03 名前

 二週間はあっという間に過ぎた。


 一日目でハイハイができるようになった俺は家中を好奇心に任せて探索する。目もその頃にはある程度見えるようになっていた。やはり魔力視と違って実際に見るほうがしっくりくる。家は質素な作りだった。まるでいつ去ってもいいようにしてあるようだった。生活感があまりない。


 二日目、三日目と歩くようになって、家の外にリレイラ同伴で出た。リレイラは森の木々に魔法を使って実を生えさせて収穫していたけど、それも彼女? (出会ったときはお爺さんだったのでなんと呼べばいいのかわからないが)の固有魔法のような気がする。


 リレイラが言うには、15才になるとステータスを獲得するという。それまでは占い師や聖職者がみて、主神と二美神の加護がどの程度のものかしかわからないという。


 五日目、五歳になった俺は普通に話すことができるようになっていた。


「君を見ていると、昔一度だけ会ったことのある主神ネイビスを思い出すんだ。君、名前がないんだったか」


 木々が開けたところで夕陽を眺めながら黄昏れていると、リレイラが話しかけてきた。薄桃色の長髪が夕焼けの光に朱に染まる。目が見えるようになって改めて思うが、リレイラはそれは美しかった。


「名前は今はないです。親に捨てられましたし」


 もう俺のステータスの名前の欄は空欄になっている。これでも貴族の一人息子だったのにな。


「そうか。名前はな、本来は親がつけるのだが、親に捨てられた子は自分で決められるのだよ」

「俺、リレイラさんに付けてほしいです」

「そうか。なら……、ネイビスなんてどうだ? 私を救ってくれた神の名だ」

「嬉しいですが、神の名前って畏れ多く……」

「いいのだ。主神ネイビスはそんなことでは怒る方ではない」


 それに、とリレイラは続けて言う。


「私はな。そろそろ旅に出ないといけないのだ。旧友でそれはもう当たる予言者がいたのだが、大いなる災の時が来ると言ってね。それが今年なんだよ」

「大いなる災……」


 俺が反芻するとリレイラははにかんで笑った。


「その大いなる災って……」

「心配するな。ただ、その年に君をこの森でたまたま拾った。運命を感じてね。それに君、ネイビスからは魔法の適性と能力を感じる。そうだな……。どうか、私と一緒に来てはくれないか?」


 リレイラの翡翠のような瞳が俺の目を見つめる。俺はすぐさま頷いた。


 それから一日を経るごとに一歳ずつ成長する。15歳になるまで。15歳までなのはちょうどその時にステータスが得られるからだ。だが、俺はもう既にステータス見れるんだよな。


【名 前】ネイビス・アルバルト

【種 族】ヒト

【性 別】オス

【年 齢】5歳

【職 業】???

【レベル】99

【体 力】2100/2100

【魔 力】2700/2700

【攻撃力】500

【防御力】500

【知 力】1300

【精神力】1200

【俊敏性】500

【器用さ】1000

【幸 運】500

《スキル》

『応急処置』『リカバリー』『サーチ』『覚醒』

《魔法》

『プチマジックアロー』『プチマジックウォール』『プチマジックウェーブ』『プチマジックミサイル』『マジックアロー』『マジックウォール』『マジックウェーブ』『マジックミサイル』『ファイアーアロー』『アイスウォール』『ウィンドカッター』『トランス』『シャドウランス』『シャドウレイン』『シャドウレーザー』『デス』

《祝福》

『女神イリスの加護SSS』『女神ビエラの加護SSS』

《呪詛》

『女神たちの嫉妬』


 俺の名前はネイビス・アルバルトになった。それ以外は最初に見たまんまだ。一つ懸念があるとすれば、この異常なステータスだった。


 スキルと魔法がいきなりある。それでいて、レベル99。まるで最終戦の前の勇者のステータスみたいじゃないか。


 リレイラは俺のステータスを早く見たいと浮足立っていた。というのも赤子は皆レベル1でその時のステータスと加護で成長傾向が概ね推測できるという。


 だが、人生一ヶ月も過ごしてないのにレベル99の俺はイレギュラーだ。しかもその理由はよくわらからない。女神のミスとでも言えばいいのだろうか……。




 リレイラとの日々は楽しく、リレイラはこの世界の歴史や地理、魔法についてたくさん教えてくれた。


 俺が15才になる日はあっという間にやってきた。俺のステータスを見てリレイラは何を思うか。成長した体で目覚めた朝は、それだけが不安だった。

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