽しみ! って言ってますね」


「本当に言ってんのか!?」





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現在の状況【読み飛ばしてもストーリーに影響はありません】




名前:マワル・ヤイバーン。


冒険者等級:E級。


守護武器:ブーメラン。


武器名:ヴァンスレイブ。


レベル:5。


取得スキル:

戻るリターン

双刃ダブルブーメラン

回転遅延スピンスロウ

絶対命中ストライクヒット


アイテム:薬草。図鑑。白い角。

黒い羽。トカゲの尻尾。NEW



所持金:3万2千エーン。



仲間:僧侶アイア・ボールガルド。

オバケ袋のブクブク。NEW

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