第1話 目覚め

「ここ・・・どこ?」


見知らぬ場所で目が覚めた大地は、気だるさが残る身体を起こして、寝起きで頭が回らないまま周囲を確認した。



自分は今、白い部屋の中のベッドの上にいるらしい。


窓の外は赤く染まっているから夕焼け・・・夕方かな。



「おはよう。目が覚めたようだね」


「ぁ?・・・あぁっ!?」



自分の状況の確認中、視界の端にスーツを着た女性と男性が映り、話し掛けられたところで思考が強制的に働き、頭が覚醒する。



「お、おはようございます・・・?」


驚きで心拍数が上がる中、何とか挨拶だけは返した。



男性の方に見覚えはないが、女性は暴漢に襲われていた人物である。


彼女の姿を認めた直後、意識を失う直前の記憶がフラッシュバックし、慌てて自分の身体を確認した。



「良かった・・・生きてる・・・」


身体に触れると体温の温かさを感じ、生きている事に安心したと同時に自然と涙が一筋流れる。


女性はそんな大地を微笑みながら見つめた後、一変して泣きそうな表情となり、深々と頭を下げて彼に謝罪した。



「甲賀守大地様、この度は私の不注意で危険な目に合わせてしまい、大変申し訳ございませんでした」


彼女の肩が微かに震えている。



「い、いえいえいえいえ!俺が余計な事しただけですし!それに、カッコ悪いところばかりで!」


今までかしこまった謝罪を受けた事がなく、しかも、その相手が女性であった為、大地の涙など一瞬で止まり、慌てふためきながらフォローする。



「ぐす。いえ、そもそも私が人払いの結界を張るのを怠ったからです。正義と魔法を掲げる立場なのに情けない限りです」



彼女はそれでも自分のせいだと涙声で自嘲した。


「そんな。俺は貴女に助けられ・・・ん?魔、法?え?」



大地は女性に泣き止んで欲しい一心で更なるフォローを入れようとしたが、思いもよらぬ言葉が出たので思わず聞き返した。



「ああ、それについてだけどね、君の今後を含めて私から説明しよう。」



大地と女性がやり取りしていた中、にこやかに佇んでいた男性が2人を落ち着かせるように優しく割って入った。


年齢は60歳前後だろうか。


落ち着いた大人の雰囲気がある一方で、スーツ越しに見ても分かるほど身体は引き締まっており、年齢ゆえの衰えを感じさせない若々しい印象も受ける。



「まずは、甲賀守大地君。改めて君には大変申し訳ない事をした」



男性も頭を深々と下げ謝罪した。



「ま、待って下さい。そんなに謝らなくても・・・ほら、俺も無事でしたし、結果オーライです」


「それでも君のような元一般市民を危険な目に合わせたのは、我々に落ち度があったからだ。何も言わず謝罪を受けて欲しい」


「それなら、まあ、はい・・・」



謝られるのが苦手な大地は納得できない表情だったが、ここでごねても仕方ないと、渋々ながら応じる。



「ありがとう。それではまず昨日の経緯について説明しよう」


「昨日?もしかして俺1日中寝てたんですか?」


「ああ、いや、むしろ1日で、しかもそのままの姿で済んだ事の方が奇跡だ」


「ええ?・・・そんなに俺やばかったんですか?」


サラリと自分が危機に瀕していた事を告げられ、大地は戦慄した。



「やばかったというより、現在進行形で君の存在がやばい」



男性が柔和な笑みを消し、真剣な表情で答える。


ただ、口調を大地に合わせたので、今一つ真剣味に欠けていた。



「どういうこと・・・ですか?もしかして、あの場を目撃したから、あいつに狙われてるんですか?」



当の大地はそれどころでなく、ゴクリと唾を呑み込む。



意識していなかったが、もし昨日の場に見てはまずい物があり、大地がそれを目撃したとあの男が勘違いしていたら・・・更に男が組織的な何かの一員だったら・・・


不安から出た嫌な汗が背中を伝い、身震いした。



「いやー、君が想像している程度の事だったらまだ楽なんだけどね」



相手が一組織だけなら潰すのは簡単だしね。



伊吹の表情から心の内を読んだのか、男性は苦笑いする。



「・・・え?・・・どういう、事ですか?」



それ以上のまずい事態を想像できない大地は、男性の言っている意味がよく分からず、思考をフリーズさせた。




「経緯説明の中で話すつもりだったんだけどね、端的に言うと君は『特別な存在』になったんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔女子の使い魔 いぬがさき @inugasaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