第8話  異能力者を育てるための学校


シーカー学校に入ってまず驚いた事は…学校の広さだった。


学校の校舎自体が大きいのはもちろん、中庭や訓練場もあるのだ。


それからもう一つ驚いた事は、一人前のシーカーになるのにどれくらいかかるか、どれくらいの期間学校で学ぶのかは定まっておらず、早ければ1年で、遅ければ10年ほどはかかるらしい。



「うーん…それにしても緊張する…!」



ソフィアのクラスはAクラス。アナスタシアにもクラスは聞いたが…教えてくれなかった。


ちょっと心細い。でも、また新しい友達が増えたらそれはそれで楽しいな…。


なんて、お気楽な事を考えながら教室の扉を開けた先には‥



「あら、またお会いしましたわね。」


「アナスタシア!アナスタシアもAクラスだったんだね!」



見知った顔、アナスタシアがいた。


微笑みを浮かべながら、アナスタシアは自分のすぐ隣の席に座るようソフィアに促す。


ソフィアはアナスタシアの隣の席に座って、話を再開させる。



「どんな事を習うんだろうね?私楽しみで楽しみで、全然眠れなかったよ〜。」


「あら奇遇。わたくしも、慣れないベッドでしたのであまり眠れませんでしたの。」



シーカー学校に入る際、ソフィアたちは学校備え付けの寮に入寮することとなった。


3日前くらいに初めて寮に入り、今日までの間はシーカー試験での疲れを取れるようゆっくり休むといい、と言われていた。


今後はシーカー試験以上に大変になる…精々くじけるなよ。と応援の言葉ももらって、ソフィアはますますやる気を出していた。



「やっぱり戦闘訓練とかするのかな?私、ちゃんとついていけるかな〜?」


「座学も習うかもしれませんわよ?」


「うぇ…勉強は苦手だから座学はないといいなぁ〜。」



そんなふうに話している内に、Aクラスの担当官が入ってきた。


まず最初に簡単な自己紹介をして、間髪入れずに本題に入り始めた。



「シーカー学校で習う事は大まかに分けて三つ。戦闘、人外の情報、それから最後に霊能力についてだ。」


「れいのうりょく?なにそれ?」


「さぁ…わたくしも初めて聞きますわ。」



みんながみんな、霊能力という単語を初めて聞いたみたいで、教室が騒々しくなった。


騒がしい声にも負けずに、担当官は説明を続ける。



「霊能力についてはそのうち教える。まずお前たちが頭に叩き込む事は戦闘と人外の情報の二つだ。以上、事前に配っておいた時間割を見て行動するように。」



それだけを言い残し、担当官の人は教室から出て行ってしまった。


確か1時間目は…戦闘訓練!


ガサゴソと自分のバックの中から時間割表を取り出し、次はどんな授業なのか、一体どこへむかへばいいのかを確認した。



「次は訓練場で戦闘訓練らしいよ!」


「あら、では急ぎましょうか。」



Aクラスから訓練場までの道のりは遠い。


余裕を持って訓練場にはついておきたかったため、ソフィアたちは周りの生徒たちが移動するより早く教室を出た。



ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー



訓練場では、教室で見た人とはまた別の人がいた。



「あら、早いわね。」


「早めについておこうって思って!」


「いい心がけだわ。…実を言うとね、シーカー試験に合格したばかりの学生たちって学校のことをナメていてね。自分はシーカー試験突破できたんだからシーカーになれないわけがない〜とか奢り昂ってるのよ?本っ当失礼しちゃう!」



「おまけに授業にも出ない奴が半分くらいいるし…」と不満げな顔でソフィアたちに愚痴を漏らす女担当官だったが、すぐに「いけないいけない…。」と愚痴るのをやめて、ソフィアたちに話しかけてくる。



