第19話 君なの? 助けを呼んでいたのは?


「わぁ……」


 思わず、私は感嘆かんたんの声を上げる。

 牧歌的な暮らしもいいのだけれど、やはり、綺麗な服や装飾品には興味がある。


「気に入っていただけやしたか……」


 へっへっへ――とをする小男。

 正直――気持ち悪い――だが、


「うんっ! なにか思っていたよりも、いい感じだね!」


 私は笑顔になった。

 必要な道具の調達や値段の交渉はお兄ちゃんにまかせるとして、


「ねぇ、少し見てもいい?」


 私は確認を取る。当然、兄はうなずいた。

 また小男も――どうぞ、どうぞ――と言う。


 お兄ちゃんの相手をするよりも――私に商品を進めた方が売れる――と思ったのだろうか? 確かに、間違ってはいない。


(お兄ちゃん、私には甘いからなぁ……)


 ――やれやれだよね。


 私が自重じちょうすればそれで済む問題だけど、それとこれとは別だ。

 改めて店内を見回す。


 冒険者向けの武器や防具もあつかっているようだ。

 しかし、魔術が掛かっているモノや高価な品物は出ていない。


何処どこかに、隠しているのかな?)


 きっと、お金持っている客か、信用の出来る常連客に対してのみ、商品を見せるのだろう。私は洋服や装飾品が並べられている棚に集中する。


 すると――助けて、怖いよ、ここから出して――という声が聞こえた。

 どうやら、空耳ではなさそうだ。


頭巾フードを取れば、もっと良く聞こえるのだけれど……)


 ――そういう訳にも、いかないよね。


 私は手に取って見ていた商品を棚に戻すと、


「お兄ちゃん、ちょっと……」


 兄のそばへ行き、クイクイっとそでを引っ張り、耳打ちする。

 状況を理解したのか、兄は――困ったな――という表情を見せた。


 しかし、ぐに考えがまとまったのか、商品の確認を一旦める。


「だ、旦那だんな?」


 小男が不思議そうに首をかしげる中、兄は部屋の中央へと移動した。

 そして、杖で床を突き、なにやら集中する。


 十を数えるにも満たない時間だ。

 だが、その独特どくとく雰囲気ふんいきに、小男も固唾かたずを飲んで見守る。


「こっちだな」


 と兄。集中のため閉じていた目を開くと、迷わず部屋の壁へと向かい歩き出す。

 当然、私もついて行く。


「ちょ、ちょっと旦那だんなっ! そっちは……」


 小男の慌てた様子から、なにかあるのは間違いない。

 兄の行動をめようとした小男に、


「とんでもないモノを王都に持ち込んだな……」


 とお兄ちゃんは彼を指差し、


「早く、逃げる準備をした方がいいぞ」


 と警告する。反論はしないが、なんの事かは分かっていないようだ。

 当然、私も分かっていない。


 だが、小男は雰囲気ふんいきに飲まれたのか大人しくなった。

 兄は溜息をきつつ、壁へと杖を向ける。


 すると――ハラリッ――と壁がめくれる。

 どうやら、壁に見える様に、似せた布で通路を隠していたようだ。


 良く見れば、床の足跡あしあとが壁の向こうへと続いている。

 私はカウンターの方の扉を見た。


(なるほど、向こうの扉はダミーで、こっちが本命ね!)


 隠し通路の奥にある部屋は薄暗く、倉庫になっているようだった。

 暗いのは平気だ。高価な商品を管理しているのか、掃除が行き届いている。


 だが、獣の臭いもした。

 毛皮などではない。生きている動物の臭いだ。


「多分、それだな……」


 兄はなにやら布をかぶせられているかごの前で立ち止まった。


「そ、それは!」


 と小男。慌てて動こうとする。

 だが、兄が杖を向けて、その動きを制した。


 私はそのすきに布を取り、中身を確認する。

 かごだ――と思っていたのは、どうやらおりだったようだ。


「君なの? 助けを呼んでいたのは?」


 私はおりごと持ち上げると、中でうずくまっている小動物に声を掛けた。

 返事はない――相当、弱っているみたいだ。


 しろきつねに似たような動物。いたちにも似ているが、少し違う。


「この国の人間ではないから、知らないのかも知れないが――」


 兄はそう言いながら、杖を私の持っているおりへと向ける。

 そして、魔術で鍵を外してくれた。続けて、


「これは神の眷属けんぞくだ……早く山に返さないと、大変な事になる」


 と告げる。また、兄が言い終えるのを待っていたかのようなタイミングで、別の男が血相を変えて、部屋に転がり込んで来た。


「た、大変です! お、おかしらぁ……」


 男は――こんなところに客を入れたんですかい!――と再度、おどろいていたが、


「そんなに慌ててどうした?」


 と小男が質問すると、


「き、消えました」


 と一言。そのかんに可哀想だったので、私はおりから動物を出してあげた。

 商品を勝手に――とは言われなかったので、そのまま抱っこする。


「消えたって……いったい『何が』だ?」


 小男は再度、質問をした。

 だが、答えを聞かなくても直感で状況を理解していたのかも知れない。


 その質問は――ただの確認――のようだった。


「山に作ったアジトです!――アジトごと、仲間も全員……消えちまったんです!」

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