第14話 だからこそ、真実が知りたい


(わふん! お兄ちゃんの話はこうだよね……)


 その時期は丁度、建国祭の準備もあった。

 また、ねてより、森や山への調査も予定されていた。


 そんな事情もあり、役人達の士気は高い。

 魔術師が手伝ってくれるという事は、むしろ、歓迎されていた。


 国王であるダイナスと魔術師であるロフタル。

 二人は旧知の仲で、友人でもあった。


(でも、その事が、国と教会が対立する切欠きっかけになったみたい……)


 本来、【石碑せきひ】の維持・管理を行っているのは聖石教会である。

 その調査および研究を魔術師に委託いたくした。


 恐らく、以前より、国と教会での対立はあったのはずだ。


(お兄ちゃんの推測だと、先代の王おじいちゃんの時代から続いているみたい……)


 森を切り開き、畑を作り、食料問題を解決しようする国。それに対し、すべては神から与えられたモノであり、自然は神の領域りょういきだと主張する教会。


 確かに、以前は森や山の恵みで暮らしていけたのだろう。

 しかし、平和が続き、国民の数が増えると状況は変わる。


 国民のために動こうとする王と、自分達の権威を保つためだけに、信仰を用いる教会とでは相性が悪い。


(そのタイミングで、【石碑せきひ】の調査を旅の魔術師に一任しちゃったのか……)


 それは教会の幹部連中にとって、国への政治的影響力を失う事につながる。また、信者達にとっては――神をないがしろにされた――というがた屈辱くつじょくだったようだ。


 国王としては、国が抱える問題を少しでも解決するために――最善の策を取った――と言える。


 また、以前から教会に対して――計画や提案は何度なんども持ち上がっていた――と考えるべきだ。しかし、教会へ調査を依頼しても、一向に進展する気配は無かった。


 それどころか、管理と保護の名目で、寄付や献金だけを求められる始末。


(どうやら、お父さんは教会と完全に――決別しよう――と思っていたみたい……)


 そこへ、建国祭と重なり、国王の子供が生まれると神託しんたくがあった。

 つまり、その日は国民が総出で王都に集まり、国の重鎮じゅうちん達も城におもむく。


 教会はいち早く情報をつかむ事が出来て、また、情報の操作が可能な立場にいた。

 神託しんたくによる信憑性は薄い。


 だが、魔術師・ロフタルの占いでも、同じ結果が出たようだ。少なくとも、この時点で教会側には、事件を起こす動機と準備するだけの時間があった。


「状況証拠でしかないけどな……」


 とお兄ちゃん。平静をよそおってはいるが、くやしそうに奥歯をむ。

 もしかしたら、止める事が出来たかも知れない――その事がくやしいのだろう。


「分かりました」


 とフラン。彼女はコップを置く。

 残念ながら、お洒落なカップではない。


「信じて……くれるの?」


 私の言葉に、


「筋は通っています。むしろ、亡くなった人間の数が多過ぎます」


 彼女の言った言葉の意味が理解出来ず、私は首をかしげる。


「つまり、事件の裏で都合の悪い人間は――口封じをされた――とフランは考えていたのだろう」


 お兄ちゃんが教えてくれる。


「なるほど、事故に見せ掛けて、殺害されたのか……」


 そう口にして、私はふるえる。


なんだか、怖いよ……)


「それにしても……不思議です」


なにが?」


 妹の言葉に、私は質問する。


「教育です。失礼ですが、お姉様は真面まともな教養を持っていないと思っていました」


(まぁ、そりゃそうだろう……)


「私の先生はお兄ちゃんだからね」


 えっへん!――私が答えると、


「確かに、リオル兄様……いえ、リオルがそこまで情報を持ち、かつ状況を分析出来ている事にはおどろきです」


「でしょ!」


(妹に言われると、なんだかほこらしい!)


「ですが……それゆえに、このタイミングで戻ってきた事の理由が分かりません」


流石さすが、フランね!」


 どうやら妹は、世間知らずのお姫様ではなく、私よりも頭が良いみたいだ。


「お姉様の教師がリオルであったように、わたくしの教師はベガートでしたから……」


 その名前に、私も兄もおどろく。


「ですから、彼がそんな計画を立てるとは思えないのです……」


 妹は、口ではそう言ったが、不審に思う点もあるのだろう。

 こちらを――否定する――という雰囲気ではなかった。


むしろ、真実を知りたいのかな?)


 兄は、


「俺もそう思っている。恐らく、利用されたのだろう」


 そして、続ける。


「だからこそ、真実が知りたい」


 しかし、今の俺では奴に近づけない――とつぶやく。

 それは私が居るからだろう。


 実際、彼に近づく事は可能だ。だけど、私の存在が知られる危険がある。

 私なら大丈夫だよ――そう言おうとしたが、


「いや、私情だったな――俺が戻ってきた理由は建国祭にある」


 兄は素早く、そう切り返した。

 まるで、私がなにを言おうとしたのか、分かっていたかのようだ。


「【石碑せきひ】の力――この場合は結界を持続させるために、王族が必要だ」


(王族……それって私達の事?)


 兄の言葉に、私は彼を見詰める。


「色々と調べて分かった事だが、建国祭の日までに再契約を行う必要がある」


「それは――生贄いけにえささげる――という事でしょうか?」


 妹の言葉に――違う――と兄は首を横に振った。


「教会では、そう思っているようだがな……」


 困ったモノだ――と彼はつぶやく。

 どうやら、違うみたいだ。ホッと一安心する。


迂闊うかつに教会の言う事を否定すると、面倒だもんね!」


 と私。兄は――そうだな――と笑って、頭をでてくれる。


「実際には、お前達双子がこの湖――そして、教会にある【石碑せきひ】に触れればいい」


「【石碑せきひ】?」


 妹が首をかしげた。それもそのはずだ。

 この湖には【石碑せきひ】など無いのだから――

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