第二章 旅立ちと再会

第15話 そういうの、要らないから……


 妹のフランと話すべき事も話したい事も、まだまだ沢山あった。

 しかし、彼女は本物のお姫様だ。


 流石さすが何時いつまでも、お城を離れる訳にはいかない。

 私は――そんな妹との別れぎわに――覚悟を決めていた。


「お兄ちゃん、私をあの山に連れて行って!」


 と『竜がまう』という山を指差した。私の突然の申し出に兄は最初、おどろいた――といっても、あまり表情は変えない――様子で、


「分かった……」


 とだけつぶやく。もしかしたら、私の行動はすでに予想済みだったのかも知れない。


「いいの?」


 言っておいてなんだが、私はあっさり了承された事に――キョトン――として目を見開く。兄は後頭部をくと、


「俺一人では、取れる手段は限られているからな……」


 少しだけ、あきらめた様子だった。兄の予想では――建国祭、または次の満月の夜に――湖に【石碑せきひ】、もしくは魔術的ななにかが現れるらしい。


 不確定要素が多いため、何度なんども――この国を見捨てよう――と考えていた。

 だが、私の容姿からして――この国と魔術的なつながりが強い事は明らかだ。


 恐らく、私が【石碑せきひ】のそばに近づいた場合、【石碑せきひ】同士の繋がりネットワークで強制的に――この国に呼び戻される――とんでいた。


 この世界では、【石碑せきひ】の影響がない場所を探す方が難しい。


 そうであるのなら、少しでも――この国の王都にある【石碑せきひ】の近くに居る事が望ましい――と兄は考えたようだ。


 さくがある――というよりは、不測の事態にそなえてという事だろう。


 私としては――ただじっと、その日が来るまで待っている――という選択はしょうに合わない。


 すべてをお兄ちゃんに任せるのは――なにか違う――と考えていた。

 だから、山へと向かう事にしたのだ。


「もし、竜が居るのなら、話をしないとね!」


 ――何故なぜ、王都を襲撃しゅうげきしたのか?


 ――どうして、街を焼き払ったのか?


 ――師匠さんはどうなったのか?


(全部、聞き出してやる!)


 意気込む私に――やれやれ――とお兄ちゃん。

 無言で私の頭を優しくでた。


 私は孤児院へと帰ると、ぐに旅の準備を始める。孤児院の皆はさびしがるだろうが、私が失敗した場合、また、あの惨劇さんげきが繰り返される可能性がある。


(それだけは、絶対にダメだ!)


 ――なんとしても、阻止そししないと!


 目指すは『竜のまう』という山だ。



 †   †   †



「クー姉、気を付けてね」


 早朝――といっても、まだ日ものぼらない暗い時間だ。

 それなのに態々わざわざ起きて、更に心配してくれるディオネ。


 血はつながっていないけど、彼女も私にとっては大切な妹だ。

 私は彼女を抱き締めたい気持ちを――グッ――とこらえる。


(また、泣き出しちゃうと困るもんね……)


「うん、行って来るね!」


 本当は、もう二度と会う事はないのかも知れない。


 ――だけど、これ以上、彼女を心配させたくはない!


 なので、私はいつも通りに振る舞うのだ。

 そんな私の様子が気に入らないのか、


「フンッ、大丈夫かよ……」


 とはイストルだ。こっちは素直じゃない。


「大丈夫だよ! お兄ちゃんも居るしね!」


 私は笑顔でサムズアップする。

 イストルは一瞬、面食らうも、


「そうだったな……」


 といつも通りの表情に戻ると、


「リオル兄、大変だろうけど頑張ってくれよな!」


 兄に対し、同情するような視線を向ける。


「そうだね――リオル兄、お姉ちゃんをよろしくね!」


 とはディオネ。


「リオル様、どうかエレノア様……いえ、クタルの事をお願いします」


 ――ナタリヤ院長まで!


(うーん……私って、そんなに信用ないのか?)


「分かった――クタルの事は任せてくれ」


 とお兄ちゃん。


(あらやだカッコイイ!)


 ――いや、違った。


「ムーッ! だから、大丈夫だよ!」


 私はそう言って、頬をふくらます。


(確かに、お兄ちゃんは信用出来るけど……)


 ――その反応は納得いかないよ!


「そうだな……ちゃんとリオル兄の言う事聞けよ」


「クー姉はやれば出来る子だよ……だからリオル兄の言う事、ちゃんと聞くんだよ」


 イストルとディオネが、二人そろって同じような事を言う。


 ――クッ……これが信頼の差というモノか!


(出発前だというのに、早々に出端でばなくじかれた気分だよ!)


「わふんっ……」


 意気阻喪そそうする私。ここでムキになってさわいでも仕方がない。

 子供達も起きてしまうだろう。


 それでは早く出る意味がない。

 空も明るくなった。どうやら、日が山から顔を出し始めたようだ。


「じゃあ、行って来る」


 と兄は背を向ける。私は、


「そうだ! お土産みやげなにがいい?」


 と聞く。名誉挽回めいよばんかいためにも、ご機嫌を取ろうと思ったのだが、


「そういうの、らないから……」


 とイストル。


「そうだよ……無事に帰って来てくれるだけでいいから!」


 とはディオネ。ナタリヤ院長は、そんな二人の様子に微笑む。


(二人共、良く出来た子達だよ……)


「分かったよ……じゃ、行って来るね!」


 私とお兄ちゃんは手を振り、孤児院を後にするのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る