第33話 違うよ、お兄ちゃん!


 結局、ベガートは教会の人達に情報を話してしまった。

 まさか、あそこまでの被害になるとは、想像すら出来なかったという。


 祖父の時代と同じく、現国王が追放されるだけ――

 彼自身、そう聞かされていた。


「今更、後悔したところで、なにもかも遅い……」


 ベガートはそう言って、眉間みけんしわせた。

 彼はずっと、そのつみを背負い続けているのだろう。


「師匠は?」


 兄の問いに、


「亡くなった……ワタシの所為せいでな――」


 と彼は答える。十四年前の事件の夜。

 沢山たくさんの死者と多くの被害を出してしまった。


 更に師匠をうしない、彼自身も利用された事を知ったベガート。

 彼は教会の人達をなん人も手に掛けたそうだ。


 ただ、神官というだけで、殺すには十分な理由だった――とおのれの所業を語る。


(教会の上層部にも被害が出ていたのは、そういう事なんだね……)


「殺さなくても良かった命が、あったのかも知れない……」


 ベガートはくやしそうに言う。


(教会の人――その全員が、悪人という訳ではないモノね……) 


「生きていれば――救助やその後の復興に人を回せたはずだ」 


 それは、冷静になった今だから言える事だと思う。

 彼の心は、その時に、壊れてしまったのだろう。


 だが結果的に、ベガートの悪事を知る者はいなくなった。

 そして、教会の動きも沈静化する事になる。


 しかし、それは――復興のための人もお金も、時間も足りない――という状況を作る事にもつながった。


「教会の連中は粗方あらかた始末しまつしたつもりだったんだがな……」


 一部、取り残してしまったようだ――とベガート。

 その所為せいで、師匠が事件の犯人という事にされてしまった。


 更には当時、母を守る近衛騎士であった『ノイシュ・ヴォルターム』。

 彼にも、王族殺しの罪を着せる事になってしまう。


「そこは俺も調べた――対応が早過ぎる」


 恐らく、最初から仕組まれていた事だろう――と兄が言った。


「ああ、そうだな……だから、ワタシは利用する事にした」


 師匠を無罪にしたところで、教会との対立を生むだけだ。

 それよりも、師匠を悪人に仕立て上げ、自分が英雄となる。


 その方が、この国を早く立て直す事が出来るはずだ。

 ベガートはそう考えた。


「ワタシは、くるっているな……」


 彼は自嘲じちょう気味に話す。

 どう見ても、自分のした事に対して、めて欲しそうな感じがする。


「いや、合理的だ」


 と兄。どうやら、める気はないらしい。

 まるで、共犯者のような口振くちぶりである。


(一言くらい、怒ってもいいような気もするけど……)


 私はフランを見る。そんな私の動作に、不思議そうに首をかしげる彼女。

 恐らく、フランが無事なのは、ベガートが色々と手を回してくれたからだろう。


 たとえ、それが自責の念であったとしても――結果的にフランを守ってくれたのなら、いいのかな?――そんな風にも思えてしまう。


「だが、そうなってくると……一つ気になる事が出て来るな」


 とは兄。

 決して感情的にはならず、まで、冷静に状況を分析しようとする姿勢スタイル


流石さすがはお兄ちゃんだよ!)


 ――わふん!


 さっきまで、私の耳や髪をいじっていた人物と同じ人とは思えない。


「被害の規模きぼか?」


 ベガートの言葉に――ああ――と兄は肯定の言葉を返す。


「ワタシも疑問だった……」


 とベガート。続けて、


「教会の連中も――あれ程の被害は想定していなかったようだ」


 そう補足する。兄は、


「やはり、教会の裏に黒幕がた――という事か……」


 とつぶやく。私とフランはおどろき、互いに顔を見合わせる。

 だが、兄には想定内の出来事だったようだ。


 そもそも、兄は師匠のロフタルが――教会の連中に殺された――とは考えていなかったのだろう。


「でも……そうだとしたら、なにが目的なの?」「キュイ?」


 私は首をかしげる。竜を呼び出して、街を破壊させる意味が分からなくなってくる。

 教会の目的としては、傀儡かいらいの王を擁立ようりつし、国を思い通りに動かす事のはずだ。


 ――これじゃあ、ただの破壊と殺戮さつりくが目的じゃない!


 そう考えて怖くなった私の手を、フランが力強くにぎってくれた。


「被害の大きさを考えた場合、この国自体がなくなっていても不思議ではない……」


 兄はそう言いながら、あごに手を当て考える。


(いや、それが答えなんじゃないのかな?)


 私はフランと目を合わせたが、彼女も同じ考えのようだった。


 ――どうやら、同じ結論のようね!


「つまり目的は――」「王家の滅亡……」


 私の言葉に続いて、フランが答えを口にする。

 誰も否定の言葉を口にしない。


「キュイ?」


 キューイだけが呑気に鼻をヒクヒクとさせていた。


「ちょっと待って!」


 と私。なんだか話がつながってきた。

 もしかして、それはこの国だけの出来事ではないのかも知れない。


 私は兄を見る。当然、既にその考えには辿たどり着いていたのだろう。

 旅をしていた私達だから、気付く事もある。


「奴らはまた、同じ事をするだろうな――」


 兄の言葉にベガートは、


「ただの憶測でしか、なかったのだがな……」


 と悲しそうに言う。

 謎は解けたはずだが、その表情が晴れる事はない。


「現状では、そう考えるのが一番しっくりくる」


 兄も――弱ったな――という表情だ。


「どういう事ですか?」


 そう言って首をかしげるフランに、


「教会――いや、黒幕の狙いが、お前達二人という事だろう」


 アーリが答える。勿論もちろん、彼も完全に話を理解している訳ではない。

 ただ、護衛対象であるフランの危機に関しては、勘が働くようだ。


「俺達は大きな勘違いをしていた事になるな……」


 兄の言葉に、


「違うよ、お兄ちゃん!」「キュイ?」


 私は兄の手を取って言う。


「これはお兄ちゃんとベガート、二人が居たから、辿たどり着けた答えだよ……」


 ――お兄ちゃんには、なやむ顔は似合わない!


「きっと、師匠さんがみちびいてくれたんだよ!」「キュイ!」


 私はそう言って微笑ほほえんだ。

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