05 生命の儀

「なんだ! このステータスは!」

「そうなんですよね。俺も正直不思議で悩んでます」


 リレイラは俺の異常なステータスを見て驚愕していた。


「レベル99! だが、これは普通のレベル99のステータスではない……。300いや、400レベルはゆうに超えるステータスだ!」

「そうなんですか」

「ああ。私も何人かレベル100を超える者のステータスを見てきたが、これは伝説級に匹敵するぞ!」


 俺はレベル100を超える英雄級のステータスを数々見てきたというリレイラさんの方に驚いていたが、それでも、そのリレイラさんにステータスが伝説級に匹敵すると言われて、俺も少なからずワクワクしていた。


「神子を授かるとはこういう……」

「リレイラさん?」


 独り言をぶつぶつ唱えていたリレイラに俺は声をかける。俺の声に気づいたリレイラは慌てて手を振る。


「ああ、気にしないでくれ」

「リレイラさん。俺、主神の加護がないみたいなんですよね」


 リレイラは咄嗟に俺のステータスを見直す。


「ん? あ、確かにないな。何故だ?」


 リレイラの表情が曇りだす。


「分かりません……。もしかしたら、さっきリレイラさんが言っていた【災い来たりて、神の御加護も消え行く】ってこのことなのかな」

「ううむ。そうかもしれぬがわからんな。何れにせよ、この森を去る必要があることには変わりない」


 リレイラと俺は北大陸を行脚する予定だった。目標は虚空の塔の攻略。そのための仲間探しの旅をするというのがリレイラが話していたことだった。


「仲間、見つかるでしょうか」

「期待してくれていい。既に恩は売ってある」


 俺の不安げな質問にリレイラは不敵に笑って言う。恩とはなんなのか。明日の朝、俺とリレイラはこの森を去って、先ずは最終目的である虚空の塔を抱える聖地に向かう。そこに一人目の仲間がいるという。


 リレイラの言う仲間とは一体……。俺は深く考えないことにした。







「なぁ、ネイビス」

「どうしましたか? リレイラさん」


 夜、ベッドも一つしかないので俺たちは添い寝しているのだが、リレイラが珍しく身を寄せてきた。


「お前は年増は嫌いか?」

「はい?」


 俺はリレイラの唐突な問いに頭上に疑問符を浮かべるしかなかった。そんな俺を見つめて、リレイラは語り始める。


「私はな、生命を司る血筋なのだ。世界には十二の血がある。十二の血筋はそれぞれの理を神より与えられた」

「そうみたいですね」


 俺は頷く他ない。世界の国の成り立ちも、十二の理を分かつ十二支族だという話だが、これはネイビズ教の神話の話だ。


「私にはそのうちの一つの血が流れている。そして生命の根源魔法を使えるんだ。恩もそれで売ってきた」

「はぁ……」


 俺にはさっぱりの話なので、俺は要領を得ず、そう応えるしかなかった。それを見かねたリレイラが思い切って切り出す。


「要するにだな。私はまぐわいを通して永遠の命を与えることができる。お前は永遠の命を望むか?」

「え、はい?」


 永遠の命。不死身ということか? リレイラは不老不死なのではないかと常々思ってきたが、やはりリレイラは不死身なのだ。だけどまぐわいを通してって……。


「安心しろ。私はまだ生娘だ。一度も男を相手にしたことはない」

「そうなんですか……。何故、男とはしなかったんですか?」


 リレイラは性別を越えて存在している。リレイラが生まれたときの性別は計り知れないが、それでもリレイラは男と女を行き来しているといった感じだ。その証拠に最初に出会ったときは爺さんだったが、今はとても美しい妙齢の女性になっている。


 俺の投じた質問にリレイラは頬を赤らめて答える。


「私の中の女が認めた男が今までいなかったのだ。そうだな、唯一惚れたのは主神だけだった。むしろ主神の存在があったから、他の男を愛せなかった。私は弱いよ」

「弱いだなんて、そんなことはありませんよ。ですが、何故俺なんですか?」

「それがわからないのだよ。だが、私の中の女がお前を欲した。これは揺るがないんだ。この15日間、私は母親代わりとしてお前を育てた。だが、私が今抱いている劣情はもう母性とは呼ばない」

「ではなんと?」


 俺がそう訊くと、リレイラは俺の胸に顔を埋めながら細々と言った。


「愛なのかもな」


 俺はリレイラの頭を撫でる。その艶艶とした髪はとても滑らかだった。そしてとても甘い香りがした。






 生命の儀。アルバルト王家の血を引く者とセックスをした者は不老不死になる。それは一つの伝説になっていた。アルバルト王国が滅ぼされたのも、彼女の家族が皆自決したのも、全てはその血とそれに秘められた能力によるという。不老不死でも自殺する方法はあるらしい。だが、リレイラはレベルがかなり高かったため、家族の期待を全て背負って生きなければならなかった。


 アルバルト王国再興の予言もある。ピロートークでリレイラは「全てはこれからだ」と意気込んでいた。


 今夜、俺も不老不死になったが、それは純粋にリレイラが俺に死んでほしくなかったからという思いもあったのだろう。俺はリレイラへの感謝の念を忘れずにいようと思った。


 旅は明日から始まる。リレイラから話で聞いたことしかない森の外の世界を実際にこの目で見るのだ。今から楽しみで仕方ない。期待を胸に俺は眠る。敬愛するリレイラと共に。









 俺は夢の中で女神たちと話していた。


「あ! あなた私たち以外の女と寝たわね」

「ネイビスくん。女たらしなんだから」

「悪い悪い。でも今回は仕方なかっただろ。据え膳食わぬは男の恥って」

「何よそれ、知らない!」

「まぁまぁ、イリスちゃん」


 女神たちは容赦ない。


「で、今のところ想定通りのルートに進んでいるわけだけど、いいの?」

「いいって?」

「ほら。真の目的は虚空の塔の攻略以外にある気がするって転生する前に意味深長なこと言ってたじゃない」

「ごめん。覚えてない」

「呆れた……」

「まぁ仕方ないよ。それより『女神たちの嫉妬』の効果が発動するからね」

「え、なんて?」

「身を持って償いなさい。以上!」

「ネイビスくん、ばいばい」


 女神イリスとビエラの声も遠くなっていく。俺は急に何かが不安になっていた。そしてその不安は翌日の朝的中した。

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