第9話 アイアと冒険
俺とアイアは宿屋で一泊することになった。
それぞれの故郷は歩けば数時間かかる。夜道を帰るのは大変だからだ。
朝。
「マワルさん。おはようございます」
隣りの部屋で泊まっていたアイアが笑顔を見せる。
彼女が俺の部屋に入ると花のような良い香りがフワっと鼻腔をついた。
香水だか石鹸だかはわからないけれど、とにかくアイアは良い香りだ。
俺は彼女から借りた地図を眺めていた。
「何を調べているんですか?」
「アイアの両親に冒険者になったことの報告がいるだろ? それでアイアの故郷に帰るついでにE級クエストをやろうと思ってさ。作戦を練っていたんだ」
「……私のこと……考えてくれるんですね」
「当然だろ? 仲間なんだからさ」
彼女は真っ赤な顔になって笑った。
「えへへ……」
「大丈夫か? 熱でもあんのか??」
彼女はハッとして身を引いた。
「マ、マワルさんは仲間です! そ、それ以上の感情はありませんから!!」
「は? ああ……。そうだけど??」
なんだこいつ?
うーーん。女の子はよくわからん。
まぁ、これから知っていくしかないか。
「んじゃ。朝めし食って出発するか!」
「は、はい!」
◇◇◇◇
ーーコッチノ平原ーー
街道から外に出るとアイアは震えていた。
しかし、それは恐怖ではない。高まる鼓動を抑えるような武者震いというやつだ。
「こ、ここから守護結界が無くなるんですね」
街道は結界の力で護られていてモンスターは入れない。
「ああ。こっからはモンスターが出る。アイアの町まで数時間だ。それまでクエストをこなす」
「挑戦中のクエストはどんな内容でしょうか?」
「E級クエスト【防具の資材集め】だ」
俺は資料を渡した。
アイアはマジマジと見つめる。
「白い牙……を獲ってくればいいんですね」
「ああ。獣系のモンスターが持っているらしいよ」
突然の殺気。
それはモンスターのものだった。
アイアに向かって突進してくる
「アイア、危ない!!」
俺の叫びと同時、彼女は大きく飛び上がっていた。
「はッ!!」
モンスターの攻撃を軽々と避けて距離を取る。
ひゅーー。やるじゃん。
中々の動きだ。俺より速いかもしれんな。
モンスターは大きな猪だった。
体高は5メートル前後。ブフブフーと荒い息をしている。
知らないモンスターだ。
「よし、図鑑で調べてやる……」
俺がリュックをゴソゴソしていると猪は俺に向かって突進してきた。
「うわっと!!」
紙一重で避ける。
猪はそのまま大きな岩に突進。粉々に粉砕した。
「やれやれ。あんな攻撃を受けたら即死だな」
「マワルさん! 図鑑は私が調べます!」
「分担制か! いいね」
俺はアイアに向かって図鑑を放り投げた。
すかさずそれをキャッチした彼女はペラペラとめくって調べ始める。
さぁて、彼女が調べてくれてる間は俺が猪の相手をしようか!
「
俺はブーメランを投げて旋風を作り、その風を猪の脚にまとわり付かせた。
『ブモッ!?』
動きが止まった猪の胴体に向かってブーメラン攻撃。
「これで終わりっと!」
しかし、硬い体毛はブーメランを弾いた。
「ありゃ!? 硬いな」
「マワルさん! あのモンスターのことがわかりました! 名前はクレイジーボア。E級のモンスターです! 口の牙がクエストの対象だった白い牙ですよ!!」
「お、いいじゃん! 早速クエスト達成だな」
「全身は硬い毛で覆われていて打撃武器が通じません! 弱点は眉間です!」
「なるほどね。んじゃあ眉間を狙って……おりゃッ!!」
しかし投げたブーメランはクレイジーボアの牙によって弾かれた。
「こいつ、首振りの速度が異様に速いな」
これじゃあ、いくらブーメランを投げても牙で弾かれちまうよ。
「私の出番ですね!!」
アイアは鉄球を構えた。深い溜めを作る体勢に入る。
おお! あの鉄球なら牙で弾くのは無理かもしれん!!
「よし、アイアいっけぇええええええッ!!」
「私の鉄球をお食らいなさぁああああああああああああい!!」
渾身の一投。
しかし、宙に放り投げられた鉄球は無情にも猪の5メートル手前で落ちた。
ボスン…………!
『ブモ?』
「オワターーーー!! 私オワタァア!! アイア終了のお知らせぇえええええええええ!!」
泣き叫ぶアイアに俺は笑いかけた。その笑みは勝利を確信させる。
「アイア。お前の鉄球がチャンスを作った」
「へ?」
「猪の目線は地面に落ちた鉄球に釘付けさ」
俺はブーメランを投げていた。
一直線で眉間に向かって飛んでいく。
しかし。
カツンッ!!
