第41話 ちょっと、失礼だよ!


 私は少年に言われ、窓からこっそりと部屋の様子をのぞく。


なんで、こんな事をしているのだろう?)


 考えたら負けのような気がするので、今は考えない。

 少し薄暗い部屋。そこには数人の人影があった。


(え⁉ フラン……)


 という事は、


(一緒に居る、やつれた男性は……やっぱり――)


「王様だね♪」


 と少年。部屋の様子を見てもいないのに、何故なぜ分かるのだろうか?

 まるで心を読まれているみたいだ。しかし、今は、


(アレが、私のお父さん?)


 見るからにせこけていて、弱々しい。

 年齢をかんがみても異常だ。


(どうすれば、ああなるのかな?)


 これでは、まるで老人のようだ。


流石さすがは王族だね。これでも持った方だよ」


 少年が微笑ほほえむ。

 そんな意味深な台詞を私などに言ってもいいのだろうか?


 しかし、これは機会チャンスでもある。


なにか知っているのですか?」


 私が問うと、


「さぁね?」


 とお道化どけた風をよそおって少年はとぼけた。


(絶対、なにか知ってるよね……)


 しかし、これ以上追求しても無駄なような気がする。

 私があごに手を当て、考えていると、フランが部屋から出て来た。


「あら、おね……」


 私に気付いた彼女は――お姉様――と言い掛ける。

 それをアーリが手で制した。そして、


「クタル、こんな所でなにをやっている」


 はたから見ると、フランをかばう形になるのだろう。

 そして、私を問い詰めているように映るはずだ。


 私は服装を正して向き直ると、


「申し訳ございません」


 そう言って、頭を下げた。


ずかしながら、迷ってしまったようです。なので――」


 こちらの聖職者の方に案内をして頂きました――と説明する。だが、


「誰も居ないが……」


 アーリの言葉に――そんなはずは――と私は振り返る。


(本当だ……)


 先程までそこに居た少年の姿は、影も形も無くなっていた。

 アーリは困った表情をする。


 私の言った事が――嘘ではない――と理解しているのだろう。

 しかし――考えても仕方がない――そう判断したようだ。


「早速だが、姫は疲れている。部屋に連れていって、休ませて上げてくれ」


 と私に告げる。かしこまりました――と私は頭を下げた。

 どうやら、お互い、確認しなければならない事があるようだ。


(でも、この場で話すのは不味まずいよね……)


 ここは一旦、フランの部屋へと移動した方が良さそうだ。


(ところで、フランの部屋って何処どこ?)


 ――わふん?



 †  †  †



「わふーっ!」


 私はベッドへダイブする。

 やはり、お姫様だけあって、いいベッドを使っている。


 ――うらやましい限りね!


 依然として、お腹は減っているけど、眠気の方が勝ってしまいそうだ。


「普通のベッドですが……やはり、お姉様はベッドを使うのも初めてなのですか?」


 不憫ふびんです――となにやらフランに勘違いされる。


 ――ちょっと、失礼だよ!


(ずっと、野宿でもしていた――とでも思われているのだろうか?)


「いや、普通のベッドははずまないし、天蓋てんがいもついてないからね」


 私は妹の常識を訂正する。


(変なところで、温室育ちなのね……)


 一方、


「まぁ、そうなのですね……」


 と感心するフラン。私は、


「後、絨毯じゅうたんも、こんなにフカフカじゃないからね!」


 と教えておく。分厚い絨毯じゅうたんは、足を乗せると押し返してくるのだ。

 これは一度、フランを孤児院へ招待し、泊めて上げた方が良いのかも知れない。


 ただ、私の知っている王族と比べ、部屋の内容はいたって質素しっそだ。椅子いすつくえ、衣装棚はあるが、豪華な装飾品や、きらびやかな調度品などは見受けられない。


(ちょっとした本棚があるくらいかな?)


 国の状況を考えれば妥当だとうだろうけど、王族らしくはない。

 彼女の性格が出ているため、私に取っては好ましい部屋だ。


 しかし、どうにも一つだけ、気に入らない事がある。


「どうしました? お姉様……」


 私は立ち上がると、窓際まどぎわへと移動する。

 そんな私の行動を不思議に思ったのか、フランは首をかしげた。


 私は窓からの景色を確認する。街が一望出来る。

 景色がいい――と言ってしまえば、それだけだ。


 でも――ここは城にある塔の最上階である。


(これではまるで、フランを幽閉しているみたい!)


 そんな風に感じてしまう。これではとらわれのお姫様だ。

 勿論もちろん、自由はあるだろう。


 だけど、彼女が逃げられないように――監視している――としか思えない。

 そんな息苦しさを感じる。


「フラン、今回の件が終わったら――」


 私が台詞セリフを言い終える前に、


「あまり窓際まどぎわに立つな」


 アーリが音もなく現れる。


 ――ビックリするなぁ、もうっ!


 私がほほふくらますと、


「夕飯の前だが、サンドイッチを作って来た」


 とアーリ。飲み物も用意してある。


(気が利くわね……)


「――って、アーリが作ったの?」


 再び、おどろく私に彼は、


「今、料理人達は夕食の準備でいそがしいからな……」


 さも当然のように言う。気が利くけど、言葉は少し不器用なようだ。

 でも、そこが可愛かわいい気もする。


 フランがどうして、彼をそばに置くのか、少し分かった気がした。

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