第55話 アレは、お兄ちゃんの仕業だったのね!


「教会の無力化といい、彼は中々面白いですね」


 と感心した様子のフーラに対し、


「わふ?」


 私は首をかしげた。


(お兄ちゃんは一体、なにをしたのだろう?)


「ああ、すみません……クタルにも分かるように説明する必要がありますね」


 でも、その前に――そう言って、フーラが手を軽く上げる。

 すると、周囲の動きが止まった。


 ――いや、すごくゆっくりだけど……動いている⁉


 戸惑とまどう私に、


「こちら側の時間を加速させました。相対的に、外の出来事がゆっくりに感じます」


 と説明してくれる。

 どうやら、私達の居る空間と外の世界で、時間の流れが違うようだ。


(最初から、そうしてくれればいいような気もするけど……)


 そんな私の考えが伝わったのだろう。


「申し訳ありません。ワタシの方も状況を把握はあく出来ていませんでした」


 とフーラはあやまる。


「また、思った以上に【石碑せきひ】の破損はそんひどかったようです」


 彼女はそう言って、この国の地図を表示してくれた。

 紙ではない。空中に地図が映し出されている。


 どうやら、【石碑せきひ】の場所に印が付いているようだ。


破損はそんひどい箇所は、赤い色のようね……)


 赤から橙、黄色、緑を経て、青が正常に機能している【石碑せきひ】だろう。


(でも――ほとんど赤のようね……)


 少なくとも、私が生まれてからの十四年間、契約の更新は行われていないはずだ。


 ――いや……きっと、それ以前からだろう。


(この国の【石碑せきひ】は、管理されていなかったのね……)


 フーラだけの所為せいではなさそうだ。


「わふん……ゴメンね。そういうつもりで言ったんじゃないの……」


 言い訳する私に対し、


「いえ、事実ですので――」


 とフーラ。続けて、


「そもそも、クタルのような存在を作り出す事が目的でしたし……」


 同胞である【不死】ノスフェラトゥに、このような形で利用されてしまったのは失態です――彼女は幾分いくぶんくやしそうな口調で言う。ただ、


「しかし、魔術師という存在は嬉しい誤算ですね――」


 と口角を上げた。


(わふん! 悪い顔してるよ……)


 ――まぁ、お兄ちゃんの事をめてるみたいだからいいか!


「おっと、失礼……話がれましたね」


 フーラはコホンッと咳払せきばらいをすると、


「少なくとも、これら【石碑せきひ】の修復を兼ねて、情報収集を行った結果……」


 色々と分かりましたよ――彼女はそう言って姿勢を正した。しかし、


「どうも、クタルと話していると調子がくるいますね」


 と余計な一言を付け加える。


(わふ? どういう意味だろう……)


かく、先ずは帳簿の話でしょうか……」


「帳簿?」


 フーラの言葉を反復する私に、


「はい、教会の手下となっていた男達の店から、クタルの兄である魔術師の彼・リオルが帳簿をもらいましたよね?」


 そういえば、そんな事があった気がする。


(そんなモノをもらって、どうするのかな?)


 私がそんな事を考えていると、


「どうやらリオルは、その情報を冒険者ギルドに流したようです」


「わふ? どういう事……」


(確かに、冒険者ギルドにはったけど……)


「正確には、盗品を探す依頼を出したようですね」


「なるほど、冒険者に探させたのね!」


(わふ? でも、それって変じゃない……)


 私は首をかしげる。


「盗品を持っているのが誰なのか分かっているのなら、忍び込んで取り返せばいいのに……」


「どうやら彼は、教会が盗んだ事にしたかったみたいですよ」


 フーラにとっては、余程よほど面白かったのだろう。微笑ほほえんだ。


「それって、教会の偉い人に盗まれました――って事にしたのかな?」


 私の問いに、


「はい、アレは依頼という名の被害届ですね」


 フーラは――うんうん――とうなずく。


「でも、よく冒険者ギルドが対応してくれたわね……」


 ああいう場所は、お役所仕事なところがある。

 教会は依頼の他にも、ポーションや薬などをギルドにおろしてくれたりする。


 なので、危険リスクおかしてまで、魔術師である兄の言う事を聞くとは思えない。


「冒険者のお偉いさんも、あのお店を利用していたようですね」


 とフーラ。続けて、


「また、この国では教会が力を持ち過ぎました」


 『嫌われていた』という理由の方が大きいようです――と説明してくれる。


(なるほどね……)


 ――みょうに納得出来る……わふん!


しくも、今日は祭りで、街には人が多く集まる日――うわさが広まるのは早かったようです」


 クックックッ――とフーラ。


(思い出し笑い?)


 まるで、その現場を見て来たかのような反応だ。


 これは失礼――彼女はあやまった後、


「実は冒険者の一人が酔っ払って、仲間を引き連れて教会の幹部の家へ突撃したところ――」


 と話してくれる。

 そこまで言われれば――私でも想像が付く――というモノだ。


「見事に盗品を見付けた訳ね……」


 私の回答に――はい――とフーラ。


(なるほど!)


 そこまでくれば、後はただ、ドミノ倒しのように連鎖れんさしていくだけだろう。


(あの帳簿に乗っていた教会の幹部の家が次々に襲撃しゅうげきされる訳ね……)


 ――わふっ! そう言えば……。


 小男達も行方をくらまし、丁度、あの店にあった盗品を回収したタイミングだ。


「想像の通り、教会の幹部連中は軒並み民の手によって……」


 フーラはわざとらしく顔をせる。


(まぁ、法を司るはずの教会が、法を犯していたのでは仕方がない……)


「どうりで、教会に誰も居なかった訳ね……」


 私はあきれる。


(アレは、お兄ちゃんの仕業だったのね!)


 ――警戒けいかいして損したよ……わふん!


 どうやら、最初から楽々と忍び込めたようだ。


「正確には、イストルという孤児院の少年も協力したようですね」


 とフーラ。


(わふん? どういう事……)


「街の子供達に知り合いが多いようです。子供達を使ってうわさを広め、大人を扇動せんどうするよう仕向けたみたいですね」


「わふっ!」


 ――そう言えば、ディオネが教えてくれたよ!


(確か……)


 お兄ちゃんがイストルに、なにやら頼み事をしていたはずだ。

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