04 約束

 リレイラの住む古びた家の前の庭にて、俺はリレイラと向き合って座っていた。


「では、今日は15日目の最終日故に、今までの講義の確認のテストを口頭で行う」

「はい。リレイラ先生」

「先生というのはやめろと何度言えばわかるか……。まぁよい。では一問目だ。世界にある国を全てその特色とともに答えよ」


 今現在、世界には11の国がある。

 北大陸はルーラシア大陸、南大陸はアルダリア大陸という。ルーラシア大陸には十つ、アルダリア大陸には一つの国がある。


 俺は一つ一つ国名とその特色を上げていく。


「そして、最後が……。世界最大の国、アルダリア大陸全土を国土とするクレストローレ皇国」


 俺が最後の国を答えると、リレイラは表情こそ変えはしないが、やはり思うものがあるのだろう、手を強く握りしめている。


 昔、世界に国は十二あったが、そのうちの一つであるアルバルト王国は千年前の大戦でクレストローレ皇国がアルダリア大陸全てを治めるべく滅ぼした。アルバルト王国は泣く泣く滅び、そしてその王家の血を引く者はもうリレイラ以外いない。今、彼女は天涯孤独というわけだ。


「すべて把握できているな。よし。では次に世界情勢は言えるか?」


 リレイラは次の質問を投げかける。俺は「はい」と頷くと、間髪入れずにリレイラの投じた問題に答える。


「クレストローレ皇国は虎視眈々と北大陸ルーラシアを狙っています。それに対して残りの北大陸にある十の小国たちはルーラ連盟をつくり、クレストローレ皇国に対抗しています。そして、世界情勢を語る上で欠かせないのがザルーダ島。北大陸と南大陸の間にあり、北大陸の小国一つ分の大きさをしていて、両者が奪い合っています。第五次ザルーダ決戦は百年ほど前から絶えず続いています。まぁ、こんなところでしょうか」

「上出来だな。では次に私達のいる神聖国レインについてだ」


 神聖国レインは北大陸中央に位置する世界で一番小さな国だ。俺たちがいるのは神聖国レインの北西の森。ちょうど隣国のアズラとの国境にもなっている。


 リレイラは何故この森に住んでいるのかについては一切教えてくれない。アルバルト王国がかつてあった場所というのならわかるのだが、アルバルト王国は南大陸アルダリアに存在していたのだから、さっぱりである。


 神聖国レインには北大陸で信仰されている宗教で信仰の対象となっている塔がある。その宗教こそ俺の名前の元にもなった主神ネイビスと二美神イリス、ビエラの計三神を深く信仰している宗教ネイビズ教。そして、三神は塔の最上階に坐すとされている。


 リレイラは敬虔なネイビズ教徒だ。俺はあの塔があるからリレイラはこの森に住んでいるのではないかと思っていた。


「よし。次の質問だ」


 リレイラは淡々と告げる。それから植物、魔物などに関する問答になり、俺は難なく答える。


「では、ステータスについて、知っていることをすべて話せ」

「はい。ステータスには【名 前】【種 族】【性 別】【年 齢】【職 業】【レベル】【体 力】【魔 力】【攻撃力】【防御力】【知 力】【精神力】【俊敏性】【器用さ】【幸 運】《スキル》《魔法》《祝福》《呪詛》があり、基本的に人のステータスはその人の許可がないと見れません。鑑定などのスキルにより看破することができ、逆に隠蔽というスキルで鑑定を防ぎます」

「ほう。それで?」

「《スキル》や《魔法》にも強弱があるのですが、それは隠しパラメータである熟練度や目に見えるステータスなどによります。また、《祝福》《呪詛》に関しては前者が神からの恩恵、後者が術士や悪魔などによる呪いになります」


 ここで俺のステータスにある『女神たちの嫉妬』が気になった。リレイラに教えてもらった内容だと、神が呪詛を施すことなどないという。


「《祝福》にはF、E、D、C、B、A、S、SS、SSSの9段階のランクがあり、主神ネイビスと女神イリス、ビエラの三神の《祝福》がその者の辿る人生の命運を決めると言われています」

「そうだ。それで?」

「大して《祝福》のランクやバランスが秀でる者ほど優れた戦士となり、ザルーダ戦線で英雄として活躍する。よって《祝福》はとても大事な項目です」


 他にもレベルや魔法、スキルの習得方法を答えていく。


 レベルは100行けば英雄級、500以上が伝説級、1000以上が神話級だという。俺はもう英雄レベルだと言われても実感が沸かない。そして何度訊いてもリレイラさんは自身のレベルを明かしてくれない。ステータスはもちろん秘密だった。


 魔法やスキルはあまり習得方法がわかっていない。それでもスキルや魔法の習得は血筋や教育、生育環境などが大きく関わるとされている。人々は努力して、時には習得者に訊いて、それでスキルや魔法を習得していくという。


「上出来だ。では最後に、あの塔について知っていることを言いなさい」


 問題はついに最後となった。リレイラは天高く指さした。その指のさし示すは天を貫く白銀の塔。虚空の塔だった。


「はい。信仰の対象にもなっている虚空の塔。数あるダンジョンと同じ波長の魔力を秘めているので、ダンジョンであることは確定。攻略者はまだいなく、そもそも入り方すらわからない。謎多き虚空の塔は神待つ塔とも呼ばれ、虚空の塔のある聖湖は古くから聖地として奪い合われてきた。こんな感じですかね」

「まぁいいだろう。一つ抜けがあるとするなら虚空の塔があるからこそ、クレストローレ皇国は北大陸も治めたいと思っているということだ……」

「そうなんですね……」

「ああ、まぁいい。合格だ」


 リレイラはそう言って拍手を俺に送る。


「ありがとう。ねぇ、リレイラ。もし大いなる災いが訪れたとして、どうして旅をするの?」

「そういう予言なのだ。私はこの時をずっと待っていた。【災い来たりて、神の御加護も消え行くが、太古に滅びし国が再び、それが救いの光となる】とね」

「太古に滅びし国って……」

「そう。私の目的はアルバルト王国の再興だ」

「なら俺も手伝うよ。一緒に旅して、成し遂げよう」

「ありがとう。お願いする」


 夕陽に誓って俺はリレイラとアルバルト王国再興を誓った。どうやったらいいのかさっぱりだが、二人ならなんとかなるだろう。今はそんな気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る