第38話 この国の姫として
「その『黒い【
フランの質問に――落ち着いて聞いてね――と私はゆっくりと
「魔術師の中には『魔術の王』……つまり――」
【魔王】という存在が語り継がれているの――そんな私の言葉に、
「【魔王】ですか?」
フランは少し戸惑っている様子だった。無理もない。
相変わらず、キューイだけは――キュイキュイ――と鳴いている。
仕方のない事だけど、事の重大さが分かっていないようだ。
私は――そうよ――と肯定した後、
「そして、魔術師が【魔王】へと
ここまで言えば、聡明な彼女の事だ。理解しただろう。
「それが『黒い【
フランの言葉に、私は
果たして、そんなモノが本当に存在するのか?
多くの人にとっては疑問だろう。
「旅をする魔術師――その多くの目的は【
と私は補足する。すると、
「ベガートから聞いた事があります」
フランが返答する。続けて、
「【
と正解を言い当てた。
私としては、説明を
「フランは物知りね」「キュー」
私が感心すると――お姉様程ではありません――そう言って、彼女は
「だけどね――」
恐らく、『黒い【
「知識とは違う――別の
「キュイキュイ」
「別の
首を
そんなに彼女に対し、決して怖がらせるのが目的ではないのだけれど、
「悪魔――とかね」
少し
フランは、私のその言葉を笑う事なく、
「悪魔ですか……」
彼女は
私とフランがそんな話をしている間に、兄達は作戦を詰めているようだった。
(こういうのは、お兄ちゃんに
「作戦は決まったの?」
私の問いに、
「大体はな……」
と兄。当然、不安はあるのだろう。
だが、一番の心配は私の事のようだ。
兄の中での優先順位は、この国の人達よりも、私なのだろう。
(それはそれで嬉しいけど……)
――
「お兄ちゃん!」「キュイ!」
私は人差し指を立てると、
「
と注意する。
これには兄もそうだが、フランやベガートも
「……そうだったな」
「そして、クタルの兄でもある」
そう言って、いつものように頭――ではなく、私を抱き締めた。
突然の事に、今度は私自身が、
キューイが慌てて、私の肩から飛び降りた事だけは分かった。
フランが――まぁ――と
そして、ベガートは肩を
「
そう言って――フッ――と息を漏らす。私としてはそれどころではない。
突然、好きな人に抱き締められて、どうすればいいのか分からない状況だ。
ただ、兄は、
「お前を失う事が怖い――」
とだけ告げる。私自身、逃げる気はないが、
鏡を見た訳ではない。
(でも、顔が真っ赤になっているのが分かるよ……)
時間にすれば、数秒だったのか、数分だったのかも、よく分からない。
兄は
「分かった――お前の信頼に答えてみせる」
そう言って
――ひ、
(そう言われると、私だって頑張るしかない……)
私は――うん!――と笑顔で
「お願い! この国の人達を助けてあげて……」
そう言って、兄を見詰める。
兄は
「分かっているさ」
そう言って、私の頭を優しく
作戦については、基本的に出たとこ勝負なところが大きい。
まずは、フランとアーリと一緒に、私は城への隠し通路を使って
その後、兄とベガートの準備が整うまで待機する。
ただ、時間も限られている。
明後日には変装して、教会へ潜入する事になるだろう。
――決行は夜ね!
人々が寝静まった頃に、始めなければならない。
【
(この時、
一方でベガートは、人々を王都から遠ざけるため、命令を出すらしい。
恐らく、再契約が完了すると【
そのため、教会の連中に動きがある
彼は教会の連中の相手をするため――
(ここからは時間との勝負ね……)
また、兄が教会の様子を探るためにも、時間が必要である。
教会に【
この三チームによる行動となる。
だけど、確証がある訳ではない。
それぞれに臨機応変な対応が求められる。
ただ、私とフランだけは、
教会の手に落ちるのだけは避けて欲しい――と言われてしまった。
理屈は通っているので、私もフランも言い返す事はしない。
(ただ、守られているだけのような気もするけど……)
ベガートは――兵を待たせている――と言った。
どうやら、戻り次第、このまま下山するそうだ。
時間がないので、私は一人でキューイを山に返す事にする。
素早く木に登り、枝から枝へと飛び、山の奥へと入る。
そして、その先で、罠が無い事を確認した。
地上に降りると、いよいよ、キューイとのお別れだ。
「もう、罠に掛かっちゃダメだよ」「キュー」
(本当に分かっているのかな?)
少し心配になる。
――でも、他人の心配をしている場合じゃないよね!
私は――この国の姫として――責務を果たす必要があるのだ。
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