第10話  霊能力の基本構造 / イリスの旅立ち


初めての戦闘訓練をした日から半年が経過した。


人外についての情報も、戦闘訓練についても一通りの過程が終わり…ついにソフィアとアナスタシアは霊能力について教えてもらうこととなった。



「まさか半年で此処までたどり着くとは…恐ろしい才能だ。」


「ねえねえ、霊能力について早く教えてよー!」


「…いいだろう。」



優秀な成績を収めてきたソフィアとアナスタシアは、同じ日に学校に入った誰よりも早く霊能力の解得に入ることとなった。



「まず霊能力…まあここでは超能力だとか、魔法だとか、各々のわかりやすい不思議な力…と覚えておけばいい。」


「魔法?!霊能力って魔法の事なの?!」


「いえ…厳密には魔法のような超常現象の事でしょう。…それで、その霊能力と言うのは?」


「霊能力は生命エネルギーと言う…まあ魔法で言う所の魔力のような力を使って初めて使う事ができるものだ。…そうだな、まずは系統の話からしよう。」


「系統…霊能力にも、色々種類があるの?」


「その通りだ。‥霊能力には基本の強化系、変化系、具現化、放出…これら4つの特質がある。強化系は文字通り自身の身体能力を強化したり、武器の強度を強くしたりと‥基本的に使う機会が多く、霊能力者たちが共通して使える力だ。」


「強化系…それがあったら、いろいろと出来ることも広がるって事だね。」


「…確かに、多少高い場所から落ちても比較的軽い怪我で済むこともありそうですし…何より、戦闘中に武器が壊れたりする危険性も少なくなりますわね。」



「戦闘訓練や座学で習った知識をよく覚えているな。この調子なら‥他の3つの特質について話しても大丈夫だろう。」



二人の知識量や、しっかりと座学の内容を理解しているかなどを確認するための初歩的な事を話し、二人がしっかりと勉強した事を生かせていると確認した指南役の霊能力者は、二人に残りの3つの性質について事細かに説明していく。



「次に変化系、これは言葉で説明するには難しいが…簡単に言うと、生命エネルギーを風や氷なんかに変換して使う特質だ。」


「変化系…氷が出せるなら、暑い時とかに氷で涼しめる!風は…使い方がわからないけど‥。」


「…それもそうですが、万が一火事の現場などに遭遇そうぐうした場合にも便利ですわね。」


「具現化は…例えば目の前に料理があるとする。ナイフやスプーンはあるが…どこを探してもフォークがない。そんな時、具現化の特質を使ってフォークを出す、なんて事ができるな。」


「うーん?…つまり、今ないものを出す事ができるの?」


「いや、厳密には出したい武器やその他諸々の特徴やら形状やらをパッと思い浮かべて、霊力を使って作り出すと言った方が正しいが…まあそこはいいか。」


「最後に残りましたのは…放出、ですわね。名前の通り何かを放出する能力でして?」


「そうだな。使い方としては他の特質と合わせて使うのが主な使用方法だが…放出系単体でも十分使える。」


「例えば?」


「例えば、生命エネルギーは元から炎の特徴や性質を持って出てくるので、武器や体の一部…あるいは全体などに纏わせて攻撃をする。他には霊力を放出して相手を脅かしたり、圧をかけたりするのに使える。」


「へぇ〜いろいろな使い方があるんだね。」



「あぁ、霊能力者の数だけ多くの使い道や組み合わせがある。」


「…ちなみに一つ質問なのですが、霊能力の特質…基本の強化はともかくとして、他の3つには使える制限でしたり、資質…などがあったりするのかしら?」


「いい質問だ。結論から言って…特質の使用条件や生まれつきの資質などは関係ない。霊能力が使え人間ならば誰でも4つの特質全てが使えるが…多少、得意不得意は生まれてくる。」


「得意不得意?じゃあ、具現化するのは得意だけど放出するのは苦手だ〜!…とかがあるってこと?」


「そうだな…イメージ力が豊富で具現化系の特質を身に付けるのは簡単だったが、どうにも変化させるのができない、なんて奴は結構多いな。中には放出系は大の得意だが、いつまで経っても具現化系の特質がうまく使えない奴もいる。」


「えっ?!霊能力の特質ってやつはみんな使えるんじゃないの?」


「そいつらの話だと使えるには使えるらしいんだが…実戦向きじゃないし瞬時に使う事はできないらしい。」


「では、わたくしたちもその可能性はあると言う事ですの?」


「それは訓練しないうちには判明しないな…まあ、とにかくこれからしばらくは訓練だな。」


「はーい。」


「わかりましたわ。」



こうして、二人は霊能力の何たるかを学び、基礎の強化系を身に付ける事から始めた。



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シーカー学校に入ってから半年が経過し、ソフィアとアナスタシアは基本の強化系から、一番習得が難しいと言われている具現化系の特質まで、霊能力を一通り使えるようになっていた。


