第3話 ブーメランの戦闘


 おっさんの声が俺を呼びかける。


『主よ。我は目覚めた』


 俺はキョロキョロと辺りを見渡した。


 誰もいないけど……。

 主って俺のこと?


『ここだ主よ』


 それは腰に挿していたブーメランから聞こえた。


「は!? まさか? ブーメランが喋ってんのか!?」


『我が名はヴァンスレイブ。主の守護武器だ』


「名前があるのかよ!?」


 そういえば、受付の姉ちゃんが【名聞き】って言ってたな。

 もしかして俺がそうなのか?


「お前、なんで今頃喋ってんだ? 昨日が認定式だったのにさ」


『眠っていた』


「は? 呑気だなぁ」


『主に危機が迫る時、我は目覚める』


「危機ってなんだよ? ここは街中だぞ?」


『これから冒険に旅立つのだろう?』


「おお、なんか察してくれてんなぁ!」


『当然だ。我は主の守護武器だからな』


「なんか頼りになるじゃんか。俺はマワル・ヤイバーン。よろしくな!」


『名前は知っているぞ。我は主の守護武器だからな』


「あ、そっか! あははは! まぁよろしく頼むわ!!」



ーーハジマール街道ーー


 そこは守護結界が施された安全な道。

 低級モンスターは結界の力で入ることができない。

 

 俺は今まで街から村へはこの安全な道を通ってきた。

 冒険者になった今。この道を無条件で出れるのだ。


 薬草を採る為には街道を出てトーナリ山まで行かないとダメなんだよな。

 さぁ、俺の冒険が始まったぞ。


 トーナリ山に向かうと自分の背丈ほどの岩を見つけた。

 その岩がのっそりと動く。


「あ! 岩じゃない!!」


 と思うや否や、トカゲのような顔がひょっこり顔を出した。


「ガブリ亀だ」


 この辺にいるモンスターは粗方把握している。こいつは噛み付いて攻撃してくるんだ。


 あんぐりと口を開くと無数の牙が見えた。


 あんなので噛みつかれたらひとたまりもないぞ。



バグンッ!!



 亀は俺に向かって噛み付いて来た。

 俺は余裕で身をかわす。


 こいつ、動きは鈍いんだよな。

 さーーて、ブーメラン最強伝説の始まりだぁ!!



「行けぇ! ヴァンスレイブ!!」



 俺は守護武器のブーメランを放り投げた。


 

コンッ!



 無情にもブーメランは甲羅に当たって地面に落ちた。

 敵は無傷である。


 くっ! 亀の甲羅は硬いな!



「よし! 戻って来いヴァンスレイブ!!」



しぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。



「戻って来ねぇえええッ!!」



 ブーメランの癖に、戻って来ねぇえええええッ!!


『主よ! 我を回収してくれ!!』


「お前、全然頼りにならねぇじゃねぇか!!」


『序盤はこんなものだ』


 序盤から強くあれよ!


「クソ! 取りに行くしかないか」


 俺は亀を上手く誘導してブーメランを回収した。


『甲羅は硬い! そこから出ている手足を狙うのだ!』


「いや、わかってるよ!」


 しかし、ブーメランを投げるも甲羅に当たってしまう。


 その度に回収し行くという面倒くさい戦闘が続いた。



「うがぁああああああ!! もう面倒だぁあああああ!!」


 

 俺はブーメランを持つとそのまま振り下ろした。

 ガブリ亀の頭部に突き刺す。





グサァッ!!






 亀は絶命した。



『流石だな主よ! 日々研鑽していた剣術がここに来て役に立ったな!』


「いや、ブーメランのお前にそれを言われたくはなかった……」


『悲観するな主よ。我は成長する! 今ので経験値がしっかりと入ったぞ』


「へぇ……。そうなのか」


 でも、ちょっとな……。こいつを信用すると肩透かしを食らいそうで怖い。

 とはいえ、こいつは俺の守護武器だ。なんとかして使える武器に育てないとな。


「よぉし。トーナリ山までの道中でモンスターを狩りまくってレベルアップするぞ!」


『うむ! 心得た』


 それから再びガブリ亀を見つけて同じように倒すことが続いた。

 そしてついに。


『主! レベルが2になったぞ!』


「おお! やった!!」


『スキル、【 戻るリターン】を覚えた』


戻るリターン? どうやって使うんだ?」



 その時、大きなカラスが俺を襲う。



『カァアアアッ!!』



 カラスのクチバシが俺を突こうと突進して来た。



「おっと危ねぇ!!」


 

 体をかわす。



「地獄カラスかぁ……。空飛ぶ敵は厄介だなぁ」



 そいつは体長1メートル。羽を広げれば2メートル以上もある。

 鋭いクチバシで人間を襲う。

 そんな奴が3羽もいた。


 亀に比べて圧倒的に速い。こんな攻撃を何回もかわすのは骨が折れるぞ。

 疲れたところに攻撃を受けたんじゃヤられるかもしれない。

 

 本来、空中の敵は近接武器では不利だ。

 ブーメランを剣みたいに使っている俺にとってはかなりの難敵と言っていい。

 遠距離攻撃の弓矢、もしくは魔法、なんかが望ましい。


「仕方ない。ここは逃げようか」


『主! 今こそ、我を使う時だ!』


「お前を空中に投げてさ……。拾いに行く身にもなれよ。かなりキツいんだぞ」



 地獄カラスの容赦ないクチバシ攻撃。



『カァアアアッ!!』


「おっと危ねぇ!!」


『主よ! 説明している時間はない! あのカラスを攻撃するのだ!!』


 

 うーーん。あんまり乗り気じゃないんだけどな。

 ま、一発で仕留めれば拾いに行かなくていいか。



「ったく。主に指示を出すなんて、どっちが主人かわかりゃしねぇ、よッ!!」



 俺はブーメランをカラスに向かって投げた。






スカッ!





 

 地獄カラスはサッと避ける。




「ほら見ろぉおお! 拾いに行かなくちゃなんねぇだろがぁあ!!」


『主よ!  戻るリターンと叫ぶのだ!」


 さっき覚えたスキルか。


 俺は言われるがまま叫んだ。



戻るリターン!」



 その瞬間。宙に舞っていたブーメランは向きを変え、俺の方へと戻って来た。



 

パシィイイイッ!!



 

 俺はしっかりとブーメランを掴む。



「おお! も、戻って来た!!」


『これが 戻るリターンだ!』


 これなら何回も空中に投げれるぞ!!


 俺はカラスに向かってブーメランを投げた。


 それは3回目。



グサァアアッ!!



 1羽のカラスは眉間にブーメランが刺さって落ちた。



「やった! 命中!!」



 これってもしかして抜きに行かなくていいのか?



戻るリターン!」



 ブーメランはカラスの眉間から抜けて俺の元へと戻って来た。



「ひゅぅう! こりゃ使えるな!! ブーメランらしくなってきたじゃんか!!」


『主! 残り2羽が襲ってくるぞ!』


「よぉおし。んじゃあヤったりますか!! いくぜヴァンスレイブ!!」


『心得た!!』





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現在の状況【読み飛ばしてもストーリーに影響はありません】



名前:マワル・ヤイバーン。


冒険者等級:F級。


守護武器:ブーメラン。


武器名:ヴァンスレイブ。


レベル:2。


取得スキル:

戻るリターン



所持金:0エーン。

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