第34話 まだ、終わった訳じゃない!


「きっと、師匠さんがみちびいてくれたんだよ!」「キュイ!」


 私の言葉に、お兄ちゃんとベガートはたがいに顔を見合わせる。

 そして、笑った。


 ――わふ?


(そこまで面白い事を言ったつもりは無かったのだけれど……)


「そういえば、旅をする魔術師は――」


 とベガート。師匠さんの事を思い出したのだろうか?


「弟子を二人取るのが習わしだ――と言っていたな」


 と続ける。

 そんな彼の言葉に――確かに――と兄はうなずく。そして、


「お前達は違うから良い――とも言ってくれた」


 となつかしむように言う。

 それから――おそらく――と前置きすると、


「二人なら、違う角度から物事を見る事が出来る――という意味だろうな」


 そう言って、肩をすくめた。


「そんな事さえ、忘れていたとは――」


 ベガートは苦笑すると、


「本来の立場は姫だが……このような少女に教えられているようでは、ワタシ達もまだまだのようだな」


 そう言って溜息をいた。だが兄は、


なにを言っている? 俺の大切な妹だぞ」


 と反論する。

 ベガートは――そうだったな、悪い――と言い、一呼吸置いた後、


「では、もう一度整理しよう」


 円卓テーブルに手を突く。壊れた箇所を魔術で修復すると、平らだった円卓テーブルの上になにかを浮かび上がらせた。


 形からさっするに、この大陸の地図だろう。


「戦争で国が滅び、勝った国が大国となる――そう思っていた」


 兄はその地図に魔術で線を引いて行く。国境だろう。


(それも昔の国境みたいだ……)


 そして、円卓テーブルから魔術で小石を作り出すと並べ始める。

 石の大きさは異なっていた。


(どうやら、国の規模きぼによって、石の大きさが違うみたい……)


「だが、このフェンリエル国のように……教会が動いて、国を衰退すいたいさせていたとしたらどうする?」


 兄はそう言って、今度は黒い石を配置した。

 恐らく、この黒い石が教会だろう。


「国同士のバランスが崩れる事で、戦争が起こってしまったのですね」


 とフラン。兄は黒い石に小さな石を吸収させる。

 黒い石が一回り大きくなった。更に折角せっかく引いた線の一部を消す。


 すると、私の知っている地図に近づいた。


「これも――教会が裏で手を引いていた――と考える事で納得出来るな」


 とはベガート。

 今迄いままでは【石碑せきひ】があるから、教会が管理しているのだと思っていた。


 だけど――国があるから、【石碑せきひ】も存在する――そんな考え方も出来る。

 黒い石を大きくしたのは、信者が増えたからだろうか?


「そっか、あらそいが起こると、皆の暮らしが不安定になるもんね……だから、人々は教会にすがる」


 黒い石が大きくなったのもうなずける。


「そして、聖石教会が力を付けると国が弱る」


 兄はそう言って、残っていた大きめの石を小さくした。

 大きさが黒い石と同じくらいになる。


「国土だけを見れば、大国と言えるな……」


 とはベガート。この国に居たのでは、そう見えるのだろう。

 だけど実際は違った。それを私達は見て来たのだ。


「だが、相手の国からうばうモノがなければ、戦後、国を維持する事は出来ない」


 そう言って、兄は黒い石を増やした。


「そっか……教会が『支援をする』という名目で近づいて来るのね!」


 私は言ってから、旅先で見て来た事を思い出す。


何処どこに行っても、貧富の差が大きかったよ……」「キュイ!」


 その言葉を聞いてフランは、


「外の世界は、決して平和になった訳では無いのですね……」


 と落ち込む。かつて、父が行おうとしていた山の開拓や他国との交流。

 果たして、それが正しい事なのか――分からなくなった――という表情だ。


「師匠も――正しく歴史を理解する必要がある――と常々つねづね言っていたな」


 ベガートが昔を思い出し、うなずく。

 もしかすると、師匠さんも薄々、この状況に気が付いていたのかも知れない。


「やはり、教会は世界から――いや、人間から戦う力をうばい、衰退すいたいさせているようだな」


 兄は言葉にすると、再度、石を動かし同様の作業を行った。

 ようやく、私の知っている地図になる。


 一方で、兄の言葉にフランは不安そうな表情をした。


(妹にこんな表情をさせて、教会は許せませんな!)


 ――わふん!


「わたくし達の国のように――王家が滅亡めつぼうしている――という事ですね」


 悲観ひかんするフラン。だが、


「まだ、滅んではいないだろ……」


 そう言って、アーリはフランの肩に手を乗せる。


「そうだよ!」


 私もアーリに話を合わせる。


(まだ、終わった訳じゃない!)


「それに……すべてが教会の思惑おもわく通り進んでいる訳じゃないんだろ?」


 アーリはベガートを見る。すると、


「ああ、ワタシはそれが原因でリオルのように――才能のある魔術師が増えた――と考えている」


 彼は静かに答えた。どうりで、兄の出生を気にしていた訳だ。


(それであんな質問をしていたのか……)


 この件が終われば、お兄ちゃんの故郷を訪ねてみるのもいいも知れない。最初は世界が終わってしまうような気がしていたけれど、なんとかなるような気がして来た。


ずは、この国の危機をどう脱するかだな……」


 何処どこまでも冷静な兄の所作しょさが頼もしく感じられる。


「そうだね!」「キュイ!」


 今は出来る事をすべきだ。


「この事は、他にも気付いている魔術師がいるかも知れないな……」


 後で信用の出来る魔術師には連絡しておく――そんな兄の言葉にベガートは、


「頼む」


 と一言。同時に彼は口元をゆるませた。

 弟の成長を嬉しく思う兄――といったところだろうか。


 だが、慌てて口元を押さえる。


「おっと、すまない」


 彼は謝った。そして、


「どうにも、昔を思い出してしまった」


 師匠とも、よくこういう話をしていたな――と感傷にひたる。

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