第21話 もう少し、空気読もうね
「腕を引き
お兄ちゃんに聞いてみる。
(私もそう思うけど、今は時間がないからなぁ……)
「魔術的なモノだからな――無理だろう」
とお兄ちゃんは答える。
手に持っているのは、この店の顧客名簿だろうか?
(私の耳や尻尾を切り落としても、普通の人間になれる訳じゃないもんね……)
「確かに――それが可能だったら、罪人はとっくにやってるよね……」
私が
顧客名簿を小男に見せる。
「へぇ――どうぞ、お好きに……」
彼はそう返した後、
「
と気前の良い事を言う。
「
「そうですかい」
小男は苦笑する。そんな彼に対し兄は、
「もう二度と悪事を働かない事、俺達の事は黙っている事――この二つが約束出来るのなら、
と告げる。小男は一瞬、
しかし、意味を理解したのだろう。
突然、目を見開き、
「ほ、本当ですかい?
ヒャッホーイ!――と小男は飛び上がった。
彼の変わり身の早さは、ある意味、
「約束出来るのか?」
兄が再度、確認すると、
「出来ます! します、させてください!
などと小男は言い始めた。
この状況で神様は止めてくれ――と兄は嫌そうな顔をする。
「じゃあ、早く仲間を連れて来い……」
「分かりやした!」
と報告に来た男を連れて、小男は急いで部屋を出て行く。
私は――良かったの?――とお兄ちゃんに確認する。
確かに
(約束を守るとは、
「良くはないが――人が人を信じる事で、開ける未来もあるさ」
そう言って、兄は私を抱き締めると、
「少なくとも、俺がお前の兄であるために必要な事だ」
そう教えてくれた。それって――
(私が居るから――
パタパタパタ――スカートの中で、尻尾が勝手に動く。
(ズルいよ! お兄ちゃん……)
――私はいつだって、お兄ちゃんを信じているんだから!
私には、それ以外の選択肢はない。
瞳を閉じて、唇を差し出す。身長差があるので、足は爪先立ちだ。
「キュー!」
私が抱き締めていた
苦しかった―――という訳ではないだろう。
それでも、確認しない訳にはいかない。
(わふんっ! いいところだったのに……)
――元気になったのは良かったけど。
「
私は――キュイキュイ――と鳴きながら、
(もう離れちゃうの? 残念……)
だが同時に、足音が聞こえた。
どうやら、小男が仲間を連れて戻って来たようだ。
兄は再度、約束を確認すると、彼らの
「これで山を
と兄。続けて、
「魔術の効果も絶対ではない――出来れば明日には国境を
つまり――この国にはもう戻って来られない――という事だ。
(まぁ最初から、そのつもりなんだろうけど……)
――
だが、これで彼らが、この国で悪さをする事は無くなるだろう。
兄の
(わふんっ! もっと感謝するように!)
私は腰に手を当て、胸を張った。
「お前には商才があるようだ――犯罪に手を染めなくても、皆を
そんな兄の言葉に、小男は目に涙を浮かべ、
「へいっ、この
などと
これからは、心を入れ替えて頑張りますです、はい!――と小男は付け加えた。
(私としては、そういうところが信用出来ないのだけれど……)
彼らは
どうやら、商品の多くは置いて行くようだ。
(馬車が一杯になるから、持っていけないのかな?)
不思議そうにしている私に、
「
と兄。続けて、
「高価な品物を持っていると、教会の連中が
と教えてくれる。
――なるほど!
続けて、
「高価な品物を残して置けば――先に回収を優先する
と少し呆れたように言う。
どうやら、教会の連中は相当、欲の皮が突っ張っているらしい。
「逃げるための時間稼ぎになる!――って訳だね☆」
私は納得する。
小男達は金品よりも、無事に逃げ切る事を優先したようだ。
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