5.記憶

自覚したのは、いつだったか。

体の支えを失って、仰向けに倒れた時?

視界全てが紅くなって、なにも識別できなくなった時?

熱かったのに、急に体が冷えて寒くなった時?

だんだん瞼が落ちてきて、耐えられなくなって思わず閉じてしまった時?

——————なんでもいいだろう。

兎も角、わたしは死んだ。

次に気が付いたときは、目の前に知らない天井があった。

でも、知ってる。不思議な感情があった。

しばらくし、私の名がステラ・テンゼルであること。平民ながら一世紀に一度確認されるほど貴重な、光魔法が使え、十四代目聖女に任命されたこと。多すぎる魔力の暴走を抑えるため、貴族たちの多く通う魔法学園に通うことになったこと。だが平民だと具合が悪いので、男爵家に養子入りし、王都教会に住み込みで、貴族としての最低限のマナーを学んでいたことをおもいだしたのだった。

予想外だったのが、そのとたん何故かの記憶が綺麗さっぱり無くなっていたこと。

全てを思い出した時にはもう、“わたし”は“私”。ステラになっていて、ジョシコーセーだとかチキューだとかの意味不明な単語は、まったく無くなっていた。

そして十四歳の今。私は二つの『記憶』を取り戻したのだった。

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