第2話 冒険者の登録
次の日。
俺は決意した。
父さんは深刻な表情を見せる。
「就職はなんでもできるぞ。父さんの友人に良い武器職人がいるんだ。お前さえ良ければ紹介してやってもいい」
「ありがとう……。でも、俺……冒険者になるよ」
両親は目を見張る。
母さんはうろたえた。
「で、でも……。そんな武器じゃ……。あ、そんな武器ってそういう意味じゃないけど……。とにかく命の危険に関わる仕事は辞めましょうよ」
「そうだぞマワル。冒険者だけが職業じゃないんだ。最弱武器のブーメランじゃあとてもクエストなんて達成できんぞ」
おいおい!
心配しながら、ブーメランのことめちゃくちゃディスってくるやんけ!
やる前から諦めるなっての!
昨日、号泣して吹っ切れたわ。
「やってみるよ。ヤバそうだったら辞めるからさ」
母さんは目に涙を溜める。
「そんな簡単じゃないのよ! 冒険は命がけなんだから!! もしも大怪我したら取り返しのつかないことになるのよ!!」
「母さんの言うとおりだ。最弱武器のブーメランで何ができるというんだ! 大人しく、戦わない職業につきなさい!!」
俺はテーブルをバンと叩いた。
「自分のことは、自分で決める!!」
やってやる!
例え最弱武器が守護武器だろうとよ!
俺は冒険者になってやる!!
俺が家を出るとナガイさんが防具を運んでいた。
ナガイさんの腰には守護武器の鎖鎌が掛けてある。
そうだ……。伝えておこう。
俺は彼を呼び止めた。
そして、頭を下げる。
「ナガイさん。ごめん!」
「お、おい。急にどうしたんだよ?」
「俺……。ナガイさんの守護武器が選ばれた日。物凄く感じが悪かったよ」
「なんだ……。そんなことか。別に気にしてないよ。みんなが笑ってたのは知ってたしさ」
「ブーメランの守護武器になってさ。ははは……。気付いた」
「ははは。お互い不遇武器は辛いよな」
不遇武器か……。
俺はそう思いたくないな。
「マワルは就職どうするんだ? 良ければ俺の働いてる防具屋に口利きしてやるぞ?」
「ありがとう。でもいいよ。俺、冒険者になるからさ」
「え? あ、おい! 待てって! 辞めとけよ! そ、そんな最弱武器じゃ無理だって! 絶対笑われるぞ!!」
「大丈夫! 決めたから!!」
俺はギルドのある王都へと向かった。
◇◇◇◇
ーー王都ハジマールーー
緑のギルド。
冒険者の登録。そこには守護武器の項目があった。
受付嬢は眉を寄せる。
「え? しゅ、守護武器がブーメラン?」
「そうだ。悪いか?」
「あは……あはは。悪くはないですが、ブーメランって、子供のおもちゃだったりする、あのブーメラン?」
あのってどのだよ!
俺は腰に差していたブーメランを取り出した。
「これだよ」
「うわ! ブーメラン!!」
「だからなんだよ」
「ギルドは冒険者の死亡率を下げるのが職務なんです。悪いことは言いません。そんな武器で冒険者にならない方が良いと思いますよ」
く……。こいつも両親と同じことを言うのか!?
「いいから! 俺は冒険者になりたいんだ」
「ど……どうなっても知りませんよ? モンスターは強いんですからね!」
「うるさいな」
「このギルドに登録している冒険者の年間死亡率を知っていますか?」
「……し、知らねぇよ」
「2割です」
「う……」
「つまり10人冒険に旅立てば2人死ぬんです。それが毎年ですよ?」
「だ、だからって俺の気持ちは変わらねぇ」
「S級冒険者にでもなれば、それはもう華々しい職業ですが、その影では大勢の冒険者が命を落としているのです」
「そ、それがどうした。俺の気持ちは変わらねぇよ」
「かの有名な英雄ブレイズニュートは剣の守護武器だったからこそ剣聖になれたんです。弱い武器が守護武器になってしまってはゴブリンすらまともに倒すことはできないですよ」
俺は受付のカウンターをバシンと叩いた。
「変わらねぇって言ってんだろが! 俺は冒険者になるんだ!!」
受付嬢は引いた。
そしてブツブツと小言を言いながら事務処理をこなす。
「あの世に行っても恨まないでくださいよ。忠告したんですからね」
死ぬこと前提にすんなよな。縁起でもねぇ。
「えーーと、マワルさんの等級はF級の最低等級から始まります。そこからクエストを達成して報酬を獲得してください」
「等級を上げるにはどうするんだ?」
「同じ等級のクエストを3回達成すれば昇級テストが受けれますよ」
よおおし。まずはクエストの達成が目標だな。
「ほとんどの冒険者はパーティーを組まれますね。単独は危険が大きすぎますから」
確かにな。回復魔法が使えないんじゃ、戦闘はキツすぎる。
英雄ブレイズニュートだって大賢者と組んで冒険をしていたそうだしな。
俺は酒場に行って仲間を探した。
ーーギルドの酒場ーー
そこは大勢の冒険者が集まる。
冒険の情報交換や、仲間のスカウトなんかが盛んに行われていた。
まずは同じ等級の冒険者を探そう。
胸に付けてるバッジの色でわかるんだよな。
「お、いた!」
男2人に女1人。リーダーっぽい男は身なりがいい。腰には立派な剣を下げていた。
あのリーダーっぽい男は鎧もマントも立派で、やや近寄り難い雰囲気があるな。でも、等級は俺と同じだ。オレンジでFと書かれたバッジを付けている。
よおし、交渉してみっか!