一通りのシーカーとしての教育課程も終わり、二人の少女は今日も今日とて霊能力の練習のため、訓練場へときていた。


ちなみに余談だが、ソフィアは変化系の特質が得意で、アナスタシアは放出系の特質が得意。


二人とも得意な特質はあったが、苦手な特質はなかったため、比較的簡単に霊能力を獲得することに成功していた。


お互い自分の得意分野をさらに伸ばすために練習していると…



「…おっ、いたか。」


「あれ?今日は忙しいからこれないかもって言ってなかったっけ?」


「あぁ、まあちょっと会議でいろいろとあってな…そうだ、今日はお前たち二人に朗報を持ってきた。」


「ろうほう?」


「今日でお前たちは卒業だ。したがって…人外討伐用の専用武器を渡すことになった。」


「人外用の武器…確かディアナさんが言っていましたわね。人外を倒すためには専用の武器がいると。」


「なんだ、お前たちは既に知ってたのか。…まあ、今日シーカー学校を卒業するお前たちへの餞別せんべつの品だ。」



そんなふうに、少し別れを惜しむような声色で言葉を紡ぎながら、指南役のシーカーはソフィアに双剣…二つの剣を一本の長い紐が結びつけているものを渡し、アナスタシアには短剣を2本ほど渡していた。


どうしてアナスタシアに短剣を2本渡したのかをソフィアが聞くと、指南役は…



「万が一片方の短剣を取られても、見えづらい場所にもう一本仕込んでおけば抵抗できるだろう?」



とのことだった。


指南役いわく選別の品を受け取った所で、二人は正式にシーカー学校を卒業した。



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早朝、イリスは小さな肩掛けバッグに最低限の荷物を詰めていた。


黒いローブを着るのはやめた。


一族の伝統的な服で、弱虫だった自分はよくこの黒いローブを着ていたが…そんな昔の弱い自分は捨て去った。

暗い緑のモッズコートに、中は黒のTシャツ、黒のスキニーパンツ。


暗い系統の色で統一された服装…その仕上げに赤いマフラーを巻く。…これだけは譲れなかった。



あいつが最後に私にくれた宝物…。



自身の首に巻かれた赤いマフラーを見ながら軽く哀悼し、ユリウスに気づかれないようにそっと家を出ようとしたが…



「行くのか。」


「…あぁ。」



すぐ背後にはユリウスがいた。彼はイリスが今日、家を立つ事もお見通しだったらしい。


半年間…彼とは一緒にいたが、まるで彼は私の事を知り尽くしているかのようだった。


ある時紅茶を入れようとしたら、「足元には注意しろよ。」と言われた。


突然何を言い出すのかと、その時は思ったが…危うく転けるこけるところだった。


彼が注意してくれていなかったら、きっとあの時熱い紅茶を全身に浴びていたに違いない。



そんな事が幾度となく起こった。


その間、霊能力の使い方や人それぞれの必殺技のようなものを作り出したりした。


もしかしたら彼は未来を予言できる…そんな能力を持っているのかもしれないとさえ思った。



「アミナスと言う霊能力の技も教えてもらった。実際に戦闘訓練もして、私は十分強くなった。…だから、そろそろ本来の目的を達成しに行こうと思う。」


「そうか‥。」


ユリウスは目を瞑って頬を軽く掻いたあと、ゆっくりと目を開けて少しためらいながら言葉をはいた。



「まぁ旅立ちのときにこんな事を言うのもアレだが…お前、復讐者に向いてない。」


「…。」


「半年しか一緒にはいねえが…お前、性根が優しすぎる。まぁ、お前がその道に進むってんなら俺に止める資格はねえし、最終的にどの道を選ぶのかはお前の勝手だ。」


唇を噛み締め、悔しさに身を奮わせる。



少し寂しげな目をするユリウス。


ときに優しく、ときに厳しく、イリスの事を本当に自分の息子のように思っていたからこそ、ユリウスは真剣に霊能力の修行に付き合った。



「だが…その道を選べば、お前は自責の念に駆られ、一生苦難の道に浸かる事となるぞ。」


「…わかっている。しかし、もう決めた事だ。」


「そうか…まあ何、お前が辛くなった時に帰る家くらいは用意してやってもいいさ。」


「ありがとう。…ユリウス、あなたと出会えてよかった。」


「行ってらっしゃい。」


「行ってきます。」



イリスはこの会話の最中、一度だって振り返らなかった。


もし振り返ってしまえば、決心した心が挫けてしまう気がしたのだ。


もうきっと、この家には帰らない。


…長く苦しい旅が、始まろうとしていた。

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