第8話 お兄ちゃん、見て見て!


「お兄ちゃん、見て見て!」


 どうだ!――と私は採取した木の実や山菜を見せる。

 そして、最後に野兎を取り出した。


「凄いな」


 と言って、お兄ちゃんが優しく頭をでてくれる。


「えへへ♥」


 わおん!――と私は尻尾を振る。

 残念ながら、お兄ちゃんの方は収穫がなかったようだ。


(でも、私の魔法が効いたみたい……)


 それほど、落ち込んではいない様子だった。


「でも、これじゃ……足りないよね」


 孤児院の子供達――その全員がお腹を満たすには不十分だ。

 私の言葉に――まかせておけ――と兄は答える。


 こういう時のお兄ちゃんは頼りになる。有言実行だ。

 その帰り道、見事に野鳥を三羽、魔術で撃ち落としてくれた。


 森の獣に横取りされないように、私はそれらを急いで拾い集める。

 撃ち落とされた野鳥は、全身ボロボロだったけど、まだ息をしていた。


(ゴメンね……)


 可哀想な事をしてしまった。苦しませるのが目的ではない。

 私は首を折り、そこで命を終わらせた。


(魔術は便利だけど、こういうところは不便だよね……)


 狩りに魔術を使用しない訳である。

 ただ、大きな猪などを相手に使う分には問題ないだろう。


 馬車で旅した際、魔物退治を手伝った事もある。

 大きな魔物には炎の魔術を、素早い魔物には眠りや麻痺の魔術を使う。


 一緒に旅をした人達は、お兄ちゃんの魔術の多才さにおどろいていた。


(ドヤ!)


 また、今回は魔術の制御が得意なお兄ちゃんだからこそ、出来た事だろう。

 普通の魔術師じゃ、当てるのは難しいはずだ。


(多分、広範囲の魔術を使うモノね……)


 昔と比べると、お兄ちゃんの魔術の制御は、かなり上達している。

 子供の頃なら、きっと野鳥をミンチにしてしまっていただろう。


 それに仕留しとめても、自分で獲物を取りに行かなくてはならない。

 魔物の駆除なら魔術だけど、狩りなら弓や罠の方が効率はいいようだ。


かく、これで子供達にお土産が出来た!)


 森の出口が近づくと、兄は私に頭巾フードかぶせ、尻尾を仕舞しまうように指示する。

 だが、その前にお兄ちゃんにお尻――じゃなかった。尻尾をフリフリ。


「触る?」


 と聞く。兄は少し躊躇ちゅうちょした様子だったが、結局、断られてしまった。

 しかし、その様子が可愛い。

 

 行きと同じで、森から出る際は兄の魔術を使う。違うのは私の背中の荷物だ。

 私達は迷う事なく森を抜ける。


 兄は記憶力、私は鼻が利くので迷った事は一度もない。

 人がいない事を確認し、少しだけ気を緩める。


 後は孤児院へと帰るだけだ。特に問題はない。

 ただ、兄は心配性なところがある。孤児院が見えると、


「先に帰っていてくれ」


 と言われた。どうやら、【石碑せきひ】を点検しに行くようだ。

 十年前――黒い竜の襲撃しゅうげきにより、この国に孤児達が増えた。


 また犯罪も横行するようになり、一時期はかなり、治安が悪化したらしい。

 今ではすっかり安定したが、当時はひどかったと聞く。


 本来なら、こんな人里離れた場所に孤児院など造らないだろう。ここに孤児院がある理由としては、小さいながらも、近くに【石碑せきひ】があるおかげだ。


 どうやら、魔物以外にも犯罪者など、烙印らくいんを押された人間は【石碑せきひ】に近づく事が出来ないらしい。


 勿論もちろん、例外もあるので油断してはならい――とは兄の言葉だ。

 なにかしら――抜け道――というモノが用意されているのだろう。


 街にも犯罪者が居る場合もあるので、なにかしら方法があるはずだ。

 念のため、周囲のにおいを確認してみる。


 ――クンクン。


(うん、可笑おかしなにおいは感じられない!)


 この孤児院の周囲にも【石碑せきひ】が存在している。ただ、教会が管理する程の価値もなく、お兄ちゃんの必要としているモノでもない。


 しかし、この国は黒い竜という魔物におそわれた経験がある。

 だからこそ――人々は【石碑せきひ】を大切にしている――とも言える。


 同時に――【石碑せきひ】がある――というだけで安心出来るのだろう。

 そんな理由からか、【石碑せきひ】のそばに国がいくつか孤児院を建ててくれた。


 当時の国の見通しとしては――やがて必要なくなる――と見ていたようだ。

 しかし、十年経った今でも、孤児院が減る様子はない。


(まだ、災害の爪痕つめあとは色濃く残っているんだね……)


 私達としては、孤児院が街から離れた場所にあるので助かっている。


「皆、ただいまー!」


 扉を開け、声を上げると院長と子供達が出迎えてくれた。


『おかえりなさい!』


 と言ってくれる。なんだか尻尾がゾワゾワする。

 それにここでは、私がお姉さんなのだ。


 私は――お土産だよ!――と今日の成果を得意気に自慢するのだった。

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