第10話 ケンゼランドの作戦
ーーハーナレの町ーー
「両親に会って欲しい?」
アイアは期待を込めた目で俺を見つめていた。
うーーん。
俺は宿屋に泊まるつもりだったからな。そう言われてもなぁ……。
「親子水入らずの時間を過ごせばいいじゃないか」
「だってぇ。私がどんな人と冒険をしているのか、知りたがると思うんですよね。お母さんの手料理は美味しいですし。是非、マワルさんには家に泊まって欲しいんです!」
まぁ、アイアの強い希望だからな。仕方ないか。
ーーアイアの実家ーー
アイアのご両親は優しい人達だった。
夕飯をみんなで食べる。
アイアが冒険者になったことで、さぞや会話に花が咲くのだろう、と思っていたが……。
「もうね、マワルさんは凄いんだから! さっとブーメランを投げて、こーーんな大きな猪を一撃で倒しちゃうんだよ!!」
家に来てからアイアがする俺の話しが止まらない。
なんかめちゃくちゃ恥ずかしいぞ。
「お、俺の話はほどほどでいいからさ。鉄球の話とかしてあげたらいいんじゃないか?」
「え? あ、そうですか? マワルさんの武勇伝の方が面白いと思いますが?」
ぶ、武勇伝?
か、勘弁してくれ! 俺はまだ駆け出しの冒険者なんだぁ〜〜!!
「お、俺なんか全然だよ。それよりさ。アイアが鉄球で猪を仕留めたのとか凄かったじゃないか」
「ああ、そうですね……。じゃあその話を……。えーーと、あの時はマワルさんがサッとブーメランを投げて、スキル、
「う、うん……。そうだったかな」
いや、俺の話はいいんだ……。
「それで、マワルさんったら優しいんです! 自分のブーメランで止めを刺せばいいのに、美味しい所を私に譲ってくれるんだから!! それでマワルさんはね──」
また俺の話になっとるがな……。
「マワルさんがね! ──マワルさんが!! ──マワルさんなの!」
と、アイアの話は続いた。
アイアの両親は初めは笑って聞いていたが、後半、互いに顔を見合わせて若干引いていた。
こ、これは俺が悪いのか??
俺は恥しすぎて最後の方は魂の抜けた気のない表情になっているのだった。
ーー次の日ーー
アイアの両親は家の前で俺達を見送ってくれることとなった。
アイアの父さんは防具屋を営んでいるらしく、俺の防具を無料で新調してくれた。
「マワル君。アイアがこんなにも生き生きしているのは君のおかげだよ」
「いや……。俺はなんにもしてませんよ。俺の方が彼女に助けてもらってます」
「ははは。君は本当に魅力のある男だなぁ。娘を頼むよ」
なんでそう思うんだ?? 昨日はアイアの話に引いてたじゃないか。
今度はアイアの母さんが俺の手を握る。
「マワルさん。娘が異性の話をこんなにもするなんて初めてのことです」
「え? あーー。そうなんすか??」
この人は美人で巨乳だ。
アイアは母さん似なんだろうな。
「アイアを末長くよろしくお願いしますね」
「は、はい……」
うーーん。丁寧だなぁ。
この人は裁縫屋をやっているので俺の服を綺麗に仕立ててくれた。
「俺の方がなんか色々してもらって悪いです。美味しいご飯をご馳走になっって、防具や服だって無料で貰っちゃったし」
アイアの両親は微笑む。
「また泊まりに来なさい」
「元気な顔を見せてくださいね」
本当に優しい人達だなぁ。
アイアの母さんはご飯が美味いし最高だった。
「それじゃあ! いろいろありがとう! ごちそうさまでした!!」
俺達は冒険へと旅立つ。
「なぁアイア。次、家に帰った時は自分の話をもっとしろよな」
「へ?? 私、自分の話ししてませんでしたか??」
うーーん。
気づいてないっぽいなぁ……。
ま、いっか。慕われてるみたいだしな。
俺達はクイレジーボアから獲った角をギルドに渡す為に王都へと向かった。
◇◇◇◇
〜〜剣士ケンゼランド視点〜〜
マワルがアイアの家に泊まっていた夜の話。
つまらん!
