第17話 壁の中
二人が門を通り、高い壁の中に入っていくと、数人の者が弓を引いて彼女と彼を狙っていた。片目の少女は、残っている金色の瞳で、その者達を睨み、
「愚かな者達よ、既に勝敗が決まっているのを未だ分からないのか。どうして戦に使えるだけの力で、人を救おうと思えないのか」
白い瞳の兵士達は、黙って弓と矢を床に置いた。そして少女は、更に続けて言った。
「その広間で倒れている人達は何故か。身体から血を流し、目から血を流し、耳から血を流し、肺に溢れた血を吐き、それは赤い花の花粉に触れたからではないのか。金色の瞳の意味を知らない者はいないであろう。この瞳を使うが良い」
彼女が言い終わると、その横で同じように片目の若者が大きな声で言う。
「大釜に湯を沸かせ」
二人が壁の中に吸い込まれて暫くすると、壁の中から白く輝く光が天空へ登るのを壁外の民達は見た。壁内に怪我人などいる筈がない。どういうことか? 壁外にいる民達には想像もできなかった。
既に両目を失った少女が、両方の眼窩から血を流して言う。
「赤い花の花粉に触れた者達へ此の水を注ぐが良い。更に足りなければ、我らが眼窩より流れ落ちる血を使うが良い」
病に侵された全ての人々を救うには時間がかかったが、それでも倒れた人々が起き上がれるまでになった時、白い瞳の老人が言った。
「金色の瞳を持つ民よ。何故、私達を助けるのか」
問われて少女が言う。
「緑の瞳を持つ民族には掟がある。私達はその掟を成就する為にやって来た。金色の瞳に目覚めた者は、村を出て負い持つ技を使わなければならない。たとへ、如何なる罪、汚れ、過ちを持った者でも、目の前で苦しみ、悲しみ、傷ついた者であるなら、私達は惜しみなく此の金色の瞳を差し出すであろう」
老人は続けて言う。
「私達はどうすれば良い」
「武器を捨てよ、その鉱石の力で、農耕器具を作り、船を作り、人々に与えよ。そして、子供達を解放せよ。既に病に倒れた全ての民達が、赤い花の花粉から救われた以上、金属を作る労力は元に戻った筈だ」
間も無くして、大きな作業場から子供達が出てきた。そして、最後の儀式から一度も笑ったことのない少女がやっと笑顔で声を掛ける。
「帰ろう、みんなを待っている父と母の元へ」
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