第32話 そういうところあるよね……


 魔術師としての素質があったベガートは、ロフタルに弟子入りする事になる。

 仲間達に見送られ、ロフタルと共に【石碑せきひ】をめぐる旅へと出た。


 その旅の途中で『魔女の図書館』と呼ばれる場所に立ちる。

 そこは女性の魔術師が多く集まる隠れ里だった。


(わふ? 聞き覚えがあるような……)


 ――思い出した!


 幼い頃、そこに住んでいた記憶がある。


(物心が付く前だから、おぼろげな記憶しかない……)


 ベガートはそこで、初めて兄と出会ったそうだ。


(わふん! そこのところ、もっと詳しく!)


 パタパタパタ――と尻尾が動く。その一方で、


「リオルはお上手ですね」


れているからな……フランも筋が良い」


 などと私の頭の上で、二人が会話している。


(ベガートの話に、興味ないのかな?)


「二人共、聞く気ないの?」「キュイ?」


 私の質問に対して、


「聞いている」「聞いてますわ」


 と二人。やけに気が合う。

 そんなに私の髪で遊ぶのが楽しいのだろうか?


(今じゃなくてもいい気がするのだけれど……)


 折角せっかくたばねた三つ編みを解く。フランは別の髪型を試すと息巻いきまいている。

 ベガートの方は淡々と話を続けるようだ。


 私はアーリを見る。

 だが彼は、護衛以外の任務で、あまり口出しする気はないらしい。


「無口で愛想のないガキだったな……」


 とはベガート。なんだか想像出来てしまう。


「そこはどうでもいいから、早く本題に入れ」


 兄はそう言うと、果物をき始めた。

 フランはなおも私の髪をいじっている。


 キューイは兄のいている果物に興味があるのか、円卓テーブルの上を落ち着かない様子でウロウロし始めた。


「お前という奴は……」


 ベガートは溜息をく。


(私は興味あったのに……)


 ――残念!


「どういう経緯で、お前があの場所に居たのかは知らないが、魔術の才能だけはあったな……」


 そんなベガートの言葉に、


なにを言っている……他に色々と優秀だぞ」


 と反論する兄――家事全般が得意だ――と胸を張った。

 皿の上に、綺麗にかれた果物が乗っている。


(一番喜んでいるのはキューイだけどね……)


 私が分けて上げると、キューイは夢中で食べ始めた。


(どうやら、お腹がいていたようね……)


 しかし、兄がいてくれたのは、私とフランの分の果物だけだ。

 アーリとベガートには、そのまま渡していた。


(お兄ちゃんって、そういうところあるよね……)


 イストルに対しても、たまに意地悪していた気がする。


「昔はそんな事を言う奴じゃなかったんだが……」


 ベガートはしみじみと言う。おどろいている――という雰囲気ではない。

 口元はゆるみ、むしろ、喜んでいる様子だった。


 そして、果物から私へと視線を移した。


(わふん?)


「クタルのおかげだな……ありがとう」


 何故なぜか、お礼を言われた。兄は、


「だから、そういうのは――」「師匠の代わりだ」


 言い掛けた言葉をベガートにさえぎられる。


「ワタシが言える立場ではないが、師匠に代わって礼を言ったのだ」


 ベガートにそう言われては、返す言葉が見付からないのか、兄は口をつぐんだ。

 彼は再び、真面目な顔をすると、


「まぁ、ワタシが言いたかったのは――」


 と続ける。ベガートが言うには、王家や貴族などの血を引く人間は魔術師としての素質があるらしい。


「つまりだ――リオルほどの才能があるという事は、もしかしたら、名のある血筋ではないかと思ったのだ」


 ベガートは語る。

 しかし、その見解に対し兄は――興味ない――という態度だった。


(私としてはすごく興味あるよ!)


 ――まぁ、言わないけどね。


 ベガートは兄が王族や貴族だった場合の事を考えているのだろうか?


(他国に干渉される事を気にしているのかな?)


 ――それとも、別の事だろうか?


「なかなか、同じ高さにそろいません……」


 とはフラン――う~ん――とうなる。

 どうやら、ツインテールに挑戦しているようだ。


 アーリだったら、もっと上手なのに――とつぶやく。

 彼の方は――余計な事は言わなくていい――そんな表情をしていた。


「お前が協力してくれるのなら、なんとかなるかも知れない」


 ベガートの言葉に、


「元々、そのつもりだ」


 と兄は返す。その態度は――自分一人でも十分だ――というようにも取れる。

 ベガートは溜息をくと、


「お前のその優秀さが、原因の一旦ではあるのだがな……」


 とつぶやいた。


「つまり、俺の優秀さに嫉妬しっとして、この国のクーデターに加担したと?」


(お兄ちゃん?)


 ――そんな追い詰めるような言い方をして大丈夫なの?


「そうなるな――」


 とはベガート。


(ほらほら、落ち込んじゃった……)


「つまり――俺にも責任がある――という事だな……」


(お兄ちゃん?)


「なら話が早い――二人共、ベガートの罪の半分は俺がかぶる」


 兄はそんな事を言い出した。この様子だと、最初からそのつもりだったのだろう。


(お兄ちゃんのカッコつけにも困ったものね……)


 一方で、かつてのベガートは、そんな兄に対し、自分の居場所を取られたような気がしていたらしい。


 私としては、比べられる兄弟が近くに居るというのは、少しうらやましい気もする。


 問題はそんな不安定な時期に――貴方はこの国の王族です――と言って近づいて来た教会の方だろう。


 どうか王位を取り戻して、自分達を助けてください――と頼まれれば、その気になってしまうのも仕方のない事だ。


 私としては、ベガートを責めるよりも、教会の遣り方にいきどおりを覚えた。

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