クレイジーボアは大きな牙でブーメランを弾いた。
「ああ!! 弾かれちゃいました!!」
「一手遅れたな」
猪が首を振った先にはもう1つのブーメランが飛んでいた。
「
グサァアッ!!
見事、眉間に命中。
『ブモォオオオオッ!!』
絶叫と共に猪は地に伏した。
アイアは俺に抱きついた。
「アハッ!! 凄いですマワルさん! 鉄球で目を引いて、更にもう1つのブーメランを囮にする戦法!! あんなに強いクレイジーボアを倒しちゃいました!!」
俺の顔は大きな胸の間に挟まれる。
や、柔らかい!!
めちゃくちゃ良い匂いだ!!
肌はスベスベだし、なんだこの感覚は!?
アイアは俺を抱きしめたままぴょんぴょん跳ねる。
「凄い凄い!!」
「お、おう……」
俺が真っ赤な顔になっていると、それに気がついたアイアはハッとして離れた。
「こ、これは仲間として喜んだだけです!! そ、それ以上の感情は、あ、ありませんからね!!」
「え? あ、う、うん」
なんなんだよまったく……。
女ってのはよくわからんなぁ。
足を進める。
この辺はクレイジーボアの生息地のようだ。何体も同じように出くわす。その全てを同じ戦略で倒した。アイアの鉄球で注目させて
丁度3体を倒した頃。
『主、レベルが5に上がったぞ』
「やったね!」
『スキル
「へぇ〜〜。どんな投げ方でも大丈夫なのか?」
『10メートルの範囲ならどんな方向に投げても狙った場所に当てることが可能だ』
「マワルさん。どなたと会話してるんです??」
ヴァンスレイブの声は俺以外には聞こえない。でも彼女に知っといてもらわないと何かと不便だな。
俺はアイアにブーメランと会話できる事、レベルが上がってスキルを覚えることを話した。
「えーー! それは凄いです! 守護武器と会話できるのも驚きですが、戦ってるだけでスキルを習得しちゃうのも凄いですよ。普通、スキルは長い年月をかけた修練で習得するモノですからね」
「【
「へぇーー! マワルさんは特別な存在なんですねぇ! 凄いです!」
ギルドのみんなは笑ってたけど、アイアは直ぐに信じてくれるな。
彼女は話し易いし本当に良い仲間だ。
こうして、俺達の仲は深まり、そして旅は快適になった。
クレイジーボア1体が現れる。
鉄球を構えるアイアに声をかけた。
「ああ、大丈夫。もう目眩しは必要ないから」
10メートル近づけばいいんだよな。
俺はクレイジーボアに近づきブーメランを投げた。
「
ブーメランは猪の牙攻撃を掻い潜って眉間に当たった。
グサァッ!!
10メートル以内なら狙った所に必ず命中するんだよな。
こりゃあかなり便利だぞ。
「余裕余裕♪」
「あは! マワルさん凄いです!!」
かれこれ10匹以上倒した頃だろうか。アイアは鉄球を投げる姿勢を取っていた。
「マ、マワルさんだけ強くなって、わ、私が足手まといなんて、い、嫌ですから……ねッ!!」
放り投げた鉄球はしっかりと飛ぶ。そしてクレイジーボアの眉間に命中した。
ゴンッ!!
「やった! 当たりました!!」
猪は絶命した。
「おお! すげぇじゃん! 鉄球の使い方に慣れてきたんだな」
「やった、やったーー!! 初めてモンスターを倒しちゃいましたぁあ!!」
アイアは俺に抱きついた。
うーーむ。またこのパターンか。
俺は彼女の柔らかい胸に顔を埋めて真っ赤になっていた。
ハッとしたアイアは直ぐに離れる。
「こ、これは、仲間以上の感情はありませんからね!!」
はいはい。もうわかったっての。
道中、大怪我は無いものの、軽い擦り傷なんかはあった。それをアイアの回復魔法ライフで治療して進める。
やはり回復役がいると心強い。
こうして俺達はアイアの町へと辿り着いたのだった。
==================================
==================================
現在の状況【読み飛ばしてもストーリーに影響はありません】
名前:マワル・ヤイバーン。
冒険者等級:E級。
守護武器:ブーメラン。
武器名:ヴァンスレイブ。
レベル:5。NEW
取得スキル:
アイテム:薬草。図鑑。
白い角。NEW
所持金:3万2千エーン。
仲間:僧侶アイア・ボールガルド。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます