第四章 フェンリエル城へようこそ!

第39話 お姉様と一緒だと、退屈しません


 山のふもとにある湖まで戻ると、


 「じゃあね、お兄ちゃん……」


 私達はそこで、兄と別れた。

 はっきり言って、後ろ髪を引かれる思いだ。


 フランの話によると、近くに城への隠し通路があるらしい。


(ここからだと、お城まで、かなりの距離があると思うのだけれど……)


 ――大丈夫かな?


 私のそんな心配を余所よそに、


「お姉様、こちらです」


 案内されたのは、鬱蒼うっそうしげ草叢くさむらの中だ。

 アーリが先頭を歩いてくれたので、フラン同様、その後をついて行く。


 すると、いつの間にか景色が変わった。

 気が付くと、石で囲われた部屋ような場所に立っていたのだ。


おどろきますよね?」


 とはフラン。振り返っても、そこに出入り口はない。

 代わりに、壁の左右に細長い【石碑せきひ】がそれぞれ立っている。


「ええ、そうね」


 と私は返した。


(ここに来る前、ほこらのようなモノを見た気がする……)


「特殊な【魔力マナ】を持つ者に反応する仕組みになっているようだ」


 とアーリ。

 どうやら、王家の【魔力マナ】を持つ者が近くに居ると、この場所へとつながるらしい。


 こんな状況だというのに、少しワクワクしてしまった。

 彼も一緒に居るという事は、王家の人間が一緒ならば、誰でも使えるようだ。


「少し暗いが――いや、大丈夫か……」


 ランプに明かりをともしつつ、アーリは口をつぐむ。

 フランも私と同じで、夜目がくのだろう。


 余計な心配だった――と思い直したみたいだ。


「うん、大丈夫だよ!」


 私は――ありがとう――と返す。

 部屋の造りは古いが、床は石畳がかれ、整備されている。


 走ったりしない限りは、転ぶ事はないだろう。

 私はひもを通し、首に掛けていた指輪をにぎめた。


 それは兄からもらったモノだ。魔術が掛けてある指輪で、【魔力マナ】を込めると、私の髪と瞳の色を変える事が出来る。


 ただし、今は魔術道具ではなく、『お守り』代わりだ。

 勿論もちろん、兄が居ないという状況は何度なんどもあった。


 それでも――つい、頼りにしてしまう。


「大丈夫ですか? お姉様……」


 フランが心配して、私に声を掛けてくれる。


「わふ? 大丈夫だよ」


 私は平気なフリをする。本当は嫌な予感がしてならない。

 それでも、歩みをめる訳にはいかなかった。


「そうですか?」


 フランは納得していない様子だったが、それ以上は追求ついきゅうして来なかった。

 今はゆっくりと通路を下っている。


 せまく暗い通路のため、通常の人間なら、感覚がくるってしまうだろう。

 どういう訳か、私の場合はその逆で、案外平気だったりする。


「そろそろだ」


 とアーリ。大した距離は歩かなかった。

 最初に立って居た場所と同じような部屋に出る。


 やはり、ここにも同じように、ついとなる【石碑せきひ】が立っていた。


「先に様子を見て来る」


 彼はそう言って、フランにランプを渡す。

 そして、【石碑せきひ】の間にある壁に吸い込まれるように姿を消した。


(へー、そんな風になっているんだ……)


 私が感心していると、ぐにアーリは戻って来る。

 正確には、アーリの腕だけが出現した。


 問題ない――という事なのだろう。

 合図ハンドシグナルを信用し、私とフランは【石碑せきひ】の間をくぐった。



 †   †   †



 まだ薄暗いが、通路のところどころに明かりが灯されているようだ。

 どうやら、王宮の中に辿たどり着く――いいえ、


(帰ってくる事が出来たみたいね!)


 先程のまでの土のにおいとは違い、色々なにおいが混ざっている。


「ここは王宮の地下だ」


 とアーリが教えてくれた。


なんとか、無事に戻ってくる事が出来ました」


 フランは少し嬉しそうだ。逆に私は、頭巾フードかぶる。

 尻尾もスカートに仕舞しまってある事を確認した。


「まったく、一人だけ楽しそうに……」


 つかでも、彼女にとっては冒険だったのだろう。

 ウキウキとしているフランの様子に対し、アーリは後頭部をいた。


「これから、どうするの?」(きゅ~)


 私の問いに対し、


「あら、あの子がついて来たのですか?」


 とキョロキョロと辺りを見回すフラン。

 私は申し訳なく手を上げると、


「お腹の音です」


 と答える。フランは苦笑した。

 アーリはそっぽを向き、笑いをこらえているようだ。


「お姉様と一緒だと、退屈しません」


 フランは喜んでくれたようだけど、私としてはずかしい。


「フランの部屋に戻ろう」


 食事は準備させる――とアーリ。なんだか気を遣わせて申し訳ない。

 移動は案外順調スムーズだった。


 アーリが前以まえもって、人払いをしていたようだ。

 彼が信頼されているからなのか、フランが城を抜け出す常習犯だからなのか……。


(判断には、悩むところよね?)


 多分、両方だと思う事にする。フランの部屋は最上階にあるようだ。

 地下から地上へ出る際、アーリはなにやら見張りの兵士と話し、何処どこかに行かせる。


 その間に、私とフランは使われていない部屋へ入ると、着替えを済ませた。

 フランは簡易なドレスに、私は侍女の衣装をまとう。


何着なんちゃくも服があるって事は、やはり、常習犯なのね……)


 ――困った妹である。


「やっぱり、お姫様ね」


 フランの姿を見た私の感想に対し、


「お姉様も着てみます?」


 とフラン。だが――トントン―――とドアがノックされる。

 一瞬、おどろいたが、冷静に考えるとアーリしかいない。


 急げ――という意味だろう。

 どうやら、私達が着替えに興じる事を彼はお見通しだったようだ。


(そういうところは、少し、お兄ちゃんに似ているのよね……)


 私は、フランに耳と尻尾が隠れている事を確認してもらうと、彼女の部屋へと向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る