「よお! 俺はマワル! 仲間を探しているんだ」
「うむ。丁度1人足りなかったところだ」
やった! いきなりついてるぜ!!
「私はケンゼランド。守護武器は剣だ。お前のはなんだ?」
げっ!? い、いきなり守護武器の話かよ。
うーーむ。隠してたって仕方ないか。
俺は腰に差していたブーメランを出した。
みんなは目を見張る。
「「「 へっ!? 」」」
ケンゼランドは笑った。
「ははは。面白い奴だな。……で、本当の守護武器はなんだ?」
んぐ……。
は、恥ずかしがっちゃダ、ダメだ。
自分の守護武器なんだから自信を持たなくちゃな。
「お、俺の守護武器はブーメランだ!」
大爆笑。
ケンゼランド達は腹を抱えた。
「おいマワル! プクク……お前正気か!? そんな小さなブーメランで冒険者になったのか!?」
「お、俺の勝手だろ」
「確かにそうだがな……。ククク……。ブ、ブーメランって……。悪いがこの話は無かったことにしてくれ」
く……。くじけそうだ……。
いや、しかし冒険は始まったばかり。
希望を持て俺。最強の冒険者になるんだ。
しかし、現実は甘くなかった。
同じ等級のパーティーに交渉するも、みな笑って断るのだった。
こうなったら、ヤケ糞だ。
俺はE級のバッジをつけているパーティーに交渉してみた。
自分より上の等級である。
その行動が、功を奏す。
「仲間になりたい? 守護武器がブーメランで?」
「ああ。俺は本気だ」
「ふーーん。いいよ」
「え!? マジか!?」
「ああ、仲間にしてやるよ」
やったーーーーーー!!
神はいる!
俺を見捨てなかったんだぁあ!!
ありがとう運命神バーリトゥース!!
その男は真っ黒い眼帯をして、大きな槍を背負っていた。
「俺はヤーリー。守護武器は槍だ」
「へへへ。俺はマワル! 守護武器は勿論、ブーメランだ。よろしくな」
「んじゃ。お前は荷物持ちな」
「へ?」
「戦闘に参加できると思ってんのか、そんな武器で? お前は雑用係だぞ?」
神はいなかった……。
「いや待て待て。そんなこと容認できん。俺はモンスターと戦いたいんだ」
「ぷッ! 正気かよ。お前のブーメランでどうやって戦うんだよ。ゴブリンに殺されるのがオチだぞ」
「や、やってみなくちゃわかんねぇだろが!!」
「やらなくてもわかるよ。そんな小さなブーメランなんて、せいぜい高所の木の実を採るくらいが関の山なんだからよ」
「ち、違う! このブーメランは武器だ!!」
「ぶはは! こいつやべぇな。でも雑用係で一生こき使ってやるからよ。仲間になれよな」
「こ、断る!!」
クソ! どいつもこいつもバカにしやがって!!
俺はクエスト依頼が貼り付けられた掲示板の前に立った。
「こ、こうなったら単独冒険だぁあ…………」
酒場から野次が飛び交う。
「おい、ブーメランの兄ちゃん! やめとけよ。死んじまうぞギャハハ!」
「死にかけてブーメランみたいに帰ってくるのがオチだぞガハハ!!」
「ブーメランみたいに帰って来たら良いけどよ。2度と戻って来ないパターンがあるかもなぁ! ププーー!」
俺は腰に差していたブーメランを酒場のテーブルに勢いよくぶっ刺した。
グサァアアアアアアアアアッ!!
「お前らよく聞け!! ブーメランが最強ってことを証明してやる!!」
俺の気迫に酒場は鎮まり返る。
しぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。
ふっ……。どうだビビったか!
勝ち誇ったのも束の間。
酒場は大爆笑に包まれた。
「ぎゃはははーーーー!! マジかお前マジかぁーーーー!! ブーメランで最強ぉ!? マジかーーーー!!」
「ヤバ!! ウケる!! ちょ、ガチで腹痛い!!」
「こんな笑ったの生まれて初めてよ!! 坊やはお笑い芸人になりなさいよ!!」
「最強宣言して死んじまったら痛すぎるんですけど大丈夫ぅうう?? ぎゃはははーー!!」
後 悔 は な い !!
俺は更に大きな声を張り上げた。
「俺の名前はマワル・ヤイバーン!! これからブーメラン最強を証明する冒険者だ!!」
酒場は更に爆笑の渦。
俺はそんな中、適当なF級のクエストの張り紙をひっ剥がして受付へと向かった。
受付嬢は眉を寄せる。
「マ、マワルさん。いいんですか? あんなこと言っちゃって?」
「いい! 本当のことだ。俺はブーメラン最強を証明する」
「で、でも。本当に死んでしまったらどうするんです?」
「それが冒険者だろ? 例え剣の守護武器だって死亡率には関係ないんだ」
「それは……そうですがぁ……。マワルさんが【
「名聞き? なんだそれ?」
「守護武器の名前を聞ける人のことです」
「名前なんか聞いてどうすんだよ?」
「ははは……ですよね。噂なんで忘れてください」
?
なんのこっちゃ??
「いいから受け付けてくれ。俺は単独で挑む」
「は、はい……。じゃあ。F級クエスト。【トーナリ山の薬草採取】受け付けました」
よぉおし! これが俺の初めての冒険だ!
必ず成功させてみせる!!
俺は嘲笑の中、緑のギルドを後にした。
すると、誰かが俺に呼びかける。
『主よ……。我が主よ』
それは低音のおっさんボイスだった。
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