第16話 壁の門



 二人は、紅い瞳と灰色の瞳を持つ民達を残して、高い壁の一つしかない大きな門へ歩いて行った。そして門の前まで来ると、

「私達は、この戦を止めに来た。門を開けなさい」

と片目だけになった金色の瞳を持つ若者が、もう片方の眼窩から血を流しながら叫ぶように、壁の向こうの民に語りかけた。


 暫く待っていたが、静かなままであったので少女が語りかけようとした時、門の上の壁から一本の矢が飛んできた。その瞬間、少女の前を一頭の獣が駆け抜けた。矢は、飛び出してきた細く長い一本の角を持つ獣の喉を貫いた。少女の前を数歩遠ざかって、獣は大きな音を立てて倒れた。少女はその獣のそばへ寄り、喉から矢を抜き、瞳を抜き出した眼窩から流れ出る鮮血を傷口に塗った。暫くすると、獣は大きく鼻を鳴らし首を振ると立ち上がり、何事も無かったかのように歩き出した。少女は残された瞳で門の上を睨むと、また一本の矢が彼女を目掛けて放たれた。然し、その矢は空中で急に角度を変えて、あらぬ方向へと飛び去って行った。門の前で弓を持った金色の瞳の若者が居た。彼の放った矢は的確に、白い瞳の兵士の放った矢にあたった。少女は、毅然とした態度で門の中の者達に大きな声で語りかけた。

「私達には空を飛ぶ乗り物がある、あなた方の矢が届かない上空から、的確にあなた方一人一人を射抜くことが出来る。それでも最初からそうしなかったのは何故か分かる者がいるのか。さぁ、門を開けなさい」


 彼女が叫び終わると、暫くしてゆっくりと、その巨大な門が開き始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る