第18話 ほら、助けてあげないの?


 お兄ちゃんが魔術で前方の人達を一掃いっそうしたので、私は後ろの男達をひねつぶす。

 尻尾しっぽを隠すため、長めのスカートをいているので動きにくい。


 つま先立ちで、ステップを踏むように移動し、相手を翻弄ほんろうしつつ掌底しょうていたたき込む。り技が使えないのと、壁を使って飛んだり出来ないのがもどかしい。


 仕方がないので、なぐり掛かってきたり、つかみ掛かってきたり、そんな相手の力を利用し、投げ飛ばす。


(地面が石畳いしだたみじゃなくて、土だから大丈夫だよね?)


 一番がたいの大きな男をうつ伏せにし、その上に片足を乗せて組みいた。

 そして、その男の腕をつかんでひねると、


「えっと、折ってもいい?」


 私は笑顔で聞いた。ブルブルと首を左右に振る大男。

 おどしではないと分かるのだろう。当然、他の連中も動きを止める。


烙印らくいん偽装ぎそうか……」


 兄は杖で、倒れている男の烙印らくいんを突き、確認していた。

 どうやら、彼らは犯罪者のようだ。


「ふむ――烙印らくいん偽装ぎそうしてやるから、教会の言う事を聞け――とでも言われたようだな」


 男達は口籠くちごもり、反論しないところを見ると、お兄ちゃんの推理が正しいようだ。


「こうやって、使い捨ての手駒てごまを増やしていた訳か……」


 あの時、気付いて入れば――と兄はくやしそうにする。

 私と違って、お兄ちゃんは優しい。


 魔術で相手を麻痺まひさせただけのようだ。


(私もそれなりに手加減したんだよ……)


 わふんっ!――お兄ちゃんに対し、可愛らしく小首をかしげて誤魔化ごまかしてみる。

 私の足元には、完全に気を失って泡を吹いている男達が何人なんにんか倒れていた。


 怒られるのかな?――と思ったが、どうやら、私に怪我けががない事を確認しただけのようだ。お兄ちゃんは首を動かすと、


「おい、お前」


 その言葉に――ヒッ――と小柄な男がおびえる。

 どうやら、彼がこの連中のボスのようだ。


仰向あおむけで倒れている奴は、呼吸が出来ない――早く動かしてやるんだな」


 と告げる。私は――仕方がない――と組みいていた大男から離れた。


「ほら、助けてあげないの?」


 私の言葉で、ようやく状況を理解したのだろう。

 動ける連中は、倒れている仲間に肩を貸した。


「くっ、なにが目的だ!」


 と小男。腰にある刃物に手を掛けようとしている。


(いや、そっちからおそって来たんだけど……)


 私は溜息をくと、


「私達、市場に居た屋台のおじさんに紹介されてきたんだよ」


 りもせず、背後からそっと近づき、私を捕まえようする男が居た。

 私はその男の顔面にひじ打ちをお見舞いし、かさず力だけで投げ飛ばす。


(あっ!――ちょっと、やり過ぎたかも……)


 丁度、仲間を助け起こしていた連中につかる。

 ぐえっ!――と声を上げたかと思うと、折り重なるように倒れた。


 不運にも、一番下になった男は泡を吹いて、気を失ってしまったようだ。


「チッ、ガイヌスの野郎め――ろくな客を寄越よこしやがらねぇ!」


 と小男は悪態をいた。

 ガイヌスというのが屋台のおじさんの名前らしい。


 恐らく、ここの男達は外から来た人間なのだろう。

 顔の作りが、この国の人達とは少し異なっている。


「で、買い物は出来るのか?」


 兄の問いに、


「へ、へいっ!……魔術師様でしたか、人が悪い」


 小男は急に下手したてに出た。

 旅をしていた私と兄にとっては、見慣みなれた光景だ。


何処どこの国にも、同じような人間は居るモノね……)


 私があきれていると――助けて、ここから出して――そんな声が聞こえた気がした。


「どうした?」


 お兄ちゃんに言われ、


「声が――」


 と私。だが、もうなにも聞こえない。

 うんん――と首を横に振ると、


「気の所為せいかも……」


 そう言って、兄の横に並んだ。

 やっぱり、お兄ちゃんの隣は安心する。それにしても、


(空耳だったのかな?)


 私は首をかしげた。一方、


「こちらですぜ、旦那だんな! それに姉御あねご!」


 とは小男。先程までとは随分ずいぶんと態度が違う。

 見事な手のひら返しだ――としか言いようがない。


真似まねしたくはないけど……)


 ――それと姉御あねごは止めて欲しい!


 どうせ、この場限りの付き合いだろう。

 訂正するのも面倒なので、無言でついて行く。


 すると、酒場のような場所に連れて来られた。

 実際、夜は酒場なのだろう。


流石さすがに朝から飲んでいる人は居ないみたい……)


 ――また、だましてないよね?


 私が疑いの眼差まなざしを向けると、


「こ、こちらです」


 小男は慌てて、カウンターの奥へと案内してくれた。


(なるほど、本来は酒場の方から店に入るのか……)


 ――まぁ、どの道……同じような目にうのよね、きっと!


 そうなる事が経験上、予想出来た。

 基本、彼らのような人間は、自分達より弱い人間しかおそわないのだ。


 酒場の奥の隠し扉。案内され、そこをくぐる。

 すると、薄暗かった場所から、明るく開けた場所に出た。


 そこは小綺麗こぎれいな部屋で、丁寧ていねいに陳列された商品がいくつか並べられていた。

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