第24話 何それ、カッコイイ!


 私達は無事、王都を出立しゅったつする事が出来た。

 相変わらず、お兄ちゃんは慎重しんちょうなようで、情報収集をおこたらない。


 山に近い北門では、小男達が出て行った事を確認していた。

 教会の連中も同じ事を質問していたようだ。


 どうやら、お兄ちゃんの読み通り、動いてくれているらしい。

 門を守っている兵士は、【建国祭】が近い所為せいか、少し浮かれている様子だった。


 こちらに向かい――気を付けて――と手を振っている。

 そんな兵士の姿が小さくなる距離まで歩くと、


「でも……いいの? お兄ちゃん――」


 と私は質問する。兄は――ああ――と短く答えた。

 王都から、北東の位置には村がある。


 いつもの兄なら、もう少し慎重しんちょうに行動するはずだ。

 一旦、その村に向かうフリをしてから、山へと向かうはずである。


「今は時間の方を優先する」


 そう言って、杖をかかげた。


(アレをやるんだね!)


 ――私の好きなヤツである。


 私の身体に風がまとわりつく。身体が軽くなったような感覚。


「キュキュキュ、キュイ?」


 おっと、キューイは初めてなのでおどろいているようだ。


「しっかり、つかまっていてね」


 私は肩に乗っていたキューイを片手で抱きかかえる。

 そして、そのまま勢いよくけ出した。


 まるで風になったかのようだ。

 軽く大地をむだけで、身体が浮き上がる。


「待ってくれ――」


 とは兄。


(おっと、いけない……)


 ――調子に乗り過ぎてしまった。


 身体能力は私の方が高い。

 そのため、本気で走ると兄は私に追い付けないのだ。


「ご、ゴメンなさい……」「キュイ……」


 何故なぜか、キューイまで一緒に謝る。


「怒ってはいない――心配しただけだ……」


「うん、ありがと!」「キュイ!」


 私はそう言って、兄の後ろをついて行く事にした。



 †   †   †



 走るのは気持ちがいい。

 山のふもとにある湖までは、ほぼ一直線だ。


 ここまでは、風の魔法で簡単に着く事が出来た。


「まだ、お昼前だね!」


 ――景色もいい!


 少し早いが森に入る前に、ここでお昼を済ませるのも悪くはない。

 私の提案に対し、


「その前に、少し息を整えさせてくれ……」


 とお兄ちゃん。同時に風の魔法の効果が切れる。

 私はもうちょっと走り回っていたかったので、少し残念だ。


「キュ、キュ」


 おや、キューイも兄と同じ意見のようだ。

 私の肩に登ると、再び首巻マフラーのように丸くなった。


 ――もう、だらしないぞ!


 まぁ、言っても仕方がない。それよりも、


(ここまで来れば、誰も居ないよね)


 私は背嚢リュックを降ろし、軽くなった身体をひねる。

 そして、頭巾フードを下ろした。


 ピコピコ――と獣耳を動かす。走った後だからだろうか。


(ここは空気が冷たくて、気持ちがいい……)


 私は両手を広げ、空を見上げる。

 今日は風が穏やかなようだ。


 湖面にはヴィーヴル山が綺麗に映っていた。


(まるで鏡のようね……)


 私が感動していると、今度は水鳥達がやって来る。


(でも、可笑おかしい……)


 ――翼をばたかせる音が聞こえない?


 よく見ると、水鳥の姿をした精霊達だった。

 キラキラと青や水色、白に輝いている。


 何故なぜか私の周りに集まり始めた。


(ちょっと、困るんですけど……)


「また、好かれたようだな……」


 とお兄ちゃん。笑ってないで助けて欲しい。

 キューイもおどろいて――キュイ――と鳴くと固まってしまった。


 兄が杖をかかげ、左右に振ると――それに反応して、水鳥の姿になっていた精霊達は空へと帰って行く。


「ふぅー、助かったよ」


 と告げる私に対し、


「興味があっただけだろう……放って置けば――その内、居なくなったさ」


 そう言って、お兄ちゃんは私の頭をでた。


 ――もう、でればいいと思ってない?


(いや、その通りなんだけど……)


 兄は一旦、その手をめると、


「もしかすると、厄介やっかいな客かも知れない」


 頭から手を離してしまう。どうやら、誰か来たようだ。

 私も頭巾フードかぶった。


(相手は二人ね――人間のよう……)


 ――確かにコレだったら、精霊の方が良かったかも?


 私は降ろした背嚢リュックを再び背負う。


(お弁当は死守だよ!)


「キュイキュイ」


 とキューイも同意する。

 心を読んだのか、お兄ちゃんが溜息をいたような気がする。


(きっと気の所為せいだよね……)


 どうやら、相手は森の方から来るようだ。

 ひらけたこの場所は、戦うには向いていない。


 早々に戻るのも手だが、私の目的は山にある。

 引き返す訳にはいかない。


 兄は杖をかざし、警戒けいかいするが、


「あ、お兄ちゃん! 待って」


 とその手を降ろしてもらう。


(このにおいって、もしかして!)


 私は再び頭巾フードを下ろした。兄はその様子に一瞬、おどろく。

 だが、やって来た二人組を目視した時点で理解してくれたようだ。


「フラン!」


 そう言って、私は銀髪の少女にる。

 何故なぜか騎士のような恰好をして、顔には仮面ドミノマスクを付けている。


 もう一方は青年で見た事はないが、においだけは覚えていた。


 ――フランの護衛の人ね!


(確か、フランは『アーリ』って呼んでいたような気がする……)


「違います、お姉様――わたくしは白百合の騎士・ホワイトリリィです!」


 と彼女は名乗った。腰には剣をたずさえている。


なにそれ、カッコイイ!」


 ――わふん!


 パタパタパタ――自然と尻尾が動いてしまう。

 それなのに、何故なぜか兄と護衛の青年は頭を手で押さえうつむいてしまった。

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