第13話 でも、これは危険です……


「紹介が遅れてすまない」


 とお兄ちゃん。妹に向かい、軽く会釈をする。


「手紙では伝えたと思うが、リオル・ルーグという――ロフタルの弟子――と言った方が分かるだろうか?」


 兄の言葉に、彼女は一瞬、険しい表情を浮かべる。


(無理もないよね……)


 この国では、兄の師匠・ロフタルさんが『黒い竜の災厄』の犯人だとされている。

 だが、妹は感情を表に出さない事にれているのか、平静をよそおい、


「わたくしはブランシュ――ブランシュ・フェンリエルです」


 と挨拶あいさつをする。そして、私を一瞥いちべつした後、


「どうか、フランとお呼びください――リオルお兄様」


 そう言ってカーテシーをする。

 流石さすがはお姫様だ。綺麗なお辞儀である。


 ――いや、そうじゃなくて!


「ちょ、ちょっとぉ!」


 と私は声を上げて、慌てて二人の間に割って入る。

 なんだか――お兄様――という響きに、急に照れ臭くなってしまう。


(いずれはそうなる予定だけど、まだ早い!)


 兄はなにかをさっしたのか、


「旅の魔術師だ――リオルで構わない」


 と返答する。


「あら? お二人は男女の仲では――」


「わーっ! わーっ!」


 私は声を上げ、両手を振り、妹の言葉をさえぎった。


(やっぱり、勘違かんちがいしていたよ……)


 ――いや、勘違かんちがいではないんだけど……。


 今は自然な関係がいい。

 意識してしまうと、普通に出来ていた事が出来なくなってしまうような気がする。


「兄妹、兄妹だから!」


 私は妹・フランではなく、自分に言い聞かせるように言う。

 自分でも、顔が真っ赤になっているのが分かる。


(説得力はないんだろうな……)


 いつもだったら――えへへ♥――となるところだ。

 しかし、今日に限ってはみょうずかしい。


(やっぱり、実の妹だからかな?)


 ――家族に知られるのは、なんだかムズムズする。


「分かりました……」


 すごく興味のありそうな雰囲気ふんいきだ。

 しかし、渋々しぶしぶといった様子で妹は納得してくれた。


 お兄ちゃんは、いまだ興奮気味の私の頭をでると、


「行き違いがあるようだから、これから順番に話す」


 ずは座ろうか――そう言って、私達を席に着くようにうながした。


「分かりました」


 妹は王宮の中でそうしているように、ゆっくりと品のある歩き方をする。

 だが――


「行こう!」


 私は彼女の手を取り、即席の椅子イス円卓テーブルに向かって歩き出す。


「あ、あの……お姉様っ!」


なに?」


 立ち止まり、振り返った私に対し、彼女は少しずかしそうに、


「その……耳と尻尾は本物でしょうか?」


 と聞いてくる。

 私は肯定する代わりに――さわってみる?――と尻尾を突き出した。


「はい♥」


 まるでその言葉を待っていたかのように即答すると、彼女は恐る恐る、私の尻尾に触れた。


(小さな手だな……でも、なにもしていない綺麗な手という訳ではなさそうね)


 ――ちょっと、くすぐったい!


 反射的に尻尾がパタパタと動く。


「わぁ、フサフサです♥」


 妹の顔を尻尾でってしまったようだが、気にしていない様子だ。

 それどころか、次第に大胆になる彼女。


 お兄ちゃんがその様子を微笑ましく見守ってくれている。


「フフフッ、本物だって分かってくれた?」


 私の言葉に、


「はい――でも、これは危険です……」


 と妹は名残なごりしそうに手を離した。


(はて? なにも危険な事などないはずだけど……)


 孤児院の子供達も、たまに――触らせて――とって来る。

 何故なぜか、お兄ちゃんが同意するようにうなずいていた。


 私達は席に着くと――これまでの経緯を互いに話し合おう――と見詰め合う。

 だが、その前に、


「口に合うといいが……」


 準備していたお茶を置いてくれる。流石さすがに貴族のお茶会のようにはいかないが、このような場所でなら、十分過ぎる持て成しだ。


 花の香りのする紅茶とナッツを生地に練り込んだ甘いクッキー。

 いつの間にか、果実を切ってくれていたようで、それを出してくれた。


(全部、私の好きなヤツだ!)


 パタパタパタ――と尻尾が勝手に動いてしまう。

 気を利かせて、準備してくれたようだ


 本当はミルクがあると最高なのだが、これ以上、贅沢ぜいたくを言ってはばちが当たる。私達が少しでも打ち解けられるようにと、その心遣こころづかいが嬉しい。


「ありがとう、お兄ちゃん!」


 そんな私の様子に、兄と妹は微笑んだ。


「さて、食べながら聞いてくれ――」


 兄はそう言って、過去の出来事を語り始める。



 †   †   †



 それは十四年前の出来事だ。


 兄とその師匠・ロフタル――そして、兄弟子のベガートの三人は【石碑せきひ】の調査のため、この国を訪れていた。


 丁度、建国際の準備もあり、ねてより計画されていた森や山の調査も同時に行われる運びとなる。


 国王であるダイナス――つまり、私達の父――と兄の師匠・ロフタルは知り合いだったらしい。


 兄達がそれを手伝うのは――自然な流れ――といえた。

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