気に食わん。
私達はF級クエストを達成して酒場で酒を飲んでいた。
その時、周りで話していた女の冒険者の声が耳に入る。
「ねぇ聞いた? 新人の冒険者。守護武器がブーメランなんだってぇ」
「聞いた聞いたぁ。なんでもゴブリンを5体も倒したらしいわね」
「凄いわよねぇーー。顔は見た?」
「結構イケてるよ。整った目鼻立ちだし」
「えーー! 見たい見たい!!」
「きゃはは! 仲間募集してるなら立候補しようかなぁ」
「あーー! 私も私もーー!!」
「「 きゃははーー!! 」」
私はビールの入ったジョッキをガツンとテーブルに置いた。
「クソがぁ!!」
メンバーは首を傾げる。
魔法使いの女、ホージョリィが眉を寄せた。
「何が気に入らないのさケンゼランド!」
「いや、お前達にじゃないさ。ちょっとな……」
マワルの野郎。くだらない守護武器の癖に妙に人気が出てきてるじゃないか……。
クソッ! 飲まないとやってられん。
「酒ぇッ!!」
私がウェイターにジョッキを差し出すと、同じようにジョッキを差し出す男がいた。
その男は眼帯をしており、背中に立派な槍を背負っている。
ブーメランの噂をキャッキャッと話す女の声が聞こえると、私と同じように舌打ちをしてテーブルを叩いた。
……なんだこいつ?
もしかして、こいつもマワルに恨みでもあるのだろうか?
少し……探ってみるか。
「……立派な。槍だな」
男は目を細めて俺の腰にぶら下げた守護武器を見た。
「そちらも立派な剣だ」
「なーーに。大したことないさ。ただ、ブーメランより確実に強いがね!」
「ははは! いいね! 俺も同じさ。大した槍ではないが、ブーメランなんか一撃で倒してくれるわ」
「ふふふ……。どうやら私達は気が合うようだな。一緒に飲まないか?」
「いいね。俺はヤーリー。守護武器は槍だ」
私達は酒を交わした。
1時間もすると互いに出来上がる。
もう酔っ払って鼻まで真っ赤である。
ヤーリーとは気が合う。互いにマワルに恨みを持っているのだ。
こんなに飲んでいるというのに、奴の話をする時は気がしっかりとするな。
腹立たしさで酔えないのか……。
「噂ではあのブーメラン野郎。僧侶の女を仲間にしたらしいぞ」
仲間だと?
クソが! ブーメランの癖に生意気な。
「なんでも、その僧侶の守護武器は鉄球なんだそうだ」
「は? なんだそれは?? て、鉄球だとぉ?? 僧侶といえば杖だろうが?」
「プクク! それが鉄球なんだよ!」
「ブハッ! ウケる! ブーメランの仲間が鉄球か!!」
ヤーリーは腕を組んだ。
「鉄球が守護武器の女ってどんな奴だろうな?」
「ククク! どうせ筋肉隆々なんだろうよ」
「ゴリラかな?」
「ププ……。そうそうゴリラ女」
「ダハハ! ブーメランの仲間がゴリラ女かよ。最高だな!」
「語尾がウホッ! て言うのかもな!」
「マワルさん大好きウホッ!」
「「 ギャハハハーーッ!! 」」
待てよ。これは好機かもしれんぞ。
「なぁヤーリー。お前の所にも女の仲間はいるだろう?」
「ああ、それがどうした?」
「ちょっと耳を貸せ」
「うむ……。ほう……。ほうほう……ククク……。それで……? ククク。それは面白い」
私とヤーリーは作戦を立てた。
「ちょっとケンゼランド。あたしらはもう宿屋に帰るよ」
魔法使いの女、ホージョリィが立ち上がる。
「まぁ、少し待てよ。他のメンバーは帰っていいから。ホージョリィだけこっちに来てくれ」
「はぁ? あたしは酔っ払いの相手をするほど暇じゃないんだよ?」
この女は中肉中背。胸の大きさは普通。目は一重で、美人ではないがブスではなかった。
ククク……この女を使ってやるか。
「なぁ、ホージョリィ。お前にドレスを買ってやろうか?」
「は? どうしたんだい? どういう風の吹き回しだい?」
「まぁまぁ、日頃の感謝さ。お前の綺麗な姿を見てみたいんだ。そうだ。宝石も買ってやろう」
ホージョリィは顔を赤らめて大喜び。
ヤーリーも私と同じようにメンバーの女に声を掛けていた。
その女も美人ではないがブスではなかった。
フ……。この際、なんでもいいんだ。
ブスじゃなければオーケーだ。
ククク……。マワルは明日にはギルドに帰ってくるだろう。
その時は見てろよ。
ゴリラ女の目の前で、私の仲間を見せつけてやる!!
私達は勝利を確信して互いに笑う。
その声は酒場に響くのだった。
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現在の状況【読み飛ばしてもストーリーに影響はありません】
名前:マワル・ヤイバーン。
冒険者等級:E級。
守護武器:ブーメラン。
武器名:ヴァンスレイブ。
レベル:5。
取得スキル:
アイテム:薬草。図鑑。白い角。
所持金:3万2千エーン。
仲間:僧侶アイア・ボールガルド。
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