第40話 そういう事がしたいんだよ!


堂々どうどうとしていてください」


 とフラン。私は彼女の歩幅ほはばに合わせ、ゆっくりと後をついて行く。

 本来であれば、ここで暮らしていたのかと思うと、感慨かんがい深いモノがある。


(思ったよりも、綺麗で新しい……)


 ――いや、違うか。


 十四年前、このお城も破壊されてしまったはずだ。

 建て直した――と考えるのが普通だろう。


(壊れた建物はなおせても、死んだ人達は帰って来ないんだよね……)


 私が考えても仕方のない事だが、心の何処どこかでなにかが引っ掛かる。

 この十四年間、決して安穏あんのんと暮らしてきた訳ではない。


 恐らく、この国の事をなにも知らずに、兄と旅をしていた所為せいだろう。


(お兄ちゃんの事だ……)


 きっと――なにも教えなかった俺が悪い――と言うはずだ。

 私の事を思って教えなかったのは分かるけど――ずるい――と思う。


(私はただ、一緒に悩んだり、一緒に考えたり――)


 ――そういう事がしたいんだよ!


 王宮の渡り廊下を通った時、その景色に一瞬、目がうばわれる。

 王宮の中庭――その庭園には、色りの綺麗な花々が咲いていたのだ。


「わぁー」


 思わず、感嘆かんたんの声を上げてしまった。


「綺麗ですよね」


 とフランは微笑ほほえむ。


「うん! すごいよ……」


 そう言って、私は慌てて口を手でふさいだ。


(セーフ……だよね?)


 周りには誰も居ない。


 ――うん、良かった!


「この花を植えるように指示したのはフランだ」


 とアーリが教えてくれる。


「十四年前とはいえ、事件が起きてしまったのが建国祭ですからね……」


 フランはそう言うと――毎年の事ですが――と続ける。


「国民が――少しでも明るい気持ちになれば――と思い、この花を配るのです」


 しかし、その笑顔は何処どこか弱々しい。


(自分のやっている事に、自信がないのだろうか?)


 確かに、偽善や自己満足と言われてしまえば、その程度の行為こういだ。

 フランは――なんなぐさめにもなりませんね――と語る。


「そんな事はないよ」


 と私。両手で彼女の手を取る。

 そんな私の行為こういこそ、気休めでしかないのかも知れない。


 ――でも、フランは違う!


 彼女は少しでも、自分に出来る事をしようと頑張っている。


「私は姉として、鼻が高いよ」


 ――わふん!


 と胸を張る。鼻だってヒクヒク出来る。


 ――へぷちっ!


(おっと、クシャミが出てしまった……)


 そんな私の態度に――フフフッ――とフランが笑った。


(やっぱり、笑顔がいいよね!)


 私は安堵あんどする。


「明日の朝には、り取ってしまう予定だ」


 少し見て回ればいいんじゃないのか――とアーリ。


(やっぱり、フランに対しては甘いみたいね……)


「そうですね」


 とはフラン。当然、侍女である私も一緒に中庭へと移動する。


 ――うん、お腹はまだ大丈夫だ!



 †   †   †



「困ったわね……」


 花の香りの所為せいか、鼻が利かない。


(迷子という程ではないのだけれど……)


 あの後、急に兵士がフランを呼びに来て――ぐに戻りますので、待っていてください――と言い残し、アーリと一緒に何処どこかへ行ってしまった。


(呼びに来た兵士が――国王が――と言っていたような気がするけど?)


 耳を隠しているため、どうにも上手く聞き取れない。

 話からさっするに、国王――つまり、父になにかあったようだ。


 だが、そこまで慌てた様子でも無かったし、フランもぐに用件を理解していた。


(もしかして、良くある事なのかな?)


 ――わふん……?


 そんな感じで、考え事をして歩いていたら、方向を見失ってしまっただけだ。

 四方とも同じような景色なので、何処どこから来たのかも分からない。


(まぁ、ウロウロしていれば……)


 ――その内、戻ってくるよね?


 と今は軽い気持ちで散歩していた。

 ただ、日も暮れて来たので、少し寂しい感じがする。そんな時だ。


「お姉さん、迷子なの?」


 中庭の長椅子ベンチに腰掛けていた少年に声を掛けられる。

 白の聖衣ローブまとっている事から、教会の関係者だろう。


(鼻が利けば、ぐに気付けたのに……)


 ちょっと、不味まずいかな?――と後悔する。


「新しく、この城に来たばかりで困っています」


 と私が告げると、


「そうなんだ」


 と少年は長椅子ベンチから立ち上がり、聖衣フードを下ろした。

 金髪碧眼の美しい少年だ。


「なら、案内してあげるよ――どうせ、お祭りまではひまだしね」


 野生のかんだろうか?

 この少年は危険だ――となにかが告げている。


(でも、ここで逃げると怪しまれるよね……)


「それは助かります」


 私は記憶を頼りに、フランがやっていたカーテシーをする。


「で? 何処どこに行きたいのさ」


 少年の言葉に、


「はい、姫様のお世話をするように申しつかっておりますので――」


 と私は答えるのだが、


「ああ、その前に……面白いモノを見せてあげるよ」


 途中で言葉をさえぎられてしまった。

 少年は聖衣ローブひるがえし勝手に歩き出す。


(まだ、返事もしていないのに……)


 ――困ったモノね!


 仕方なく、私は少年の後をつけた。

 廊下で何人なんにんかの兵士や文官らしき人物とれ違った。


 だが、皆一様に茫然ぼうぜんとしている。

 まるで生気を抜かれたかのようだ。


(正直、気味が悪い……)


 明らかに、少年が原因だろう。


 ――この少年、何者なにもの


 私はいぶかしむが、答えが出る訳もない。

 兄だったら、ぐに分かるのだろうか?


「着いたよ」


 と少年。そう言われても、ここは廊下だ。

 もしかして――窓から中をのぞけ――という事だろうか?


 少年は純粋な笑顔を浮かべている。


(まるで、悪戯いたずらっ子ね……)


 仕方なく、私は言われた通り、窓からこっそりと部屋の様子をうかがった。

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