第31話 真面目に聞いてあげないの?


「まずはこの場の全員に謝らなければならない」


 ベガートはそう言って立ち上がると、


「すまなかった」


 彼はいきおいよく頭を下げる――そして、なんと!

 自ら作った石の円卓テーブルひたいつけるのだった。


 ――ドサッ!


 石で出来たはず円卓テーブルの一部がくずれ落ちる。

 私は最初、円卓テーブル頭突ずつきでくだいたと思い、おどろいてしまった。


 フランも同様で、口元を両手でおおっている。

 キューイも――キュイッ――と短く鳴いて、尻尾の毛を逆立てた。


 しかし、冷静に見れば、なんの事はない。

 兄が魔術で円卓テーブルの一部を土塊つちくれに変えていただけだった。


 ベガートの頭突ずつきで落ちたのは、土のかたまりだ。彼は顔を上げると――何故なぜ、自分は怪我けがをしていないのか?――と不思議そうにひたいさする。


(当事者がこれじゃあ、私達がだまされるのも無理ないよね?)


 ちょっと面白かったので、私はクスクスと笑ってしまった。一方、兄は――お前の行動などお見通しだ――と言わんばかりにベガートを見下す。


 身長はベガートの方が高い。そのため、実際には見上げる形になってしまう。

 ようやく状況を把握はあくしたのか、


「優秀な弟は、これだから困る」


 ベガートは愚痴ぐちを言った。


「お前の行動が分かりやすいだけだ」


 兄は溜息をく。そして同時に、


「一番行動を把握はあくしておきたい奴の考えが、俺にはよく分からない」


 そう言って、兄は私の頭をでた。


(わふん? もしかして、私の事かしら?)


 確かに――とアーリがうなずき、同意した気がする。

 その様子に対し、


「お前にも、分からない事があるとはな……」


 そう言って、ベガートは口元をゆるめた。


(男性だけでなにを分かり合っているのやら……)


 ――少し面白くない!


 しかし、兄はいつまで私の頭をでているつもりなのだろう?


(一向に構わないけどね……)


「で、十四年前――いったいなにがあった? やはり、師匠は……」


 兄は真剣な口調でベガートに問う。

 無意識なのだろうけど、兄のその手は、完全に私の耳で遊んでいた。


れ耳にしたり、引っ張ったり……)


 ――少しくすぐったいよ!


 フランがうらやましそうに、こちらを見詰めている。

 二人して、私の耳で遊ぶのが、そんなに楽しいのだろうか?


「原因はワタシの心の弱さだ」


 ベガートが語り始める。


(いや、その前にお兄ちゃんを注意しなくていいのかな?)


 ――大切な話じゃないの?


 彼の話によると、ベガート自身、血筋だけなら、この国の王族だったらしい。

 祖父の時代に王位争いに敗れ、祖父と父親は国を出たそうだ。


「まさか、それも教会がらみか……」


 と兄。ベガートは静かにうなずくと、


「恐らくはそうだろう……自分達に都合のいい国王を擁立ようりつするために――裏で動いていた――と考えるのが自然だ」


 と教えてくれた。

 その口調から、詳しく調べた訳ではないようだが、私はみょうに納得出来た。


(そんな昔から教会は動いていたのね……)


 ――改めて、この国に巣食う教会の厄介さに怖くなる。


 ベガートの祖父は死ぬ間際まで、王位あらそいに負けた事にこだわっていたが、幼い彼にはどうでも良い事だったらしい。


「ワタシがもう少し、祖父の言う事を真剣に聞き、気にめていれば――」


 とやむベガート。そんな彼に、


「仕方ないさ……」


 兄は声を掛ける。


(やっぱり、この二人……似てるよね?)


 そう思って、フランに目配めくばせすると――なにを勘違いしたのか、彼女は立ち上がり、私のそばに来た。


 一方、ベガートはお構いなしに話を続ける。


れてるの? この状況に……)


 ベガートの父は、祖父が亡くなった事を喜んでいたようだった。

 父親にとっては王位継承権など、どうでも良かったのだろう。


 それまで片手間でやっていた冒険者家業に本腰を入れたらしい。

 だが、それが不味まずかったようだ。あっさりと魔物に殺されてしまった。


 教会の話を聞いていたため――魔物に殺されたとよそおって暗殺されたのではないか――と勘繰かんぐってしまうのは私だけだろうか?


 ベガートの母親は、それが原因で体調をくずすようになり、早くに病気で亡くなってしまったそうだ。


「勘違いしないで欲しい……」


 とベガート。彼は――同情してもらう事で、恩情おんじょうを受ける気はない――と断る。

 そんな事よりも、私としてはお兄ちゃんとフランだ。


 何故なぜかは分からないが、くしで私の髪をかし始めたかと思えば、なにやら三つ編みにし出した。


(真面目に聞いてあげないの?)


 ベガートは更に話を続ける。


貴方あなたも注意しなさい!)


 彼は母を看取みとった後、大きな街へと一人旅出つ事にした。

 彼の育った街は裕福ではないためだ。子供一人で暮らすには危険らしい。


 辿たどり着いたその国で、彼は同じような境遇きょうぐうの子供達を集める事にした。

 そして、子供達をまとめ上げる事で、小さいながらも組織を作り上げる。


 すべてはいい方向に向かい始めた――そう思った矢先の出来事だ。

 街で流行はやり病が起こり――身寄みよりのない子供達が原因だ――とされてしまった。


 国が動いたため、ベガートもぐにつかまり、その後、病気に掛かってしまう。

 仲間共々、生きたまま、焼き殺されるところだったらしい。


 だが、旅の魔術師により、間一髪のところを助けられる。

 その魔術師こそが、師匠であるロフタルであった。

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