第23話 お昼の弁当を買った方がいいだろ


「で、お兄ちゃん……これからどうするの?」


 小男達の店を誰にも見付からないように、こっそりと出た私達。

 兄の後ろをついて行きならが質問する。


 ちなみに眷属けんぞくの子は『キューイ』と命名した。


安直あんちょくな気もするけど……)


 ――名前がないと不便ふべんだもんね!


 街の人々に見付かると――神の眷属けんぞくだ――とおどろかれてしまう。

 そのため、兄が魔術で毛の色を変えてくれた。


 こんがりキツネ色である。


(いや、焼けてはいないよ!)


 ちょっとめずらしい動物――という事で通用するだろう。


(これで私の肩に乗っていても大丈夫だね……)


 ――なんだか、そこが気に入ったみたい?


 兄はこのまま――さっさと街を出る――と思っていた。

 だが、今向かっているのは山に近い北門ではないようだ。


「山に向かう前に、お昼の弁当を買った方がいいだろ」


 と兄。確かに、私は燃費ねんぴがいい方ではない。


 ――じゃなかった……育ちざかりだ!


 それにかたいパンや干し肉、干し果物ドライフルーツでは味気ない。

 美味しそうなモノがあれば、買って行くのも悪くないだろう。


(なるほど、一理あるわね……)


 ――流石さすがはお兄ちゃんだよ!


 という訳で、着いた先は様々な商店が並ぶ通りだ。

 朝の市場から品物を仕入れてきたのだろう。


 丁度、開店準備が終わった――という様子だ。

 実際に見える訳ではないが、人々の生命力エネルギーみたいなモノを感じる。


 この分だと、お昼になれば、朝の市場よりも活気が出るだろう。

 私は少し安心した。


 ――いや、心配していた私が傲慢ごうまんなのかも知れない。


 人々は日々の暮らしを積み重ねているだけだ。


(彼らは、救いを求めているだけの人達じゃない……)


 既に商店街には、開いている店もいくつかあった。

 例えば、パンのお店だ。


 すでに朝食用のパンを買いに来る客がいなくなったのだろう。

 いや、客が持ってきたパンの生地を焼いたりもしてくれるようだ。


(大抵の客は、そっちが目当てね……)


 店主が――ボーッ――と人の流れを見ている。

 忙しい時間が終わり、一段落ついた――という感じだ。


美味おいしそうないいにおいがする……)


 ――まずはここでパンを買おう!


 種類はないが、焼き立てのパンを買えたのは有難ありがたい。

 においだけで、幸せな気分になれる。


 私はにおいと同時に息を吸い込む。

 すると今度は、何処どこからともなく、肉の焼ける美味おいしそうなにおいがした。


 なんと、肉屋の前でソーセージを焼いているではないか!


(悪魔的誘惑だよ……)


 ――私はためされているの?


 野生の本能だろうか。思わず、よだれが出そうになる。


「キュイキュイ」


 とキューイも鳴く。


 ――キミも食べたいのかね?


(仕方のない子だねぇ……)


 そんな私達の様子に――買って行こう――そう言って、お兄ちゃんは苦笑した。



 †   †   †



(思ったよりも、少し多めに買ってしまった……)


 ――まぁ、大丈夫よね!


 私は今、冒険者ギルドの建物の中に居た。

 照明をケチっているのか、えてそうしているのか、少し薄暗い店内。


 まだ、人は少ない。


(これから少しずつ、冒険者が来るのかな?)


 ――あまり依頼は無さそうだけど?


 この国は魔物が発生しない。

 あるのは、薬草の採取や国外へ行く際の護衛といったところだろう。


 ギルドの中では、飲食店が経営されていた。

 私は注文したクッキーを食べながら、果物汁ジュースを飲んで休憩きゅうけいしている。


 お兄ちゃんは用事があるらしい。


(はて? 必要な道具はすでそろえたはずだけど……)


 私は待っているように言われたので、キューイと遊んで待つ事にした。


「キミ、なかなかかしこいようね」「キュイ?」


「買い物の時も大人しかったし……」「キュイキュイ」


なに、これが食べたいの? いいけど」「キュー」


 私がクッキーの入った皿を差し出すと――カリカリカリ――と食べ始める。


(さっきは肉に反応していたけど……雑食なのかな?)


 果物汁ジュースを差し出すと、前足を器用に使い、


(まるで人間のように――とは流石さすがに出来ないか……)


 私はクッキーの皿をからにして、果物汁ジュースを注いだ。

 今度は――チロチロ――と飲み始める。


(くっ、なかなか可愛いじゃない……)


 ――なんだか、少しくやしい!


「いい、私の方が先輩よ! 私を引き立てる事を忘れちゃダメよ!」


 キューイに忠告する。すると後ろから、


「お前は動物相手になにを言っているんだ……」


 とお兄ちゃん。どうやら、あきれている様子だ。


なにって、人間社会におけるルールというモノを教えていたのよ」


 わふんっ!――と私。

 兄はなにか言いたそうにしていたが、口にはしなかった。


「それより、用事は終わったの?」


 私の質問に――ああ――と兄は答える。


「一応、ヴィーヴル山関連の依頼を確認していた」


(なるほど、向こうで冒険者と鉢合はちあわせしても面倒だもんね……)


「それと【建国祭】についても確認した」


(確か、ディオネも準備をしていたわね……)


 ――人の動きには注意しないといけない!


「一応、冒険者の方には動きがないようだ」


 お兄ちゃんの報告に、


「じゃあ、安心だね!」


 私はそう答えると立ち上がった。


 ――さあ、今度こそ、山に向けて出発だ!

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