俺の守護武器がブーメランな件〜神に選ばれた俺の武器が小さなブーメランだった。みんなには【最弱武器】と笑われたのだけど、レベルを上げたら【最強】でした〜
神伊 咲児
第1話 俺の守護武器がブーメランな件
今日は16歳の誕生日。
俺、マワル・ヤイバーンの記念すべき日だ。
王都ハジマールの神殿で守護武器の認定式が行われていた。
俺は剣の腕を鍛えに鍛え、この歳までやってきた。
剣聖ブレイズニュートに憧れたのだ。
300年前、彼は剣の腕で伝説を築いた。一振りで海を割り、大地を突けば大陸が震える。数々のS級モンスターを倒した、最強の剣士である。
民衆は彼を讃え石像を作った。王都の中央にそびえ立つ石像はそれはもう凛々しい。見上げる度に心が震えた。
カッコイイ! とにかく最高にカッコイイ!
だから俺は彼と同じ剣士になると決めた。カッコイイ剣を振り回す、最高にイケてる剣士だ。そしてゆくゆくは……。
彼を超える剣聖になるんだ!
期待で胸が膨らむ。
今朝も欠かさず剣の素振りを千回こなした。
俺は絶対に剣士になる!
守護武器は剣だ! 絶対に剣!!
手の豆は潰れに潰れ、硬くなっている。
そんなことを知っている村のみんなは「マワルは絶対に剣士になるだろう」と噂した。
そもそも、俺の両親がそうなのだ。父は剣。母は短剣を守護武器としている。
だから俺も、剣を守護武器とするのが運命なのだ。
「ふふふ……。ワクワクするな」
神官は俺の頭に手をかざし呪文を唱えた。
運命神バーリトゥースとの契約である。
俺達人間にはそれぞれ使命があって、それを果たす為に神から武器を備わるのだ。
守護武器は一生を添い遂げる自分の分身である。
俺の全身から光が現れて、それが一つの大きな球体になった。
あの球体が俺の守護武器に変化するんだな……。
すげぇ……。なんかめちゃくちゃ神々しいな。
でもこんな時だってのによ……。
「プフッ……!」
いけね!
思い出し笑い。
俺ん家の隣りに住むナガイさん……。守護武器は鎖鎌だった。
彼は槍が大好きで、家には何本も飾ってある。だから、村のみんなは、そんな彼の守護武器が槍になるだろうと思っていた。
ところが、神殿で言い渡されたのは鎖鎌だった。
村のみんなは大爆笑。彼の前では決して笑わなかっけれど、村中の笑い話となった。
俺だってナガイさんの前では絶対に笑わなかったけどよ。
元気をつけてあげようと、『ナガイさん、どんまい』って声をかけた時は吹き出しそうになった。
これが笑わずにいられるかっての。
く、鎖鎌て……。
またマイナーな。
ナガイさんの鎖鎌……。
プクク……。ダメだウケる。
「ブーメラン」
俺は笑いを堪えていたので神官の言葉を聞き逃した。
ナガイさんの鎖鎌は忘れよう。脇腹が痛くなる。
「そなたの守護武器はブーメランと認定された」
「え? なんの話ですか?」
「見ていなかったのか? そなたの体から出た光球が守護武器になったのを」
「あ、すいません。……で、俺の武器は剣ですよね?」
「そなたの武器はブーメランと認定された」
「え?」
「だからブーメラン」
はい?
「け、剣ですよね?」
「ブーメランだから」
「は、はぃいい!?」
俺の両手には30センチ幅のブーメランが乗っていた。
「そなたの守護武器、ブーメランだから」
「何ィイイイイイイーーーーッ!?」
ブーメランンンンンッ!?
俺の守護武器がブーメランだとぉおおおおおおおおおおッ!?
顔面蒼白。
俺は血の気が引いたまま村へと歩いた。
途中、剣聖ブレイズニュートの石像の前を通ったが見上げることはなかった。
ーーモドリ村ーー
「マワルの守護武器がブーメランだとぉおおおお!! ぎゃははぁあ! ウケるぅううううううう!!」
「お前、剣じゃなかったのかよぉおおおおおお!! だははーーーー!!」
「毎日、あんなに剣の練習してたのによぉおおおお!! ぐわははははーーーーーー!!」
「腹痛い! 横っ腹痛いぃいいいいい!! ぷくふふふーーーー!!」
なんだよ。
めちゃくちゃ笑うじゃねぇか……。
ナガイさん時は自重して本人の前では笑わなかったのによ……。
俺の目の前にナガイさんが立つと、ポンと優しく肩を叩く。
「マワル。こんな時もあるさ。どんまい」
見上げると、笑いを堪えていた。
ナガイさん……。あんたまで……。
いや、これは俺がやっていたことだから自業自得なのか……?
家に帰ると母さんが抱きついた。
「マワル、ごめんねぇ!! お母さんが短剣だからぁああああ!!」
父さんは腕を組んで考える。
「じいちゃんが弓だったからな。短剣と弓の性質でブーメランってことなのか……」
もう報告するまでもない。
村の噂は両親にまで届いていた。
「マワル、ごめんね!! 今日はあなたの好きなステーキにしたからね!! 嫌なことは美味しい物食べて忘れましょう!!」
よりにもよって俺の大好物か……。
しかし食欲が全くない。
今はさとりの境地を開いたように無感情だ。
「母さん、悪いけど、今日はご飯いらないよ」
「マワルゥウウ……。うう……。ごめんねぇえ〜〜」
そんな謝るなよ……。親の責任じゃない。これは運命なんだからさ……。
母さんはなんとか俺の機嫌を取ろうとした。
「その腰に差してるのが守護武器かしら? 凄くカッコいいわぁ〜〜! お母さん、そのブーメラン凄くカッコいいと思う!」
「……そう、ありがとう」
なんの心も動かない。
無……である。
父さんは深刻な顔つきを見せた。
「例え、最弱の武器であったとしても、人生が終わった訳ではないからな。これからの生き方について一緒に考えよう」
さ、最弱の武器……。
それを言ってしまうのか……。
しかし、俺の表情は変わらなかった。
もう感情が死んでいると言っていい。
「ちょっと……。疲れたから部屋で休む」
俺は自分の部屋に入るとベッドに座り込んだ。
「う……うう……」
閉じ込めていた感情が溢れ出す。
目頭が熱い。
手には剣の素振りでできた豆が沢山できていた。
そんな手を見るのが辛い。
走馬灯のように今まで賭けてきた情熱が蘇る。
ぎゅっと握り、裏返す。
終わったのだ。
俺の夢は終わった。
剣を颯爽と振り回し、大陸を横断して冒険する。
跋扈するモンスターを斬り倒して伝説を作る。
俺はブレイズニュートのような剣聖にはなれないのだ。
拳には涙が滴り落ちていた。
な……なんで……。
「なんで俺の守護武器がブーメランなんだよぉおおおおおおおおおおおおお!!」
俺の叫び声は、部屋を突き抜けて村中に響くほどだった。
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