第7話  七賢者の若き新星、エドガー・アンデション


結局、イリスと対戦した男は一命を取り留めることもできず、命を落としてしまったらしい。


イリスだけが合格することもできず、帰るための船に乗せられた。


ソフィアたちは事態の収拾がつくまで、賢者の島にある宿泊施設に泊まることとなっていた。


どうしてあんなことになってしまったんだろう…もっと平和的に解決することはできなかったのだろうか?



降り頻るしきる雨を窓越しに眺めながら、ソフィアは考える。


しかし、いくら考えても答えは出ない。


そもそも、あの試験は明確な合格の基準がなかったのだ。


試験官の裁量次第で結果はどうとでもなってしまう。



「うーん…納得がいかない!」


「あら、突然大声を出してどうかしましたの?」


「だってだって!合格の基準はないとか言ってたくせに!イリスだけが不合格にされたり…しかも最後の人は戦ってすらいないのに合格扱いなのは納得いかないよ!」


「…ですが、イリスは人を殺してしまったので不合格には違いありませんわよ?試験官の方が言っていたでしょ?殺しはダメだと。」



ため息を吐いて、やれやれ…と言いたげな表情を見せるアナスタシア。


あ…そっか…でも、どうにも納得いかないんだよね、とソフィアは不満げな顔を隠しもせずに言葉を発する。



その後耐えられなくなったのかベッドの方へとズンズン歩いて行き、ボフッと大きな音を立ててベッドに飛び込む。


ジタバタと足を忙しなく動かし、急にピタッと止まった。



「…納得がいかないなら、試験官の方に直接聞けばいいのではなくって?」


「そうだ!その手があった!」



アナスタシアの一声でパッと元気を取り戻し、ベッドから飛び降りた。



「行こうアナスタシア!せめて試験官の人にいろいろ聞かなきゃ…私の気が治らない!」


「はいはい、付き合ってあげますわ。」



自分たちの部屋を出て、早速試験官を探しに出た。


比較的大きな屋敷だから、廊下が長い。


一直線の廊下を歩き、試験官の部屋の目の前まで到達した。



コンコン


控えめなノック音が鳴ると同時に、扉の奥から試験官の声が聞こえた。



「…どうぞ。」


「失礼します!」


「失礼いたしますわ。」



扉を開けた先には、最終試験の試験管だけではなく、ソフィアたちの知らない人物が優雅にソファーに腰掛けて、何か飲み物を飲んでいる人がいた。


アンティークなティーカップから一口紅茶を飲むと、カップをソーサーに戻し、ソフィアたちの方を見てにこりと笑う。



「どうもすみません…ああ、あいつらは今年の合格生たちです。」


「そうかい。…よろしく、僕はエドガー=アンデションだ。」


「わたくしはアナスタシアと申します。」


「私はソフィア!」



変わった名前だなぁ…一体どこの人だろう?


エドガーの見た目は名前同様変わっていて、バターブロンドの髪をポニーテールにしていて、目は朝焼けの色。


中性的な見た目から出される、男にしては少し高めな中性的な声。



「エドガーさん変わった名前だね。」


「おい!この方は…」


「いいんだよライ君。そうだろう?昔はよく変な名前だって言われてからかわれたものさ。」



コロコロと鈴を鳴らすような声で笑う。


この人、とってもいい人そう!



「エドガーさんはどうしてここにいるの?試験の時はいなかったよね?」


「こんな見た目だが僕は7賢者でね。」


「そうなの?!」


「そうさ。…実はね、僕は試験開始時からこの島にいたんだよ。試験官たちへの指示だしと、この島に保管されている資料のまとめを命じられてね。」



エドガーは齢21歳にして7賢者の一員になった天才だ。


シーカー歴は…何と今年で4年!人外の討伐数は100を超える。


普通、4年程度なら中級人外を倒せる様になったくらいのはずなのだが…エドガーはすでに、第一級危険人外をも倒している。


しかし、歳若くシーカー歴も5年にも満たないため、他の7賢者たちからは軽視されている節がある。



「…ソフィア、試験官に文句を言いに来たのではありませんでしたか?」


「そうだ…試験官さん!」


「どうした?」



試験官はエドガーの手前、ソフィアたち2人に丁寧な態度を取ってはいたが…めんどくさがっているのが、ソフィアたち2人には丸わかりだった。


目を瞑って紅茶を啜ってすすっているエドガーにはバレていないので、試験官的には大丈夫なのだろうか?



「確かにイリスは人を殺しちゃったし…試験的には不合格になっちゃうのも仕方ないんだけど…でも、先にイリスにいろいろひどい事を言っていたのはあっちの人だよ!」


「イリス…?……ああ、156番のことか。」


「156番?」


「先ほど説明しました、最終試験での脱落者です。…正直、奴は第一次試験の時から目立っていて、シーカーになれば好成績を収めることができたはずです…不合格にする気はなかったが、あんなことがあった手前では…。」



衝撃的な事実だ。試験官は本来、イリスを不合格にする気はなかった…ということなのか?


だとしたらなぜ、なぜ彼は不合格にされてしまったのか?



「原来シーカー試験で人を殺すような問題児は多々いましたし、我々の言っているルールもそのほとんどがブラフですが…しかし、あんな激情家だとは思っても見ませんでした。やはり不合格にして正解だった。」



まるでこの場にいないイリスを嘲笑うかのような嘲笑を浮かべる試験官。


そんな彼の態度にソフィアは機嫌を悪くするが…とにかく、今は部屋に帰る他ないとアナスタシアに耳元で言われ、渋々試験官の自室から立ち去った。



ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー



あれから一週間が経過した。


ソフィアたち第286回シーカー試験合格者たちはこの日、ついにシーカー学校へと足を踏み入れた。


シーカー試験会場行きの船で出会ったイリスとは、あれから一度も連絡を取れていない。


寂しさはある。何せ一番最初にできたソフィアの友人だ。親友と言ってもいい。


そんな彼と一緒にシーカー学校に通えないのは残念だが、合格できなかった彼のためにも、ソフィアはこの学校で多くの事を学んでいこうと心に決めていた。



「待っててね、お姉ちゃん‥。」



そしてそれと同時に、行方不明になってしまった姉の事を思って‥。



ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー



シーカー試験から一週間がたった。


出迎えてくれる家族もいない、人里には居場所がない。


天涯孤独になってしまったイリスは、山奥に残されていた無人の小屋で日々を過ごしていた。


家に帰る気も起きず、山の中を彷徨いていたが…流石に柔らかいベッドが恋しくなって家に帰ってきた。


古びたドアを開けた先には…



「っ?!誰だ!!」


「…ありゃ?こんな人気のないボロ屋に人が住んでたのか…。」



深緑のマントを羽織った人物が、自身の家に住み着いているのを見た。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る