「どうせ時間割通りに来るやつもいないでしょうし…今回は特別!あなたたちにだけいろいろ教えてあげようかしら。」


「本当?!わぁーい、やったー!」


「感謝いたしますわ。」


「よし、じゃあそうと決まれば…って、自己紹介の方が先か。私はディアナ。」


「私はソフィア!」


「アナスタシア=シャルベージュと申しますわ。」



アナスタシアのファミリーネームを聞いた瞬間、ディアナは「えっ?!」と驚いたような声を出した。



「シャルベージュって…確か処刑人の家庭じゃなかったっけ?」


「えぇ、わたくしは次期当主にされていますわ。」


「そんな名家のお嬢さんがシーカーやってて大丈夫なの?」



次期当主としての修行や訓練、他にも自身の家系について学ぶことなど、当主になるにあたって学ばなければいけない事は多いはずだ。



「まぁ…色々と事情がありまして、シーカー試験を受けてこいと直接お母様から命じられましたの。…ですが、わたくし処刑人なんて華もなくて人々から恐怖されるような家業、継ぎたくありませんでしたから…これを機に逃げてきましたの。」



クスクスと心底楽しそうな笑みを浮かべるアナスタシアに、ディアナは茫然と、ソフィアはビックリしていた。


まさか自分の母親の命令を逆手に取るなんて、親の方からしてみれば思っても見なかったんじゃないだろうか?



「……それじゃあ、アナスタシアちゃんはもっと気楽になってもいいんじゃない?」


「…え?」


「シャルベージュ家の一員じゃないんでしょう?だったら、もっと自分のやりたいようなことを存分に楽しめばいいわよ。…なんだか、家から解放されたと言っている割には何かに縛られているように見えたからね。」


「わたくし…自分の好きなことをして、良いのでしょうか?」


「うんうん!アナスタシアの好きなことを、私と一緒にいっぱいしようよ!」


「…えぇ!ソフィアと一緒に、わたくしいろんなことをしてみたいですわ!」


「あ、あと口調ももっと砕けた感じにしてもらえたらなーなんて‥。」


「ごめんなさいね、長年この言葉遣いで過ごしてきたものだからそれはできそうにないわ。」


「ありゃー。」



できればもっと砕けた言葉を使って、良家のお嬢様という肩書から抜け出して欲しかったソフィアだが、流石に生まれた頃からずっと使い続けている言葉使いだったのでそこは変わらなかった。


しかし、いつも冷静でどこか貼り付けたような笑みが多かったアナスタシアが、今は心の底から楽しそうに笑っているのを見ると、なんだが自分まで嬉しくなってしまって、ソフィアは頬が緩んでしまった。



「…さて!いい感じに2人の心が通じ合った所で、お姉さんからいい事を教えてあげよう!」


「やったぁ!」


「2人は一次試験の時、低級人外と戦わなかったかい?」


「えっとね…ラミアっていうのだった。」


「わたくしも似たような人外と闘いましたわ。」


「その時に使った武器は?」


「確か…イリスは短剣で倒してたよ。」


「すぐ近くにあった剣ですわね。」


「実を言うとね、普通の武器じゃ人外は倒せないのよ。」


「えぇ?!」


「ではどうして‥。」



人外は普通の武器じゃ倒せない‥ならどうして、あの時ラミアは死んだのだろうか?


それに…一次試験の試験官は「急所をつかなければ倒せない。」などと言っていたが…ディアナの言うことが本当であれば、あの試験官は嘘をついたということになるが‥。



「一次試験で現れる低級人外はね、特殊な手術をすることによって普通の武器でも倒せるようにされているし…少しだけだけど、力も弱められているわ。」


「じゃあ、シーカーの人たちはどうやって人外を倒してるの?普通のじゃダメなら、どう頑張っても倒せないよ!」


「わたくしも知りたいですわ。如何様にして、シーカーの皆様は人外を倒しているのでして?」



ソフィアとアナスタシアの2人がディアナに詰め寄る。


どうやって倒すのだろうか?そもそも『普通の武器』とはどういうことなのだろうか?


ディアナはキョロキョロと辺りを見回した後、近くに誰もいないことを確認してから2人の目線に合うようにしゃがみ、すぐ耳元で小声で話し始めた。



「対人外用の武器を使うのよ。」


「対人外用?」


「もっとも、生産数も少なくて学校にいるシーカーたちに渡しても未熟だから使いこなせないだろうということで、生徒たちにはその時が来るまで内緒にされているの。」


「そうでしたのね。」



一通り話し終えると、ディアナは立ち上がり、仕切り直すようにしてパンっと手を一つ叩く。



「よし、じゃあ戦闘訓練を始めよう!」



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